第4話 10分間の質疑応答・前半「戦い方について」等

質問者:30代男性[イギリス]

Q1、プレイヤーの初期状態はどうなってる? 

 スタート地点、スマートフォン以外の持ち物、あとゲーム内で操作するアバターは「現実世界と同じ自分自身」って考えていいのか?


A1、プレイヤーの初期状態は、運営がランダムで決めさせていただきます。

 スタート地点も、スマートフォン以外の持ち物も、そして


 生まれるときに国や肌の色を選べないように、アバターの名前から性別・年齢・運動神経など何もかもが運によって左右されます。

 率直に言えば、ゲーム開始時、みなさまは別人に生まれ変わったことを体感するでしょう。


 ただし、当たり前のことですが、「脳」は現実世界と同じものです。

「質問するために、手を挙げよう」と思ったときに手を挙げられるように、みなさまが操作するアバターもそのアバターの能力の限界を超えない範囲で、思いどおりに動かすことができます。



 質問者:20代女性[アルゼンチン]

Q2、このゲームの戦い方を教えてください。

「『操作するアバターの年齢』もランダムで決める」ということは、老人のアバターでもゲームが成り立つように、プレイヤーのコインを奪える手段があるってことですよね?


A2、どんなアバターでも戦えるよう、このゲームには『ギア』というシステムがあります。

 支給されたスマートフォンで使えるアイテムで、おおよその仕組みはアプリと同じです。


 ちなみに『ギア』は「世界を1周する」などの一定の条件を満たすことで、新たに入手することができます。

 もちろん『Fake Earth』は現実世界を再現したゲームですので、拳銃や鉄パイプなどでも戦うことはできます。

 馴染みのある道具を使用したい方は、ゲーム内でご調達ください。



 質問者:50代男性[アメリカ]

Q3、ギアはどんなものがある?

 現実世界に存在しないんだから、もっと詳しく説明してくれないか?


A3、ゲーム開始時から使えるギアとして、《対プレイヤー用ナイフ》と《対プレイヤー用レーザー》というものを、みなさまのスマートフォンにご用意しています。


 この2つのギアは「スマートフォンの電力を『ナイフ』または『レーザー光線』に変換する機能」です。

 ホーム画面にありますアイコンを叩いて、ギア名を声に出せば、簡単に使うことができます。


 このほかのギアにつきましては、ゲームが始まってからのお楽しみです。

 ご自身の目でご確認ください。



 質問者:10代女性[ニュージーランド]

Q4、すみません。アーカイブ社の「ブラックカード」とはどういうものでしょうか?


A4、【アーカイブ社グループのサービスを無料で受ける権利が付与される】――これがアーカイブ社の発行するブラックカードの特典です。


 たとえば、一人旅で月に行くことができます。

 ミシュラン三ツ星のレストランの食事を日替わりで楽しむことができます。

 全身をハリウッド俳優そっくりに整形することができます。

 そして、「」も実現できます。


 みなさまがブラックカードを手にできれば、これからの人生で物質的な不自由を被ることはありません。

 アーカイブ社が存続するかぎりは、無期限の保証が適用されますので、お子さん、お孫さんの代までお使いください。



 質問者:20代女性[中国]

Q5、「死者を生き返らせること」、本当に実現できると信じていいんだな?


A5、はい。西暦2000年まで生存していた人間であれば、誰でも生き返らせることができます。

 肉体につきましては、病院の電子カルテデータから、記憶につきましては、みなさまや生き返らせたい人の家族の思い出などから、情報を集めて、完璧に再現することができます。

 数世紀前の絵画を復元するように、本人そのものを3日間で復活させることをお約束いたします。



――目の前のスマートフォンは、質問に中性的な声で回答する。

――淀みない話し方はAIによる自動応答のはずなのに、生身の人間が声帯を震わせて出しているような響きがあった。

――スマホ画面に映る「地球」はくるりと回り、中心の座標はスカンジナビア半島に移る。

――その半島の西岸に位置する国、「ノルウェー」が国境を縁取るように光り輝く。


――ゲームの参加者の1人、挙げていた手の指が6本ある男が口を開いた。



 質問者:40代男性[ノルウェー]

Q6、プレイヤーがゲームオーバーになったらどうなりますか? 

「現実世界に帰れない」というのは、やっぱり「死ぬ」ということでしょうか?


A6、もしプレイヤーがゲームオーバーになった場合、

 そして、アーカイブ社が作った記憶を組み込んで、『Fake Earth』のキャラクターとして寿命が尽きるまで生きてもらいます。


“第二の人生”といいましょうか。


 新たな記憶に替わったみなさまは、路上ライブからメジャーデビューを目指したり、気の合う仲間と新しい会社を立ち上げたり、愛する人と結婚式を挙げたりなど、現実世界と同じように人生を体験することができます。

 なお現実世界の肉体につきましては、こちらで「完璧」に管理させていただきます。

 これからみなさまが中に入ることになるハード機のコクーンで、1日に必要な栄養量は血液への点滴注射で摂取して、適度な運動は微弱な電気で全身を振動させる方法で行います。


 みなさまの体は、概ねゲームを始める前よりも健康な状態になりますので、ご心配なさらずにプレイしてください。



 質問者:40代女性[ガーナ]

Q7、なぜゲームオーバーになったプレイヤーを、ゲーム空間で生かしつづけるの?


A7、人間の脳のデータがほしいからです。それもできるかぎり詳細なデータを。

 みなさまもご存知のとおり、アーカイブ社は「人類の進化」を目標としています。

 生物の起源から、宇宙の果ての先まで、世界のすべての謎を解き明かすために。

 IT・医学・脳科学を中心としたあらゆる分野に注力して、全人類が種族として進化する方法を研究しています。


 長年の研究の結果、人間の四肢や内臓器官などは、赤ん坊から老人までの移植も問題ないレベルで再現できるほどに解析しました。

 しかし、「人類の進化」の鍵と考えられている脳につきましては、研究の行き届いていない部分があります。

 補足しますと、物体としての脳はすでに再現できているのですが、「脳」ならではの働き――思考のメカニズムを解明できていないのです。


 だから、数多くの脳のデータを集めて、人類共通の進化理論を見つけるために、ゲームオーバーになったプレイヤーは、その後も「人類の進化」の協力者として、ご活躍いただきます。

 とりあえず、「アーカイブ社がみなさまの命を奪うことはない」とお考えください。



 質問者:60代男性[ポルトガル]

Q8、ゲームオーバーの条件って何かな?


A8、ゲームオーバーの条件は、次の3つになります。

1.自分のコインが壊れる。

2.他プレイヤーのゲームクリア時にコインを使われる。

3.ゲーム内で死ぬ。

 みなさまの残機はたった1つしかありません。

〈任天堂のマリオ〉や〈CAPCOMのロックマン〉のように、ゲームオーバーから数秒後に復活することはありません。

 人生と同じように、1回かぎりのチャンスとなります。



 質問者:20代男性[インド]

Q9、「ゲーム内で死ぬ」ってどういうことでしょうか?


A9、簡潔に言えば、「アバターの活動が完全に停止すること」です。

 現実世界では「死んだら終わり」と考えられているように、このゲームでも高層ビルから飛び降りるなどして、アバターが生命を維持できない状態になれば、みなさまはゲームオーバーになります。


 もちろんアバターと現実世界の肉体は別物ですので、みなさまがゲーム内で死んだとしても、現実世界で死ぬことはありません。

 今後はゲームオーバーになったということで、『Fake Earth』のキャラクターとして、「人類の進化」の研究にご協力いただきます。



――10分間のカウントダウンは、残り5分に差しかかろうとしている。

――第2000期の参加者たちは、誰ひとり質問の順番を譲るつもりはないらしく、質問を終えた人を含めた全員が手を挙げつづけていた。


 俺は挙げていた手を少しだけ下げる。

 訊きたいことは山ほどあったが、ほかの参加者が気になるところを先に質問してくれるので、わざわざ自分が質問する必要はないと思い始めていた。


 ただ、このゲームの内容に関係ないところで、疑問に思うことが1つだけあった。


 俺は質問した参加者の顔を横目で見る。

 彼ら一人ひとりの国籍を思い出す。

 英語を公用語とする国からの参加者が4名、各国特有の言語を公用語とする国からの参加者が4名。

 残り1名はスペイン語を公用語とする国から参加している。

 今のところ俺と同じ日本人はいない。


――どうして世界中から来た参加者たちは「自国の言葉」ではなく、「日本語」で質問しているのだろうか?


 ほかの参加者は手を挙げつづけている。

 全員の視線はスマホ画面に釘付けになっており、一瞬たりともよそ見をする人はいなかった。

 質疑応答が日本語で行われていることに、ほかの参加者は疑問に感じていないらしい。


 。 


 画面に映る地球は、インドから極東に向かって回り始めた。


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