食べられる広告で頭に味と宣伝を焼き付けよう!

ちびまるフォイ

新しいファンの形

「試食やってまーーす。よかったらどうぞーー」


小腹が空いていたので軽く寄ってみる。

爪ようじに刺さった小さな肉を口に運んだ。


「いかがですか?」

「まあ普通……んん!?」


口の中の肉がすっかり消えたあと、

頭の中に化粧品の記憶が味とともに広がった。


「食べられる広告です。実は今あなたの頭に浮かんでいる化粧品が新発売したんです」


「食べられる……広告」


「どうですか? まだまだありますよ?

 こっちは新商品の時計。あっちは新商品のネックレスの広告料理。

 すべてタダで召し上がれますよ」


「い、いや結構です!」


慌ててその場を立ち去ったが、美味しい料理というのは妙な中毒性がある。


美味しかった、というポジティブな感情が脳にダイレクトマーケティングされた化粧品に紐付いて

さもその商品が「すごく良いもの」のような感覚に思えてならない。


「いかんいかん。これで買わされたら思うツボじゃないか。

 カクヨムコン用の作品を書かなくっちゃ」


実家の畜産農家を継ぐのが嫌で「小説家になる!」と家を出て数年。


ブタの代わりに小説に囲まれる生活とはなったものの、

残念ながら自分には才能もチャンスもラッキースケベもなく自称小説家の肩書きから卒業できないでいる。


「俺のSFグルメ小説。誰か読んでくれねぇもんかなぁ……」


いくら連載を続けようと俺の人気は地面スレスレの低空飛行のまま変わらない。

荒廃した近未来で超生物と金属加工のグルメ小説って誰が読むのか。俺しかいない。


カクヨム内だけでも人気が取れれば小説家への道も開けるのに……。


「あ! 待てよ! 料理広告使えるかな!?」


グルメ小説を書くだけあって料理には覚えがある。

この腕をもってすれば広告を上手く料理にして、料理人気で読まれるんじゃないか。


俺はさっそく調理器具を準備し、小説を宣伝するための広告も作成した。


「このオムレツに広告を細かくしたものを入れてっと……できた!」


皿に盛り付けて口に運ぶ。

仕込んだ広告が脳に味と一緒に広がるーー。


「まっずぅぅぅぅ!!!!」


もんどり打ってイスから転げ落ちた。

卵料理ならそこまでまずくなることはないだろうという考えは甘かった。


大量に仕込まれた広告が料理の味を損なってしまっている。

噛みしめるたびに怒涛の広告アピールで食事の手が止まる。


「……もうちょっと、広告抑えないとダメだな……」


今度は味を優先して広告を抑えめにして料理を作った。

出来上がったものを口に運ぶと、一瞬だけ脳裏に広告がチラついた。


「……ん?」


もう一口。

道路を過ぎる車のように一瞬だけ広告がよぎった。


「……味は美味しいんだけどなぁ」


味を優先してしまうと今度は広告としての意味がなくなる。

単なる美味しいオムレツになるだけだ。


それからは料理研究家も真っ青なほどに没頭した。


どうすれば美味しく広告を混ぜ込むことができるのか。

技術が高まれば高まるほど俺の小説を読んでくれる人が増えるはず。


幾多の試練を乗り越えてついに俺は広告料理人として国家試験をパスするほどの腕に成長した。


「できた! これならばっちりだ!」


今や広告の調理はお手の物。

料理に応じて混ぜ方を変えたりして、広告があることで美味しくなる料理ができる。


料理を作って街頭に立つと、試食と言いながら通行人に食べさせことにした。


「試食やってまーーす。よかったらどうぞ、食べていってくださいーー」


試食した人はみんな「おいしい」と喜んでくれていた。

きっとその脳裏には好意的な感情と俺の小説が紐付いているはずだ。


「ふふふ、結果が楽しみだ!!」


俺の小説もたくさんのいいねが付いてランキングの常連さんになり、

ひいては出版社からのオファー連絡を並べて眺めながら「どうしよっかな~」とか悩むのだ。


家に帰って小説の評価を見るまでは、そんな浮かれた理想が実現すると思っていた。


「か、変わってない……!?」


訪問数は明らかに増えているにも関わらず評価には結びついていなかった。


「なんでだ……あんなに美味しいって言ってくれてたのに……。

 いや、きっと評価してくれる人が少なかったんだ。そうに違いない!」


もっとたくさん告知してひと目に触れられればファンになってくれる人もいるはずだ。

もっと、もっと、もっといっぱい食べてもらわないと。


工場で量産するほどの料理をまとめてこしらえて試食させまくった。


「試食やってますよーー! 食べてください! ほら! ほらほら!」


バカみたいな量の試食をさせていることで気味悪がり人は散る一方。

食べてもらえなかった広告料理は徐々にその品質を落としていく。


日が暮れる頃にはもう誰も寄っては来なかった。


「あーー君」


「試食ですか!?」


「違う、私は食品ロスなくそう会社の社長だ。

 君はここでこんなに大量の料理を無駄にして何がしたいのかね」


「これは……」


「食べ物を粗末にするんじゃない。こんなのもう食べられないだろう」


「はい……」


残った食べ物は飼料として輸送された。

懸命なPRにも関わらず小説の評価は伸び悩んだ。


>どこかで見たような内容なので、他のもっと面白い小説読みます


「ちくしょおおおお!!」


小説に寄せられた辛口なコメントは俺の夢を叩き割るのには十分過ぎる破壊力だった。

今まで目をそらしていた自分の才能の無さを認め、おとなしく家をつぐことを決めた。


「家畜と戯れながら空き時間に小説……もうそれでいいじゃないか……」


荷物をまとめ、実家へと戻った。

実家に戻ると柵のブタたちがディスプレイの近くに集まっていた。


「これはいったい……!?」


両親がやってくるとこの光景に驚きもしなかった。

親は事情を聞いても首をかしげるばかりだった。


「食品ロスで出たものを飼料として配布してるって人が来てな。

 その料理を食べさせてからずっとこうなんだよ。

 ある小説を読ませると落ち着くんだ」

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