第5話 10分間の質疑応答・後半 「現実世界と区別できるのか?」等
質問者:10代男性[韓国]
Q10、これがゲームなら、「セーブ」と「コンティニュー」はないのか?
A10、『Fake Earth』には、セーブもコンティニューもありません。
現実世界でみなさまが時間を止めることや過去に戻ることができないように、このゲームも一時中断とやり直しはできないシステムとなっています。
質問者:9歳以下・性別不明[カナダ]
Q11、じゃあさ、途中で「ギブアップ」ってできる?
A11、ゲームはいつでも止められるからこそ楽しめます。そのため、プレイヤーはゲーム攻略を諦めて、プレイ中にギブアップすることができます。
もしギブアップしたい場合は、ゲーム内にある公衆電話にコインを入れて、自分のプレイヤーIDの番号を押してください。
プレイヤーIDの最後の1桁を押した瞬間、みなさまは現実世界に帰還して、普段どおりの生活に戻ることができます。
ただし、ギブアップした場合は、将来参加するかもしれないプレイヤーへのネタバレを防ぐため、『Fake Earth』をプレイしていた頃の記憶を消去させてもらいます。
その点だけご注意ください。
質問者:40代男性[トルコ]
Q12、ギブアップしたプレイヤーが、ゲームにもう1度参加することはできるのかしら?
A12、大変恐縮ですが、ギブアップしたプレイヤーが、『Fake Earth』にふたたび挑戦することは認められません。
人生がやり直しできないように、このゲームもやり直しできない。
チャレンジは1回かぎりです。
質問者:10代女性[無国籍]
Q13、記憶のことだけどさ、ゲームクリアできたときはどう?
ギブアップしたプレイヤーの記憶が消されるなら、やっぱクリアした場合もゲームにいた頃の記憶は消される感じ?
A13、ゲームクリア後に、プレイデータが消えるゲームはありません。
よって、ゲームマスターを倒してクリアした場合でも、他プレイヤーのコインでゲームクリアした場合でも、みなさまはゲームで体験したことを忘れることなく、『Fake Earth』から脱出できます。
ちなみに、他プレイヤーのコインでクリアしたプレイヤーは、『Fake Earth』にふたたび参加することが認められています。
【ゲームマスターを倒す】というエンディングを迎えないかぎり、『Fake Earth』のサービスが終了することはありません。
みなさまの2周目のプレイを心よりお待ちしております。
質問者:80代女性[フランス]
Q14、ねえ、ゲーム内にチュートリアルは用意されてないの?
A14、プレイ前にルール説明と質疑応答を行っても、ゲームは実際にプレイしたときに疑問が出てくる場合があります。
そのため、運営はプレイヤーがゲーム開始から24時間以内にチュートリアルと接触できる機会を用意しています。
もちろん、「自分で考えながらプレイしたい」と感じるプレイヤーもいますので、ゲーム内のチュートリアルはスキップ可能です。
みなさまは自分のプレイ状況に応じて、チュートリアルを受けるかどうかをご判断ください。
質問者:30代男性[南アフリカ共和国]
Q15、ゲームと現実世界を区別するものはあるか?
たとえばアバターは本物の肉体より痛みの感覚が鈍いとか。
A15、みなさまの感覚は、現実世界と変わりありません。『Fake Earth』で怪我をすれば、脳から痛みを感じさせる信号が送られてきます。
大気のウィルスが体内に入れば、インフルエンザの発熱で苦しむこともあります。もし自分の手で心臓にナイフを刺せば、死ぬ瞬間の感覚を体験できるでしょう。
ただし、現実世界の肉体との相違点として、アバターの血は「シアン色」に変更されています。
これはプレイヤー同士の戦闘が「現実世界」ではなく、「ゲーム」での出来事だと認識してもらうための措置です。
質問者:20代女性[ロシア]
Q16、質問。プレイ中の「お金」はどうすればいいのでしょう?
A16、支給するスマートフォンの電子マネーを活用ください。
ゲーム開始時とプレイ時間720時間が経過するたびに、毎回100万円ずつ自動でチャージします。
このほかプレイヤーはお金を現実世界と同じ方法で稼ぐことができます。
必要に応じて、投資やギャンブルなどで、所持金を増やしてください。
質問者:30代男性[アフガニスタン]
Q17、ゲームマスターの情報を教えてくれ。
どんな姿をしているのかとか、何かヒントくらいはないのか?
A17、この質問について、みなさまが満足できる回答をすることはできません。
これは「ネタバレ防止」のためではなく、ゲームマスターの特徴を説明しても、「ノーヒント」と変わらないという意味です。
世界のどこかにいるゲームマスターは、基本的に誰かのアバターに変装しています。
そして、『Fake Earth』が現実世界を再現しているように、その変装も外見は完璧に再現しています。
場合によっては、みなさまがよく知るアバターに変装することもありますので、いかなるときも観察を怠らないようご注意ください。
質問者:20代男性[オーストラリア]
Q18、いま『Fake Earth』にいるプレイヤーは何人くらい参加しているんだ?
それからゲームオーバーになったプレイヤー、ギブアップしたプレイヤー、他人のコインでゲームクリアしたプレイヤーの人数についても答えてくれ。
A18、ご質問に対する回答は次のとおりです。
ゲームに参加中のプレイヤーは「21万9224名」。
ゲームオーバーになったプレイヤーは「108万425名」。
ギブアップしたプレイヤーは「3万7564名」。
そして、他人のコインでゲームクリアしたプレイヤーは「891名」です。
質問者:10代男性(日本)
Q19、これは「質疑応答に見せかけたルール説明の続き」か?
今この場にいる「俺以外の参加者全員」、お前たちアーカイブ社が作ったフェイクだろ?
A19、――正解です。
プレイ前のデモンストレーション、お楽しみいただけましたでしょうか?
10分間のカウントダウンは終わり、スマートフォンのアラームが鳴り響く。
画面に映る地球はすっと消えて、「『Real World』→『Fake Earth』」と文字が新しく表示された。
俺は挙げていた手を下ろす。
そして、自分の胸に手を当て、息をゆっくりと吐いた。
心臓はバクバクと鳴っている。
「生きている」感覚が、手のひらへ伝わることを確かめる。
真正面に向けていた視線を隣に移す。
18名の参加者は全員いなくなっていた。
挙げていた手の指が6本あったノルウェーの男性も、車椅子に座っていたニュージーランドの少女も、誰もかれも綺麗さっぱりと消えていた。
いったいどんな技術を利用して、アーカイブ社は人間のフェイクを生みだしたのかはわからない。
消えた参加者は全身がホログラムのように透けていなかった。
整髪料で固めた光沢のある髪型や手の甲に浮き出た血管などの質感はリアルだった。
人間として間違いなく実在しているように見えた。
――もしも参加者全員が日本人だったら、きっと俺は質疑応答が終わるまで「フェイク」に気づかなかっただろう。
本物だと思っていたものが、アーカイブ社が作った偽物だった。
今まで当たり前だと信じていたものが正しいものなのか、急にわからなくなる。
「……なあ、俺は本当にリアルに存在してるのか?」
誰もいない部屋で、俺は問いかける。
目の前のスマートフォンは、時間切れの質問には何も答えなかった。
――さて、そろそろ時間です。
これよりプレイヤーはハード機のコクーンの中に入っていただき、催眠ガスで眠りについた後、ゲームの世界に転送されます。
ゲームの参加の準備ができた場合は「Aボタン」を、家族や友人にメッセージを残したい場合は「Bボタン」を、ゲームの参加を中止したい場合は「Cボタン」を、ハード機付属のコントローラーから選択してください。
また新たな質問が思いついた場合は、チュートリアルにお尋ねください。
我々はプレイヤーが“最善”を尽くしてくれることを望んでいます。
準備はいいですか?
覚悟はできましたか?
もしものとき思い残すことはありませんか?
……それではゲームを始めましょう。
――『Fake Earth』。
みなさまの世界によく似た空間へようこそ。
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