肉体強化パーツの開発とその被験者

 占い屋さんでの一件の翌日、俺(継森)はゴッドケミカリーズの会合に出席するため放課後、化学実験室に来ていた。そして昨日の出来事を一応報告しておいたが、メンバーの反応は様々だった。しかし、森原先輩だけはその占い師に何か心当たりでもあるのか、根ほり葉ほりいろいろなことを尋ねられたけれども。

「さ、それじゃ、開発中の案件についての報告と今日は、その案件の被験者に立候補したい人を決めるわね。」と森原先輩。

「皆も知ってのとおり、わが校の研究開発プロジェクトの一環として「肉体機械化融合改造計画」があります。その開発研究としてアタッチメントパーツによる強化が試みられており、つい先日、わがゴッドケミカリーズの研究首脳陣の手でその制作が始まり、最近幾つかのプロテクターパーツやアタックパーツが完成したの。そこで提案としてそれらアタッチメントパーツの装着実験の被験者を皆さんの中から応募したいという意図から名誉ある志願者を決めたいの。どなたか、応募に立候補する方はいる?。」


 しかし、この名誉?ある志願者に応募する者は誰もいなかった。

それというのも、あまりにリスクが高いからだった。言ってみれば、被験者といっても要は「モルモット」のことだ。当然、実験動物は人以外ならまだしも、人自身が実験対象となる場合、万が一思わぬ副作用や反動、事故は付き物になる。結果によっては再起不能若しくは死と隣り合わせという事態にもなりかねない。皆、そのリスクをイヤという程知っているので、誰も挙手しないのだ。

「オレ、やります!。」とそこで手を挙げた者がいる。その声のする方を見ると継森だった。「俺にやらせてください。お願いします。」

「つ、継森クン、キミ、大丈夫なの?。」と憐れむ様な目つきで森原先輩の視線が痛い。

「お願いします!やらせてください。」


 俺がこの計画の被験者に志願したのには、理由もあった。それはこの学園の裏活で暗躍する者達が、かなり人並外れた特殊能力を有する者が多く、そいつらと互角に渡り合うためには、もっと凄まじい能力が必要だと判断したからだ。実際、俺の持つデビルズアイの力だけでは、この先あの吸血少女や次元移動能力者の森原先輩、他にも得体は知れないが少なくとも俺以上の実力の能力者がひしめいている中で、そいつらと戦って勝ち抜くことなど論外だと思われた。もっと自分を強くする能力が必要だったのだ。今のままでは生き残ることさえ恐らく無理だろう。

こうして放課後しばらくは様々な人体装着パーツを身に着けて運動をしたり、パーツを使っての実験データを取ったりする日々が続くことになった。


 パーツ自体は非常に軽くて扱いやすいものが多くまたいろいろな種類が存在する。攻撃用として、腕に装着するアタックアームタイプがある。

主なものとして摂氏1500度の熱線を放つファイアアーム、零下200度もの冷凍ガスを噴射するブリザードアーム、凄まじい電流を迸らせるエレクトリックハンド、自在に腕を伸縮させるマジックハンド、強力な超磁力砲を発生させあらゆる電気系統の機器を狂わせるマグネティックアーム、最強の破壊力を持つと言われる超強力レーザービームを照射して対象を破壊するレーザーアーム等がある。

 一方、防御用プロテクターパーツとして鋼よりも硬いが軽くて装着しやすいケプラーベスト、空中飛行が可能なスカイベルト、あらゆる毒ガスや強酸等の液体から頭部を守る万能ヘルメット等も開発されていた。


 計画に参加して一週間が過ぎたころ、装着パーツの扱いにも慣れてきたところで実戦的な訓練として自律行動型ロボットを相手にパーツの威力を確かめるテストを行うことになった。地下にある巨大な実験コロシアムで俺は、得意のマグネティックアームを左腕に、レーザーアームを右手に装着してロボット2体と対峙する。ロボットは通常の人間の数倍はあろうかという大きさでピンセット形の巨大アームを振り回すメカだったが、相手の動きより速く背後に回り込んで、まずはレーザービームを放射した。一発で相手の動きは停まったが、もう一体は物理的な攻撃とはいえ、急旋回でアームを振りかざしてくる。そこで、咄嗟にこちらもマグネテックアームから超強力な

磁力砲をぶっ放す。と、振り上げたロボットの腕が痺れたかの様にブルブルと振動して止まり、メカ自体が狂ったかの様にくるくると回転したかと思うと、そのまま横転してしまった。ガクガクと藻掻くように動いていたロボットが動きを止めた時、俺は(凄い!)という実感と感触を得たのだった。確かに凄い威力だ。相手は攻撃こそ、物理的なものしかなかったが、メカ自体はロボットとしては申し分ない基本スペックで他国の軍所有のものよりもはるかに性能は高いものだったからだ。そんなロボットを2体も相手に相当なダメージを与えて倒せたアタッチメントパーツの威力には、感心せざるを得なかった。ただ、パーツの種類によっては相性の様なものもあると思われた。俺にとっては、レーザーアームとマグネテックアーム、エレクトリックハンド

といったところが使い勝手がよく、とても馴染みやすかった。


 こうして、俺の目論んだとおりに攻撃や防御の強化は整っていった。だが、まだ不安が残る。これではたして実戦となった際にはたして対抗するだけの効果が発揮できるのだろうか。そう、特にあの吸血少女とどこまで渡り合えるのだろうか、その不安は拭いきれるものではなかった。

 あれ以来、なぜか俺の頭の中からはあの人間を吸血する年下の少女の姿がいつまでも離れられないのだ。確かに恐るべき存在であり、人間ではないのかも知れない。だが、あの少女との出会いが俺の全ての人生と存在をかけてでも、今後どのような遭遇の場面でいかなる関係で出くわしていくのか、どんな未来が待っているのかを想像するともう不安と恐怖以外になにか新しい冒険を待ちわびる新参者の冒険者の様にワクワクする気持ちになるのも事実だった。

あるいは周りの環境の急激な変化に俺の思考がどうかしているのかも知れないが、何かを信じたいという期待にも似た気持ちも少なからずあったのも真実だったのだ。


       *  *  *  *  *  *


 ある日の放課後、1年生の女子高生赤井まゆは女子テニス部の部活動を終え帰宅のために校舎を出て、裏門へと向かっていた。裏門には自転車置き場がありそこで自宅から乗ってきた自転車で帰宅しているのだ。もう日もかなり暮れて、黄昏色に染まる空が美しい頃合いだった。自転車置き場から自転車を持ち出そうとしていた時、一瞬妙な雰囲気を感じ、背後を振り返るとそこには1人の男子生徒の姿があった。

「誰っ?。何か用事でもあるの?。」

その男以外他には誰の姿もなく、まゆは何だか嫌な気分に襲われたが勇気を振り絞って謎の男に話しかけてみた。

「キミを迎えに来たんだよ、まゆ。」と男は静かに答えた。が、その印象は迎えに来たというよりも、得体の知れない魔の世界からやってきたかの様な印象を与える。

「高等部の生徒みたいだけどアナタなんか知らないわ。それとも痴漢?。だったら、痛い目を見るだけだから止めといた方が身のためよ。」と薄ら笑いを浮かべるまゆ。そういうと背中のラケットケースから1本のラケットをスルリと取り出したが、なんと張ってあるガットは黒光りする鋼のものだった。

「このラケットのガットは超硬合金、フレームはアラミド繊維でできているスグレ物よ。叩かれれば、アナタの頭なんかトマトケチャップみたいになっちゃうわ。おまけに・・・。」と言うと別の袋から鉄球の様なボールを2、3個取り出す。

「本来、練習用なんだけどウチの部ではこの鉄球で腕力、瞬発力を高めているの。どう?今この場でアタシの練習のマトになってくれる?。」と冷ややかに言い放つ。

さすがは全国でも1、2位を争うスーパー女子テニス部だけあると言いたいが、こうなると殺人兵器にも化すスポーツアイテムである。

「ククク・・・。実に面白いテニス部だね。だけどいい機会だから試しにやってみなよ。」と指を立ててクイクイと挑発する男子生徒。

よほどの自信があるのか、単にからかわれているだけなのか分からなかったが、男の態度にはカチンとくるまゆだった。

「そう、それじゃ行くわよ。ソレッ!。」

ビュッと風を切る音とともにラケットが振り下ろされる。と共に弾丸と見紛う鉄球が目にも止まらぬ速さでシュッと打ち出される。球は男の真正面に瞬速で一直線にライナーを描いて飛んで行ったが、なぜか男は避ける素振りすら見せなかった。

ギュルギュルギュルとボールが男のわずか手前で猛回転し火花を放ちながら、静止していたのだ。

「!?。」驚いた表情で立ちすくむまゆ。しかし、男は無表情のままゆっくりと片手を回転して静止しているボールの方へと向ける。するとボールは目にも止まらぬ速さで進んでいる方向とは逆方向へ弾き返された。

「きゃあっつ。」と腹部を押さえながらドサッと倒れるまゆ。

男は笑みを浮かべながら、倒れた女子テニス部員の方へとゆっくり歩いて行く。

「フフフ、どう?自分が練習のマトになった気分は?。」と倒れているまゆの傍らに立つと男は、苦悶の表情を浮かべる女の体を抱き寄せる。

そして、いきなり唇を奪う。

「うっ、ううっ・・・。」女は苦痛に顔をゆがめていたが、いきなり見知らぬ男にキスをされ顔を真っ赤にしながら抵抗していたが、やがて眼を閉じ動かなくなった。

「少しは感じてきたのかな。それでは、楽しませてもらおうか。」

男はまゆをお姫様抱っこすると、そのままいっそう人気の無い暗がりへと移動して行く。やがて暗がりの中から男女の喘ぐような声が聞こえてくる。

男と女の肉体が一つに溶け合って、まるで芋虫の様な妖しい仕草が展開されていく。

しかし、一体男はあの殺人サーブをどうして静止させ、逆に跳ね返すことができたのか、今の時点では謎のままであった。そしてあの男子生徒は何者なのであろうか。

やがてこういった怪事件が学園内で続出し、噂になるまでにそう時間はかからなかった。

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この高校生活、部活動、世界、みんな吹っ飛ばないかな シルバーブルーム @akm87545

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