金の斧と銀の斧
カーン、カーン
山奥の泉のほとりで、木こりの兄弟が木を切っています。実はこの兄弟、不動産関係で一山当てていて、一生遊んで暮らせるほどの富を築き上げているんです。そして遊ぶことにも飽きた彼らは特に意味もなく金と銀で斧を作り、気でも狂ったかのようにカンカンと木を切っているわけです。人間、暇を持て余すと何をするかわかったものではありません。
カーン、カーン
「弟よ、どうだ。順調かい」
「順調なわけがあるか。木を切るどころか斧の方がダメになってきやがった。そっちの金の斧を貸してくれないか」
「馬鹿野郎こっちだって同じだよ」
カーン、カーン
その時です。兄が金の斧をうっかり手から離してしまいました。随分と振りかぶっていたものですから斧は放物線を描いて遠くに飛んでいき、泉のすぐ近くに落ちました。
カーン
「や、大変だあんな所まで飛んでいきやがった」
「どうした、兄貴」
「ついうっかり斧を飛ばしちまってな。危うく泉に落とす所だった」
「おいおい勘弁してくれよ、あんなでもそこいらの人間の年収くらいの値段がするんだぞ」
「わかってるさ、とってくる」
カーン
すると今度は弟も斧を誤って放り投げてしまったのです。銀の斧は金の斧のすぐ近くに落ちました。
ドサッ
「おいおいお前だって放り投げてるじゃあねぇか」
「いやすまない、ムキになって力を入れすぎちまった。とりあえず取りに行くか」
ブクブクブク
兄弟が泉に近づいたその時、なんと泉から女が一人這い出てくるではありませんか。その女は両方の斧を掴むと泉に持って帰ろうとします。驚いたその兄弟、持っていかれてなるものかと急いで駆けつけ何とか片方ずつ斧にしがみつきました。
ズザザザ
「おい、貴様。俺達の大切な斧になにをする」
「離せ離せ、この斧にいくらかかったと思っているんだ」
「ええいうるさい、こちとら正直者が来る度にその馬鹿高い斧をくれてやってるんだ。こんな機会逃してたまるか」
ズザザザ
女の力は存外強く、少しずつ少しずつ二人は泉に引っ張られます。やがてついに女は泉に戻り、二人はたまらず手を離してしまいました。
まぁ要するに私が言いたいのは、神様だって慈善事業じゃないんだから頼むばっかりじゃなくていたわってあげましょうと。そういう事なのです。
完
掃き溜めの塵 @yukkurisensei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。掃き溜めの塵の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます