我が社の面接受けに来る奴まともな奴が居ないんだが!?

@smallwolf

第1話 僕の知らない世界

 今日は我が社の面接最終日……



 面接担当である僕はふさわしい人物を選出しなければならないのだが――



「では面接を始めます」

「はい!」

「当社を志望した理由をお教えください」

「御社の企業理念に共感しました!」

「どのあたりに共感しましたか?」



「………………………………」

「………………………………」


 少しの間、静寂が場を支配する。


「共感……しました……」

「……ちなみに……当社の企業理念ご存じですか?」



「………………………………」

「………………………………」


 再び訪れる静寂。

 尋ねられた男は目をカッと見開き、答えた。



「早寝早起きです!!」

「帰れぇ!!」



 僕は本日三人目の面接者を追い返す。誰も居ない事を確認した僕はデスクの上に突っ伏し――



「まともな奴が……来ない!!!」



 と、誰にも届かぬ思いを吐き出す。 



「今日だけじゃない!! 昨日も……一昨日もだ!! 今年の学生どうなってんだ!?」



 昨日も――



「自己PRをお願いします」


 と、学生さんに自己PRをお願いしたら、


「自己PRなど要らぬ! 漢は背中で全てを語る!!!」



 などと言われたのだ。ちなみにいい事言ったみたいな感じでドヤ顔していたのもイラっときた。もちろん不採用だ。


「今日まともな奴来なかったらまた社長に色々言われるよ……はぁ……」


 これで全員不採用にしたら『お前は人を見る目がないか人に求めるハードルが高すぎるんだ! 私が若いころはうんたらかんたら――』と社長に言われるだろうし、まともでない奴を採用にしても『なんであんな人材を採用したんだ!? お前が選んだんだから最後まで面倒を見ろよ!? まったく、お前には人を見る目がない。私か若いころだったらうんたらかんたら――』と課長に言われるだろう。



「いや……まだだ。今日はまだ二人残っているんだ。最後まで希望を捨てちゃいけない。大丈夫。今まで変な人材しか来ていないんだ。さすがに次くらいはまともな人材が来てくれるさ」


 そう言って自分で自分を励ます。もうこの際ある程度まともな人間であれば即採用でいいんじゃないかとすら思ってしまうのは内緒だ。




「次の方どう――」



「頼もう!!!!!」




 は?




 2メートル強の巨漢の男が扉をすごい勢いで開けて入ってきた!?



「ふん!!」



 しかも何も言われないまま椅子に座っちゃったよ!? ええ!?



「我はダニエル・デエストポリス・コレダディッチである!!!!!」





 ……だれだよ!?

 手元の履歴書を見てみる。



 秋元(あきもと) 省吾(しょうご)君の履歴書だ。顔写真も普通の男子にしか見えない。


 改めて前を見る。

 二メートル強の巨漢の男がなんか意味わからん名前を言ってる……念のため、目の前の巨漢の人物が今日の面接希望者なのかと確認してみたのだが、やはりそんな事はないらしい。当たり前と言えば当たり前か。



「あの……失礼ですが部屋とか間違っていませんか? こちらは株式会社ライバーなのですが……」

「うむ! 相違ない! 我はここの会社を志望しているぞ!!」

「いやあの、手元にあなたの履歴書が無いのですが……」

「馬鹿な!? 秋元 省吾の名で提出したはずだぞ!?」



 え゛?



「あーはい、秋元君の履歴書なら確かに手元にありますが……あなたは秋元君じゃ無いですよね?」

「いや、それは我だな」



 ……え?



「いやいや、ご冗談を……顔も名前も全然違うじゃないですか」



「顔は最近修業をしておったからな……その研鑽の賜物だろう。名前はついこの前元服したのでな。秋元は我の前の名前で今はダニエル・デエストポリス・コレダディッチと名乗っている」



 元服(げんぷく)!?

 この平成の世で!?元服??

 もうどこから突っ込んだらいいのか分からないよチクショウ!!



「えー……何か身分を証明するものはありますか?」



「身分だと? あいにく今はこれぐらいしか証明できるものは無いが……」



 秋元君……もといダニエル君? は財布からカードを取り出してこちらに渡してくる。



[麻薬密売人検定5段 秋元 省吾 麻薬密売許可証]



 ――――――


 確かに……秋元君の名だ……

 履歴書の写真ともすこし変化してるが……一致する。



 けどさあ!! 麻薬密売人ってなに!?



「えーと……その……こちらの麻薬密売許可証というのは――」



「我の副業だ。親父殿から勧められてな」




 副業ってなんだよ!! もうそれで働いて行けよ!! てかこんな普通の企業に来んなよ!!


 そもそも許可証ってなんだよ!! 許可なんてどこにも降りてないよ!!



「あの……失礼ですが麻薬の販売は法律で禁じられているはずなんですけどそれは……」



「国にばれなければよいだけだろう! この許可証は日本麻薬取り扱い協会が発行した物だ! 半端者に勝手されてはたまらんからな!!」



 日本麻薬取り扱い協会!? 初めて聞いた!? 僕の知らない世界が眼前にあるよこの野郎!!



「えーっと……私に色々ばらしちゃってますよね? それは問題ないんですか?」



「それは仕方ない。貴殿は未来の我が上司だからな! 隠し事など出来ぬ!」



 未来の上司!? もう受かる前提なの!?

 こっちはもう落とす落とさないじゃなくて通報する事を考えてるよ!?



「まあもし貴様が我の上司にならないというのであれば……」



 ダニエル君が部屋を出る――いったい何だ?




「貴様を生かしておけんがな!」



 なんという事でしょう……ダニエル君は両手にマシンガンを二丁揃えてやって来たではありませんか。

 そしてその銃口はきっちり僕に向けられている。これは断った瞬間ゲームオーバーになる流れだろう。



「……モデルガン……ですよね?」



 期待をこめて聞いてみる。 



「安心しろ。本物だ」

「あぁ、本物なんですねー」

「あぁ、本物だ。しかも消音性に優れている。ここで貴殿を殺ってもしばらく騒ぎにはならんだろうよ」

「なら安心ですねー。あっはっはっはっは」

「その通りだとも。くくくくくく、ははははははははは」



「「はっはっはっはっはっはっはっは」」





 ……………………………………………………




「ダニエル君採用です! 文句なしで完全採用です!! おめでとうございます!」

「うむ! 貴殿とは気が合いそうだ! これからもよろしく頼むぞ!!」




 僕の肩をバンバン叩いたダニエル君はそう言って去っていった。




 ……………………………………………………




「もうホントになんなんだよぉ!!」



 僕は机に突っ伏し、



「あんなの合格にするしかないじゃん!? 脅迫じゃん!? あれとまた顔合わせるとか嫌なんだけど!? もうこの会社辞める!! 絶対に……絶対だ!!」



 そう愚痴を言ってるとドアをノックする音――そういえばあと一人残ってたんだっけ。

 もう会社を辞めると決めた以上、まともな内定者を出す必要もない訳だが……まぁ振られた仕事くらいは最後までこなそう。



「次の方どうぞ」

「失礼します」




 そう言って少女が入室してきた。

 ドアをゆっくり閉め、こちらに礼をして椅子の横まで歩いてくる。



「どうぞ、座って下さい」

「はい」



 そう言って少女は座る。すごい……まともだ……やっとまともな子が来た。

 普通に礼儀正しくしてくれる。たったそれだけの事しか少女はしていないけれど、それだけで僕は感動を覚えていた。もうこの時点で合格にしてもいいと思えるくらいだ。

 履歴書に目を落とす。黒川 廻(クロカワ メグリ)、黒髪が似合う少女だ。真面目な委員長タイプかな。




 そこから会社の出身校や名前、志望理由なども話してもらい、順調に進んだ。次は――



「えー、それでは自己PRをお願いします」

「分かりました!自己PRって自分の魅力を相手に知ってもらうための物ですよね?」



「まあ――そうですね」



 おや? 初めてなのかな?



「では」



 黒川さんはその場で立ち上がり脱ぎだす……って脱ぎだす!?



「何やってんの!?」

「自己PRです」

「どこが!?」



「私の魅力をアピールするなら体を味わってもらうのが一番だという完ぺきな考えです。女の武器は体だってじっちゃんが言ってました」



 おいじっちゃん!! 何言ってくれてんの!?



「あなたも男ですしこれが合格への近道だと私は確信しています。先ほどから私の体をジロジロと見ていましたし」



「――みみみ……みてねえし!! ほ、ほんとだし!!」



 自分で言ってて説得力ゼロである。



「とにかく! 自分を大切にしてください!! 常識で考えれば分かることですよ??」



「常識は投げ捨てるものだと両親から教わりました」



 おいこら両親、何考えてるんだ。娘さんが大変なことになってんぞ。



「自己PRというのは自分の良い所を言葉にして相手に伝えることですよ! さぁ! どうぞ!!」



「言葉だけじゃ……伝わらないものもありますよ……」

「何良いこと言ったみたいにどや顔してんの!? 使う場所間違ってるからね!? 言葉にしなきゃ伝わらないですよもおおおおおおおおお!!!」


 ダメだ!! まともに見えてたこの子も中身がダメすぎる!! なんでこんなおかしい人材しか来ないんだこの会社ぁぁぁ!!


「そんなに騒いで――あ、やっぱり興奮してるんですか? 一発やっときます??」


 スカートぴらぴらさせてくる黒川さん……


「ぜひお願いします」


 ――――――ハッ! しまった!? 図られた!?



「こほん。失礼。そんな事しませんよ。それとこちらは社会人として生きる自分からの忠告です。あなたも女性なら恥じらいくらい持った方がいいと思いますよ?」


 咳払いと共に自分を落ち着かせる。ダメだ! 気を取られるな! あの見えそうで見えない絶対領域だったり、ちょっと見る角度を変えれば見えてしまいそうな胸元だったりに気を取られちゃいけない! 僕は紳士だ! ジェントルマンだ! そう言い聞かせるんだ!!


「恥じらいはへその緒と共にお母さんの中に捨ててきました」



「置くな!!! それ人として捨てちゃいけないものだから!!!」



「でも童貞は早めに捨てた方がいいと思いますよ? 人として」

「やかましいわ!! そ、そ、それに童貞じゃねぇし。ホントだし!!」

「えい」


 ピラリとスカートをめくってみせる黒川さん。


「――――――黒か………………ハッ!? しまった!? 図られた!?」

「やっぱりヤっときます? 私が優しく筆おろししてあげますよ? 童貞さん?」

「うるせぇ!! とりあえず自己PRを済ませるんだよぉ!! ほら早く!! この話終わり! 終了!!」


 くそぅ、童貞で悪いかコンチクショウ!! 童貞なめんな!!



「はあ……分かりましたよ。しかたないですねえ」



 黒川さんが呆れた目でこちらを見てくる。え? なに? 僕がおかしいの?



「私の魅力的なところは――目的の為ならばどんな手段でも取る事です! 過去のマラソン大会では一位を取るために私以外の参加者全員に毒を盛って見事一位を取ることが出来ました!!」



 ……毒?



「えーと……一つ聞きたいんですけど――本日黒川さんはこちらの会社から合格がもらえなかった場合どうしますか?」

「受かるので大丈夫です!!」




「いや、そうじゃなくて! 自分が不合格にしたら受からないんですよ? その場合どうしますか? って話です!!」

「その時はあなたを排除して新たな面接官を用意するだけです!」




 はい……じょ? 



「ちなみにどうやって自分を排除するんですか?」

「それに関しては大丈夫です。今、あなたの周りには私の用意したピアノ線が張り巡らされています。私がその気になればあなたを即排除できるので、何も問題はありません」




 大丈夫じゃねええええええええええええええええええ!!!!!!!




「あ。はい……黒川さん……合格です……」



「ありがとうございます。あ、ピアノ線は回収しときますね?」



 そう言って黒川さんはスキップしながら外へ出て行った。





 ――よし! 逃げよう!

 もう退職手続きがどうのとか言ってる場合じゃない! 一刻も早くこの場、いや、この会社から逃げよう! じゃないと僕の人生そのものが終わりかねない!!




 そうして僕は会社から逃げた。

 あんな危険人物二人が入社する会社になんて居られるか!

 実家に帰ってのんびり過ごさせてもらうよ!!






 その後、その会社が新入社員二人によって猛スピードで発展していったのはまた別のお話。

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