一風変わったポストアポカリプス的世界における、その風景を描き出した旅行記とでも言うべき作品。
大きな魅力は2つ、世界を取り巻く情景の現実感を伴った細かな描写、
そして主人公シィーと相棒エルの軽快なやり取りです。
舞台となる世界はポストアポカリプスの例にもれず、我々の世界とは大きな隔たりを前提に組み上げられています。
そこはただ殺伐としているわけでもなく、ただ穏やかなだけでもなく、
街とそこに暮らしている人々にある普段の情景が親しみやすい形で描かれます。
役人・定食屋・工事現場の作業員…といった人々とのやりとりは、舞台も境遇も現代とはまるで違うのに、ああいるいると思わせられる生活感が伴っています。
そして、記憶人であるシィーはその街の光景に深く立ち入ったり、状況を変えようとはしません。
あくまでも記憶をすることが目的と、淡々と状況を理解していくシィーとは対象的に、
相棒の黒猫エルはややシニカルな視点で、
時には狂言回しとして、時には読者の疑問に答えるために言葉を投げかけます。
それに対するシィーのある種の達観した切り返しが爽快で、
独特のテンポでもってこの世界の謎や習俗を描き出してくれます。
この作品がどのような結末を迎えるのかはまだわかりませんが、
ともあれこの情景と掛け合いは長く見ていたいと思わせるのに十分な魅力と言えるでしょう。