第6話 夕暮れは違う色

「おかえり。今日はヨウの好きなオムライスだって」


 部屋に帰り着いたのは夕暮れ時であった。

 いつもだったらこの時間の帰宅は開口一番帰りが遅いとジニアに言われるのに、今日は迎えるなりそそくさとかけていく。


「さっき昔の友人が僕に会いに来たよ」


 前を行くジニアの体がびくっとゆれた。思わずふっと笑ってしまう。本当に隠し事ひとつできないんだから。

 ここまで過剰反応されるとさ


 ――さっきのやりとりをどこかでずっと見ていたって言っているようなもんだよ。


「心配しないで。僕はどこにも行かないから」

 

ジニアはおずおずと振り返り、バツの悪い顔をしてうつむいた。


「のぞき見るような真似してごめん……でも一緒にいってもよかったんだよ。痕跡は雑に消されているだけだからそれを辿ればいい。今からでも間に合うよ。ヨウが望むなら、俺が送り届ける」


「いいよ。僕は自分の意志でここにいるって決めたんだ」


「帰りたくないの? 折角ここまで迎えにきてくれたのに? 俺なら平気だよ。以前に較べれば、多少成長しているから血への欲求はちょっとはコントロールはできるようになっている。ヨウ以外の血でも、前みたいに物足りなくて干からびるまで血を吸うことなんてないと思う。いつかヨウが人の側へ戻るかもしれない、いつまでも甘えていられないって思っていた。……もうちょっと先のことだって思っていたけれど」


 言葉とは裏腹に今にも泣き出しそうなジニアを慰めようと体をそっと抱きしめた。


「僕はジニアのそばがいい」


 ジニアは息を呑み、安心したようにため息をつき抱き返してきた。

 

「ありがとう、ヨウ」


 人に較べて低い体温。ゆっくりな鼓動。まだ羽化に至らない未熟な体。ジニアの真摯な思い。

 全てが愛おしかった。 


「血を吸って欲しいな」

 

 己の存在意義を確かめたくて、ぽつりと言葉が漏れた。

 

「ダメだよ、今日吸ったばかりでしょう。ヨウの身体に負担をなるべくかけたくない」

「……けち」

「けちは酷いな。これでも吸いたくてたまらないのを我慢しているんだよ。でも、かわりに、その……」


 ジニアは顔を離し、おずおずと申し出た。


「その……涙……なめていい?」

「え……?」


 一体なんのこと? と思い頬に触れ、泣いていることに気づいた。

 拒絶して切り捨てたのは僕なのになんと勝手なんだろう。


「いいよ、なめても」

「ありがとう」 


 ちゅっと音をたててジニアは頬を吸う。


「おいしいよ、ヨウ」


 くすぐったい、と思うけれど彼の満足そうな顔を見ていると、しょうがないなって許してしまう。

 

 だって僕はジニアのごはんなのだから。

 

 

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