第3話 ある世界のルール説明

 このゲームの舞台は、現実世界を模倣した仮想空間です。

 プレイヤーのみなさまが脳で知覚する、ありとあらゆるものを、完璧に再現した世界がそこには構築されています。


 もしゲームの中で椅子に座れば、プレイヤーのみなさまは座面や背もたれの柔らかさ・硬さから、「椅子に座った」と感じることができます。

 ハンバーガーを食べたのであれば、牛肉の肉汁やバンズの食感から、「ハンバーガーを食べた」と感じることができるでしょう。

 雨に降られれば、皮膚に水滴が当たり、濡れた肌から体温が下がっていくことを実感することになります。


 この世界に存在するすべてのものは、イメージとして「存在しているように見える」のではありません。

 プレイヤーのみなさまは、皮膚や目などの感覚器官を通じて、「本当に存在している」と認識することになります。


 水や金属といった無機物から、炭水化物、タンパク質、脂肪といった有機物まで、すべての物質を原子単位で再現しています。

 太陽は毎朝、東の地平線から上がって、夕方になれば、西の地平線に沈みます。

 1年間の季節、各大陸の気候によって、日差しの強い日や霧の深い日を体験することもあるでしょう。


 これからプレイヤーのみなさまには、この現実世界によく似た世界に入っていただき、そしてそこから「脱出」するために、最善を尽くしてもらいます。


 つまり、「世界からの脱出」がゲームの目的です。



 もし〈ある条件〉を満たした上での「脱出」に成功した場合には、私たちアーカイブ社が発行する「ブラックカード」をお渡しします。


 全世界で1枚しか存在しない、唯一無二の「クリア報酬」です。


 ただし、このゲームには、「ゲームオーバー」もあります。

『大きなリターンを得るためには、それなりのリスクを背負わなければいけない』ということです。


 ゲームオーバーになると、どうなるのか。

 簡潔に言えば、


 10代から20代の頃に、将来の夢を語りあった親友とは二度と会えなくなります。

 いつかは一緒に暮らしたいと思っていた彼、あるいは彼女にも二度と会えなくなります。

 まだ年端のいかないお子さん、温かく成長を見守ってくれたご両親、家であなたの帰りを待つペットにも二度と会うことはできません。


 そのため、プレイヤーのみなさまには、1つだけお願いしたいことがございます。


 ゲームを始める前には、必ずあなたにとって大切な方へ、〝最後のあいさつ〟を済ませておくようにしてください。



 さて、イントロダクションはここまでです。

 このゲームの名前は、『Fakeフェイク Earthアース』。

 世界の表舞台に登場することのない、「偽りの地球」が舞台のゲームです。


 それでは、さっそくゲームのルール説明を始めましょう。

 まず、『Fake Earth』の世界から脱出する――ゲームクリアの方法は2つあります。



――目の前の椅子の背もたれに、1台のスマートフォンが立てかけられている。

――ゲームのルール説明中、光っている画面には「地球」が映っていた。

――鮮やかな青色の海は太陽の光で照らされている。

――薄い雲がユーラシア大陸の上空をたなびいている。


――この「地球」は宇宙空間から肉眼で直接見ているかのようなリアリティーがあった。

――今までの人生で、地球は人工衛星が撮影した写真でしか見たことがないのに、どうしてそう思うのかはわからない。

――ただ一目見たそのときから、「これは紛れもない『本物』だ」と直感的に感じた。



●脱出方法その1、【ゲームマスターを倒すこと】。

 この世界の管理者であるゲームマスターを活動停止にすることができれば、ゲームクリアです。

『Fake Earth』の世界が崩壊した直後、みなさまは現実世界に戻り、アーカイブ社の「ブラックカード」を手に入れることができます。



●脱出方法その2、【他プレイヤーが持つスマートフォンを壊すこと】。

 他プレイヤーのスマートフォンを壊して、画面の下に埋め込まれた「コイン」を手に入れる。そして、ゲームセンターの両替機に手に入れたコインを入れて、自分のプレイヤーIDを唱えれば、ゲームクリアです。


 みなさまは『Fake Earth』から脱出できます。

 ただし、この脱出方法の場合の報酬は、賞金1億円のみとなります。

 アーカイブ社の「ブラックカード」を手に入れることはできません。



 ここでいくつか注意していただきたいことがあります。



▲注意その1、【アイテム】について。

 ゲーム開始時、プレイヤーは「スマートフォン」を支給されます。SIMカードの代わりにコインが中に埋め込まれた、ゲーム専用のスマートフォンです。

 もし『コインが壊れる』あるいは『他プレイヤーのゲームクリア時にコインを使われる』など、ご自身のコインを失った状態になった場合、プレイヤーの故意・過失を問わず、ゲームオーバーになります。


 また「プレイヤーはスマートフォンと一心同体」です。わかりやすく説明すれば、「プレイヤーの心臓が動いているかぎり、スマートフォンの電池は切れない」ということです。

 しかし、逆に言えば、「」ということになりますので、くれぐれも丁重に扱ってください。



▲注意その2、【サービス終了】について。

 このゲームは、ゲームマスターが活動停止した直後、サービスは即時終了いたします。

 つまり、アーカイブ社の「ブラックカード」を手に入れることができるプレイヤーは、ゲームマスターを活動停止にした1名のみということです。


 なおサービス終了時には、ゲーム内のプレイヤーは1人残らず現実世界へ強制転送します。

 世にある多くのオンラインゲームのように、半永久的に存続することを目指していません。

 あらかじめご了承ください。



 ゲームのルール説明は以上です。

 どのようにゲームを攻略するのかは、プレイヤーのみなさまのご判断にお任せいたしますので、ご自由にプレイしてください。


 では、ゲームを始める前に、質疑応答の時間を10分間設けます。

 質問はありますか、記念すべき第2000期の選ばれし挑戦者のみなさま?


――目の前のスマートフォンは、10分間のカウントダウンを始める。

――俺を含む19名が1秒も経たないうちに手を挙げた。

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