異世界転生スレイヤー

春槻航真

それはとある王国のお話

 目を覚ましたらこの世界にいた。トラックで轢かれるなんてベタな死に方をしたお陰だろうが、僕はこの世界に転生することができた。生まれ持った才能をふんだんに使いまくり、今となっては一国の王である。


 僕の日常はメイドのリリィが寝ている僕の肩を叩いてくれることで始まる。


「本日は一回で起きてくださったのですね。偉いですよ」


 リリィはそう言いながら綺麗に畳まれた着替えをテーブルに置いて、三重のカーテンをさっと開けた。僕はメイド補助の2人に連れられて、顔を洗ってもらい、歯を磨いてもらう。髪の毛のセットはリリィの仕事だ。


「たまにはさ、君に身体を洗って欲しいものだね。その豊満な胸で」


 そんな冗談を飛ばしたら、リリィは顔を赤らめてそっぽを向いた。ぷるんと揺れた胸が少し背中にあたりつつも、手元だけは狂っていなかった。そうして3人がかりで、朝の公務までお世話されるのだ。これも王様の特権、というやつだろう。


 朝ごはんは一流のシェフが好みの日本食を作ってくれる。運んでくるのはリリィだから、むさ苦しい男の顔を見る必要がない。それだけでも嬉しいのに、更にお嫁さんと食べられるのだから更に素晴らしい。


「今日もお寿司が美味しいね!」


 妻のアリアがそう言いつつサーモンを食べていた。


「今日のお仕事は何しとうとー?」


 妻のメイリアはそう言いつつイカを頬張っていた。


「午前中は書類整理、午後からは市井の調査、このように聞き及んでおりますが」


 妻のルミは好物のカッパ巻きへ手を伸ばしていた。


「ねえ、王子様、今日は公務じゃなくて私と火遊びするのはどうかしら?」


 妻のレイネはもう十分食したらしく、谷間をアピールしながら僕に食指を伸ばしていた。


 ん?どうしたんだい?何かおかしいことでもあったかな?あー、確かにおかしいって思ったかもね。妻が4人なんて、どういうことなのかって。でも、僕はこの世界で王様になった。そして王様たるもの、妻が1人だなんてあり得ないだろう。


 でも勘違いしてもらっては困る。彼女達は僕を尊敬し、僕にプロポーズしてきたのだ。だから僕は、1人を断るなんてできないと思い、全員を妻にしたのだ。みんな等しく、僕のお嫁さんだ。誰が上とか、誰が下とかない。とても平和な家族関係だ。理想的だろ?僕にとっても、彼女達にとってもね。







 午前中は書類整理。といっても殆どの業務は執行官にやらせているから、僕はただお菓子を食べて雑談をしながら判子を押すだけだ。しかしながらこの日は、看過できない内容があったので秘書のマーズを呼び出した。


「マーズさん、これはどういうことです?何故ハトラへの領土要求を破棄されているのですか?」


 マーズさんは困った顔をしながら答えた。


「恐れながら、金銭を払うという理由だけで敵の全国土を占領するというのは些か無謀だと……」


「馬鹿言ってんじゃないですよ。人間なんて金と恐怖さえあれば動くんですから、破棄されたなら条件積んで下さいよ。それくらい考えて動いてくれませんと、言われたことだけやってたらいいなんて小学生以下ですよ?わかってます?」


「し、しかし国庫の金も底をつき……」


「はいはい今度はこじき宣言ですか?ほんと、使えない秘書ですね」


 僕はわざとらしくため息をついた。このマーズとかいう女、昔僕を蔑んだ目で嘲笑してきたクラスメイトとそっくりだった。それが今は、こうして罵倒され涙目になっている。快感だと思った。人の上に立てるって、こんなにも気持ちいいなんて思わなかった。あの時の自分に、そう伝えたくなった。


「何してるんです?あれを持ってこないんですか?」


「あれ……でもあれは……」


「ほら、早くゴミ捨て場から出して来て下さいよ。嫌なら、貴女を変えてしまっても良いんですよ?」


 あれとは、何の変哲も無い土の塊だ。その辺の土地で取れるそれを、僕は金属に変えることができる。いや、それは語弊があるな。僕が神様から与えられた能力は、自由自在に物質を変えることができる、というものだ。


 どんな物体でも良い。液体を固体にも変えられるし、水を火に変えることだってできる。何なら、人の血流を固形に、脳みそを石の塊にすることだってできる。この能力を使って、僕は王様になった。反対する奴らは脅し、賛同する者には恵みを分け与えて、僕はこの国の王様になったのだ。


「……持ってきましたが……このようなものに頼りっきりで良いのでしょうか?半ば永久機関じみたこの代物、無くなった時に代替案を考えて……」


「良いに決まってるでしょ?馬鹿なことばっか考えないでくださいよ無能秘書」


 そう言いつつ僕は目の前に運ばれてきた土の塊を金銀財宝に変えてみせた。






 午後からは視察だ。視察というのは建前で、さっさとマーズを振り切って町娘を探し始めた。その最中に、とある騒ぎに出会った。


「おいこら!お前何をしている!!」


「いや!!!離して!!!」


 腕を掴まれている可憐な少女。掴んでいるのはエプロンを着た中年のデブ男。どちらを味方すべきかなんて、神に聞かなくたってわかる。


 僕はさっと2人の間に入った。


「そろそろ、やめてあげませんか?この子嫌がっているじゃ無いですか」


「あん??お前何言って……」


 デブ男は僕の格好を見て、腰を抜かしてしまったらしい。地面に着くのではないかというほどのロングコートを脱ぎ捨て露出したのは、この国の王様を表す3つの星を象った首飾りと、黒一色を基調に脇から腰まで白い線の入った洒落た一張羅だった。これだけで国威は掲揚される。


「きゃーーー」


「はちまんさま!はちまんさまのお出ましよ!」


「戦乱続きだったこの国をたった1人で纏め上げ!」


「私たちに平和と富をもたらした!」


「はちまんさま!どうしたのですか??この男が何かしたのですか??」


「え?俺はただ……万引きしていた女を捕まえようと……」


「はちまん様に楯突くなんて、到底許されません!」


「そうだ!そうだ!恥を知れ!」


 やれやれ。よく事情も聞かないまま、女の子を助けることとなってしまった。王様という立場も、こんなすぐ騒ぎになる欠点を有しているのだな。僕はふうとため息をついた。これではまたあのクソ女マーズに見つかってしまう。仕方なしに僕は女の子の手を引いてその身を隠した。そのままその女の子とイチャイチャして、王宮に帰ったのだった。ん?どうやってばれないようにしたかって?そりゃ、物質を変換できるのだから、荒野にホテルを作ることだって容易だ。後は……書くまでも無いだろう。これも、王様の特権というやつだ。









 思えば、転生前の自分はあまりにも惨めだった。常にクラスメイトからいじめられ、道行く女子には嘲笑され、何をやってもうまくいかず、気付いたらネットで誰かを炎上させることを生きがいとしていた。あんな世界、早くいなくなって正解だった。だって今、チート能力を生かしてこんなにも異世界を満喫しているのだから。


 お風呂から上がって、このまま夜のベッドへ向かう。さて今日は、どの妻が良いだろうか。今日は甘えたい気分だから、レイネにしようかな?そんなことを考えながら、短い廊下を歩いていたその時だった。


 窓ガラスの割れる音が、まるで筒音のように耳を劈き離してくれなかった。それが死への咆哮だったなんて、当時の僕は知る由もなかった。


 目の前を横切っていくガラスの破片は、透明なはずなのに黒ずんで見えた。短刀が床に敷かれた絨毯にぶすっとささった。続いてガラスは、引きこもり続けた部屋に舞う埃のように散り散りとなった。赤いターフを巻き、黒一色の服を着た男が、白い包帯を顔に巻きつけたまま窓を突き破ってきたのだ。腕と膝を畳んで窓をぶち破るその姿は、滑稽なはずなのに何一つ笑えなかった。


え?どうして?ここには総勢数千人の精鋭と、城とわからないよう普通には白い壁があるよう錯覚させているのに。そんな完璧な警備をしているはずのこの城に、どうして侵入してきたのだ?


 窓近くのピアノに着地したその男は、腰に短刀、そして右手に大剣を携えていた。


 肩につけていた漆黒の甲冑は、所々にどす黒い赤色が刻印されていた。


 その上から巻きつけられた赤いターフすら、返り血を彷彿とさせるほどくすんでいた。


 背丈はそこまで大きくない、強いて言うなら僕より少しガタイが大きいくらいだ。鎧のせいかもしれない。


 しかし腕から顔面から全てに巻きつかれた包帯が、上下黒色の服に映えていた。


 不気味なほどに、映えていた。


 そいつはまるで、突如異世界からやってきた死神のようだったのだ。


 こんなやつ、僕は知らないし、見た事だってない。


 見たくもない、もう二度と見たくない、心の奥底からそう叫ぶ自分がいた。


「何をしているんです?早く排除してください!!マーズ!!」


 僕はそう叫びつつ、寝室へと急いだ。見た瞬間に関わってはいけないと思ってしまった。別に恐れることはない。僕にはチート能力があるのだから。そう思考するまで長い時間がかかってしまった。それほどに、彼に気圧されてしまったのだ。それほどに、あの包帯男は生半可な脅し以上の殺意をもっているとしか思えなかったのだ。


僕は心を落ち着かせ、近くにある物干し棒を刀に変えた。刀には刀だ。いざとなったらあいつの脳みそを岩石に変えてしまえばいいのだから、最初から包帯男に負ける選択肢などない。何故なら僕は王だから。誰も敵わぬチート能力者だから。


 ドアが吹き飛ばされた。


 ドアを開けようとしていたその時だった。ばっと飛び出して、恐らく苦戦しているであろうマーズを罵倒しつつ、華麗に倒して、尚且つそれを街中に喧伝して回ろうと。そんな僕のささやかな目論見すら、そいつは嘲笑っているように見えた。


「おい!マーズは?近衛兵はどこ行ったんで……」


 その瞬間、僕は狙われた。持っていた大剣の刃が、こっちに向いたのだ。その殺気、その迫力。確信した。この包帯男のターゲットは、この国でも、この地位でもない、僕自身だったということを身体の底から理解した。


 迷いなき大剣に対し、僕は刀を合わせた。その瞬間に、敵の刀を土に変えてしまおうと思った。それも気密性の低い、ボロボロと溢れてしまいそうな刀にしてしまおうと思い、呪文も無しに能力を使った。その時の僅かな気の緩みから、刀は手から零れ落ちてしまった。ベッドに突き刺さった刀を見て、僕は距離をとった。


「はちまん様!ご無事ですか??」


「近衛兵ですか?全く遅いですよ」


 既に敵の刀身はボロボロとかけてしまっていた。こうなったらあの短刀しかない。


「早く始末しなさい!全く、私が怪我をしたらどうすると……」


 入ってきた近衛兵は十数人だった。その筈だったのに、彼らなんて全く見ないで、包帯男はこちらへ向かってきた。盾になった2人の兵士を投げ捨て、短刀でこちらに向かってきた。いったい、僕がこの包帯男に、何をしたっていうんだ!?!?そう思いつつ僕はとっさに避けて尻餅をついた。


 自分の寝室を出て、憐れなほど走った。手と足が自分のものとは思えないほど不格好に動いた。息を切らして廊下を走っても、包帯男との距離は縮まる一方だった。


「ち、ちょっと待て!ストップ!!ウェイトウェイト!!英語わかる?中1でもわかる基礎単語だけど?」


 僕は振り返って、掌を見せつけつつ制止を促した。もう丁寧な言葉遣いをする余裕すらなくなってしまった。


「僕、何かしましたっけ???君みたいな全身包帯野郎に喧嘩売った記憶なんて一切無いんですけどー???」


 包帯男は押し黙ったままだったので、更に煽ることにした。


「もしかして言葉わかんない??言葉のない人間とか、この世界にいるんだーほんとこの異世界って広い……」


「転生者……」


 包帯男は初めて口を開いた。思っていたよりも高い爽やかな声だった。


「それがお前の死ぬ理由だ……異世界転生者。この世界に存在してはいけない悪性の権現」


「はあ!?!?意味がわかんねえんだけど……」


 そう言いながらも僕は、とある仕掛けをしていた。そう、この男の脳みそを岩石に変える能力の発露だ。これを使えば、どんな人間でも殺すことができる。一体どんな理由で襲われたのかわからないけれど、とにかくこれで終いである。


 廊下の行き止まりで、僕はじっとその姿を見た。どこからどう見ても、暗殺者のそれにしか見えなかった。一体どこで恨みを買われてしまったのだろう。しかし、それもこれで終わりだ。


 終わりだ……そのはずだった。


 そのはずなのに……


 2秒とかからぬ静寂に、僕は絶望した。何故か?目の前のスレイヤーが振り下ろした短刀は、そのまま僕の右肩を貫いたからだ。受け身を取ることすらできなかった。腕を間に挟む余裕もなかった。だって、ありえないと思っていたのだ。


 このチート能力が効かないなんて、あり得ないって思っていたのだ。


 膝をついてしまった僕は、今度は手に持っている短刀を炭に変えようとした。しかしそれもかなわず、今度は左肩を貫かれた。血の雨が降った。どうやら動脈をいかれたみたいだ。


 もはや怯えることもできなくなった。だって死を待つしか無かった。それくらいあっさりと死を迎える僕を憐れんだのか、そいつは最後に慈悲の言葉を残した。


「どうしてチート能力が効かないか?なんで顔をしているな。答えは簡単だ。その能力は、異世界の人間に効果を発揮する」


 短刀が降りる瞬間に、僕は人生最後の告白を聞いた。


「俺も、お前と同じ転生者だよ」







 寝室から突き当たりの廊下に出た時にはもう、はちまん様は息絶えていた。脳に痛々しい傷を受けたはちまん様の前には、2人の男女が佇んでいた。1人は襲撃してきた包帯男。そしてもう1人は、修道服を着た女だった。


「後は頼んだ、シスター」


「はいはい、お疲れ様でした。今日も見事な仕事っぷりだねえ。流石は、スレイヤー。異世界転生スレイヤーなだけあるよ」


 私は比較的耳がいい。だからこの時も、廊下の突き当たりで話す2人の会話がよく聞こえていた。


「この特注の短刀、うまく扱えたかい?」


「良い仕事をする……たまには」


「偶にはってのは余計じゃないかい?君と同じ属性に変えるなんて、幾らでも出来るさね。君がこの世界に持ち込んだ物ならば」


 だめだ……言葉としては聞き取れるが、内容がよくわからない。私は少しずつ近づき始めた。


「というかスレイヤー、包帯が解けてきているじゃないか。巻き直した方が良いんじゃないか?」


 振り返ったシスターは、服こそオーソドックスな紺の修道服だったものの、顔を真っ黒の布で隠していた。それは貴婦人のようで、更には死神のようだった。


「今日は手持ちがない。また巻き直す。それより早くこいつを元の世界に戻してやってくれ」


「はいはい。ったくせっかちだなあ」


 シスターはそう言って、はちまん様の前で祈りを捧げた。


「迷える魂よ。元の世界へ戻りたまえ」


 するとその亡骸は、まるで砂が飛ばされるかのようになくなってしまった。私はあまりの出来事に、呆然とするしかなかった。


「後ろから人が来てるけど、どうすんの?」


「どうしようかな、シスター」


 !?!?どうやらバレていたみたいだ。私は刀に手をかけようとしたが、スレイヤーと呼ばれたそいつは振り返らずに口を開いた。


「敵対しないで良い。俺の獲物は、転生者だけだ」


 よく聞くとその声は、とある人物によく似ていた。


「この世界は、こいつらにすっかり支配されている。本来この世界は、君達のものだというのに」


 解けかけた包帯から、少し長めの後ろ髪が見えた。


「自分の行動を正義とはしないが、これだけは覚えていてほしい」


 背丈も、体格も、着込んだ鎧を脱げば似ていると思ったのは錯覚だろうか。


「この世界は侵略されている。転生者によって侵略されている。それに良しとしてはいけない」


 後ろから兵士がやってきた。それくらい時間が経過していたのだ。


「側近で唯一心の底から追従していなかった君に、陰ながら期待しているよ」


 敵勢を確認するためだろうか。一瞬だけこちらを振り返った。


「騒がせたね、お暇するよ……マーズさん、でしたっけ?」

 今シスターとともに去っていこうとするその男、スレイヤーの顔が、ちらりとだけ見えた。解けた包帯の隙間からそれを見た瞬間に、私はその場で硬直してしまった。何故か?


 そのお顔が、はちまん様と瓜二つだったのだ。










 根本にあるのが、日本の若者に多大な不安感を与えている社会制度であることは認めよう。


 人口比で主権を剥奪され、過去のツケを支払う羽目になり、その報いを受ける保証は1ミリもない。


 こんな世界で希望を持てないという怨嗟の声に対して、理解できないといえば嘘になる。


 だからといって、神はあくどいビジネスを始めてはいけない。


若者を唆して、別の世界に移住させるなんて、そんな非道を許していいはずがない。


 それは神の主導する帝国主義的植民地支配と何ら変わらないからだ。


 いいとこ中世レベルの文明に現代日本の若者を派遣させ、チート能力と若者自身の、彼等の時代では常識になっている知識で無双させる。


 彼等は知らないうちに、本来あるべき異世界の姿を大きく壊しているのだ。


 そしてその行き着く先は、自発的な移住。


 神は現代日本を見限り、自分達にとって都合のいいこの世界で、新たなる繁栄を考えているのだ。


 すでにこの世界は歪みを自覚し始めている。


 これまで存在したことのない未知の物質が多数発見され始めた。


 どこの誰が持ってきたかわからない鼻風邪によって、免疫機能の著しく低い一部の異世界人は苦しみ続けている。


 見たことのない動植物が自生するようになった。生態系の変化によるものなのか、転生者のだれかが持ってきたのかは不明だが、明らかに森の様子が変化しているのだ。それとの因果関係は不明だが、土砂崩れや土壌の荒廃も進行している。


 そもそもあのチート能力は、この異世界にあるエネルギーの総量から借りるようにして顕現している。


 あの膨大なエネルギーは無限ではなく、有限のものを前借りしているだけなのだ。


 そんなことまで考えている転生者など、1人もいないだろう。


 そりゃそうだ。皆神の言葉に唆され、ユートピアを求めてここに来るのだから。


「そんな話をしなくても、俺は転生者を殺すだけだ」


「……冷たいなあ。偶にはこんな風に、当初の目的を振り返るのも仕事の効率を上げるためには必要なんだよ?得てして仕事というものはやらされている感が出てきてしまう。それを防ぐには初心に帰るのが1番なんだよ?」

「誰の受け売りだ?」

「よくわかんない商売の神様が酔っ払いながらそう言ってた」

「ふーん」


 俺はシュリンプの唐揚げを頂きつつ、味のない水を煽っていた。仕事の話はカフェが1番というシスターの意見を尊重したものの、連れてこられたのは明らかに酒場だった。


「大体君は面白くないんだよ!もう少しこの仕事に関する葛藤とかね、俺は人を殺していいのかとかね、そういうことを考えて欲しいんだよ!ほら、人を殺したら顔が変わる呪いとか、そういうのに苦しんで悩んでそれを打ち明けてきて欲しいんだよ!わかる?」


「わからん。ビールか?」


「あーごめんありがとう……じゃなくて!」


 シスターは修道服を着ながらビールを飲み謎のだる絡みを続けていた。任務遂行の祝い飲みとのことだが、酒が飲めない自分にとっては面白くともなんともなかった。


「まあいいんだけどさあ、辛いとか思わないの?」


「何がだ?」


「スレイヤーの仕事だよ。自分と同じ転生者を殺すって……」


「それをお前が言うか?全ての元凶が情けをかけるな」


 俺は唐揚げを食べ切ると、シスターの胸元に手を差し出した。


「踊ってくれるの?スレイヤー」


「んなわけないだろ。次のターゲットを教えろ。この世界にはまだまだ、どこぞの神達がやらかしたツケとやらが残ってるんだろ?早く尻拭いしないとな」


 俺の姿を見て、シスターは嫌な笑いを浮かべていた。青い目も、金色の髪も、その時は邪悪な黒に染まっているように見えた。それでいい。これは神への反逆だ。真っ黒に染まっているくらいの方がむしろやりやすい。


「それじゃあ、明日の朝ここでまた落ち合おう。次の仕事を依頼するよ」


 たった2人のレジスタンスは、まだまだ終わりそうにない。俺はそれを確信しつつ、次の仕事の詳細を心待ちにしていたのであった。

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