花と緑の電車
雨世界
1 お花。好きですか?
花と緑の電車
プロローグ
お花。好きですか?
本編
綺麗な花を咲かせましょう。
小さな電車の中に、膝の上に緑色の芽が生えている白い鉢植えを持った小学生くらいの男の子と女の子が並んで一緒に座っていた。
男の子がその膝の上に鉢植えを持っていて、女の子は白い大きなバックをその膝の上に置いていた。男の子はじっと、その鉢植えの中にある緑色の小さな芽を見ていた。女の子は隣の席から、男の子と同じように、鉢植えの中にある緑色の小さな芽に、その大きな目をじっと、飽きることなく向けていた。
「どんな花が咲くのかな?」
「わかんない。でも、たぶんすごく綺麗な花だよ。きっとね」
男の子と女の子はそんな話を小声でしていた。
私はそんな二人の子供のいる風景を男の子と女の子の座っている席の向かいの席から、二人に気づかれないようにして、ときどき、視線を二人に向けながら、好奇心に負けてしまって、観察したりしていた。
男の子と女の子はどうやら小学校の植物係についている生徒のようで、(そんな話を二人はしていた)男の子が手に持っている鉢植えは、先生から頼まれて、二人が頑張って世話をしている植物であることがわかった。
「お花咲いたら、みんな喜んでくれるかな?」女の子が言う。
「もちろん。みんな、きっと喜んでくれるよ」にっこりと笑って、男の子が言った。
静かな乗客の少ない小さな電車の中で、そんな微笑ましい風景を見つけて、私はなんだか、すごく心が清らかな気持ちになっていくのを感じた。こんな気持ちを感じたのは、本当に久しぶりのことだった。
電車の窓の外には、暖かな太陽の日差しと、青色の春の空と、ビルの多く見える都市の風景が広がっていた。
私は、少しの間、目を閉じて、心の中で広大な緑色の草原の広がる、風景を想像してみた。
そこにはきっと、暖かで、そして、すごく眠たくなるような、そんな気持ちのいい風が吹いているはずだった。
本当にそんな場所で居眠りをすることができたら、どんなに幸せなことだろうと思った。
「あ、駅に着いたよ」女の子が言った。
「うん。降りよう」男の子が言った。
そして二人の小学生くらいの男の子と女の子は慎重な手つきで小さな緑色の芽の生えている鉢植えを持って、二人で一緒に、その体をしっかりと寄せないながら、二人が世界の中ではぐれないように、しっかりと手をつないで、電車の中から降りて行った。
子供たちがいなくなると、小さな電車の中の風景はいつもの朝の風景と同じになった。
先ほどの幸せな風景は、あの電車から降りて行った男の子と女の子(そして、きっとあの鉢植えに生えていた緑色の芽)が作り出していた風景だったのだと思った。
私はいつもの駅に到着すると、いつものように電車から降りて、会社に向かった。
いつもの朝。
いつもの時間。
いつもの風景。
……そして、いつもの私。
でも、そこにいたのは、いつもの私ではなかった。私は、幸せな気分になっていた。
私は、昨日までの私ではない、違う私になっていた。
それはきっと、あの男の子と女の子のおかげだと思った。
ありがとう。君たちのおかげで私は救われました。と心の中で私は言った。それから私は、あの鉢植えの中にある小さな緑色の芽がきちんと花を咲かせることを本当に心から願った。(それはきっと、世界でも一番、綺麗な花を咲かせるはずだから)
そして、その花を見て、目を輝かせるあの男の子と女の子の顔を想像した。
そして私はにっこりと笑って、青色の空の中に輝く太陽の光を、目を細めながら、少しの間、見つめて、それから足早に、いつもの道を歩いて、いつもの自分の会社に向かって、アスファルトの道の上を歩き始めた。
私は思わず、なんだかスキップでもしたい気分になっていた。
(久しぶりに歌いたい、踊りたいと思っていたのだ)
その日の帰り道、私は花屋で花を買った。
花と緑の電車 終わり
花と緑の電車 雨世界 @amesekai
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