3.5 大月風花は嘆息する
×××
「全然褒めてないんだけどなぁ……」
ポニーテールを犬の尻尾のように揺らして駆け去っていく親友の背中に、大月風花は静かに嘆息した。
彼女の親友は決して頭は悪くないが、人の言葉を字義通りか、あるいは非常にポジティブな解釈しかできない。
(おかげで、親友は国語の小説文の点数だけが恐ろしく悪い。登場人物のセリフを、全て極めて好意的に解釈してしまうせいだ。彼女の頭の中ではカンダタもお人好しだし、エーミールと主人公も気が合う仲良し同士である。凄まじい)
大月風花としては、いま親友から聞いた「昨日の先輩と親友のやりとり」を冷静に解釈すると、先輩の言動からは、『面倒なことを言って煙に巻いて、とりあえず追い払おう』という意図しか感じられなかった。というか、自分がもし今後そういう言動をするとしたら、そういう意図でしかない。
つまり、先輩の心情を一般的に解釈すれば、「もう二度と来んな」なのではないか? 親友が今からやろうとしていることは無駄で、先輩を更に呆れさせるだけなのではないか?
大月風花はそう悩んで、ハイテンションな親友を、何度か止めようと口を開いて──……
「……いやまぁ、そんな事する先輩には思えないから、よくわかんないんだけど」
そんな疑問が湧いてきて、結局止めそびれた。
親友が話す『猫先輩』は、どうにも自分の記憶にあるその先輩の姿と乖離していて、毎回頭いっぱいにはてなが浮かぶ。
……まあ、いっか。
あの子が、今この瞬間、楽しそうならそれでいいんだ。
結局渡し直してしまった5円チョコのパッケージを眺めると、5円チョコに手足が生えたマスコットキャラクターが、「ごえんがあるよ!」と陽気な顔で笑っている。
最初は「フラれても、きっと次も新しいご縁があるよ」という意味で渡したチョコだったが、まあ、今の親友にとっても「ご縁がある」は良い意味だろう。多分。
ついでに飲み終わったいちご牛乳パックをきゅっきゅと潰しつつ、なんだかんだ言って親友のことが可愛くてしょうがない大月風花は、もう一度小さく嘆息してから呟いた。
「でも、いちご牛乳も、どっちかというとのど渇くタイプの飲み物だと思うんだけどなぁ……」
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