夜の街で出会った占い屋さんに呼び止められたんだが・・・
驚くほど個性的なゴッド・ケミカリーズの面々には、かなりのカルチャーショックを受けた俺だったが、何とか理性は持ちこたえることができた。しかし、これからどんな部活動が待ち受けているのかは皆目分からず、何をしていいのかさえまだ見当すらつかなかった。学校での俺の化学の成績は、人並に中等だし特に得意教科というわけでもない。それに入部のきっかけとなった「デビルズアイ」にしてもどんな能力や効果を発揮するのか、まだ具体的なことは自分自身でさえも想像がつかなかったのだ。
そんな中、ある金曜日に俺はフラリと街の中心部へと出かけることにした。明日からは土日で学校は休みだし、このところ続く奇怪な出来事に翻弄されっぱなしで頭の整理が追い付いていなかったせいもある。なにしろ、高校生活になって俺の予想をはるかに斜め上行く展開になって、右往左往している感じの自分だった。
その日の午後、俺は海東と連れ立って街の中心街に向かっていた。海東に例の愛久沢先生との一件のことも聞きたかったし、気分転換も兼ねてショッピングや娯楽等もやってみたかったからだ。街の中心街といっても役所や行政の建物がならんでいるわけではなく、一種の繁華街ではあったがアパレルや服装、装飾品にスポーツ関連、食事や喫茶店、食品スーパーや工具類、家電製品やコンビニエンスストア、理容店やトレーニングジム、はては書籍に玩具といったありとあらゆるジャンルの店が立ち並んでいて、流行の先端を行く場所とは言えないまでも俺は結構こういう、やや寂れているレトロな商店街が好きだった。
「なあ海東、先週愛久沢先生から何か言われた用事でもあったのか?どんなことを話し合ったんだ。」と、さりげなく訊いてみる。
「ああ、夜遅くの時だったね。あの時は待たせてごめんね。それが先生から言われたことって何だったのか、実はよく覚えてないんだよ。」
(エエッ!あんなエロいことされながら、お、覚えてないの!?一体どういうことなんだ???)
「終わった後、将クンも何処かへ行っちゃってたしボクどうしてたんだろうな?」
コイツとぼけてんのか、と思いつつも「俺は急に倒れちまったらしく、気づいたら保健室のベッドの中だったぜ。でもなんかヘンなんだよな。俺は別に貧血でもなかったし倒れるような要因なんか全然見当たらないんだ。どうしてもひっかかるんだよ。」と
海東のスポーツ店での買い物に付き合った後、俺たちはファミリーレストランのある一角で夕食を共にすることにした。レストランへと向かう道筋の脇には、地方のレトロ感溢れる街並みの様に所々、屋台やギター弾き、出店が散在していて昭和世代の方々にはとっても懐かしい情景だ。ふとそういった道なりに歩みを進めていると、「そこの少年。ちょっと。」と声をかけられた。声のする方に振り向くと紫色のヴェールに身を包まれた若くて華奢なお姉さんが木のテーブル台と椅子に腰掛けて、こちらを手招きしている。近づいて行くと、台の上には『タロット占い』と書かれた角錐台が置かれてあって、占い稼業をしている出店だというのは一目で分かった。
「少年、キミには不思議なオーラが出ているよ。占料はいいから、アタシに運勢を見させておくれよ。」と屈託のない様子で占者の女性が言う。近づいて分かったが、ヴェールに包まれて顔はよく分からなかったが、体つきや声から判断すると若い女性らしかった。俺はその神秘的な雰囲気と不思議なオーラが出ているという言葉にフラフラと吸い寄せられるように近づいて行った。
「さあ、このカードをシャッフルしておくれ。」
と22枚の大アルカナを手渡される。
「これでいいかな。」とシャッフルしたカード群を女性に手渡すと彼女は、カードをテーブルの上に円形に配置し始めた。
「ううむ!こ、これは!。」と苦悶しているかの様な声を発したので、何かあるのかと思ったが、「キミには近く理想の女性が現れる。その女性はキミの人生を大きく変える力を秘めていると言える・・。」とありきたりな占い結果に少しガッカリもしたが、「理想の女性」というキーワードにちょっとドキリとしたりもしていた。
「ど、どんな女の人ですか。」
「う~ん、その女性は通常の人間とはちと違う様な・・・。」
しかし、それだけでは何とも漠然としたままなので、俺はふと心に思い当たることもあり、もう少し聞いてみようと思った。
「せめて、年齢とかだけでも分かりませんか?。」と食い下がって聞いてみた。
すると「歳はキミよりずっと若いようだ。しばらくするとキミの前に現れるようだな。」
俺は通常とは違う女性という話からもしや森原先輩のことかとも思っていたのだが、この時点でその思惑は裏切られてしまった。森原先輩は俺にとっても、いや全校男子生徒にとっても憧れの
(森原先輩ではないとしたら、い、一体、誰が!?。)
「ねえねえ、ボクのことも占ってみせてよ。」とその時、海東が割って入る。
「そちらの少年も?。あまり気乗りがしないんだが・・・。」となにやら消極的だ。
「そう言わずにさ、お願いだよお。」と女の子にも似た顔つきの童顔男子海東がねだる様子は、別の意味でも心をくすぐられる。
「わ、分かったわ。アナタの運勢はと・・・。」と俺と同じようにカードをシャッフルするよう促され、海東も占ってもらう。
すると「あっ!。キ、キミは・・・。」と女性が初めて驚いた様な声をあげた。
「えっ、ど、どうしたんですかっ!?。」と両手を握りしめ、真剣な面持ちで尋ねる海東。
「に、
* * * * * *
占い師の女は、次に二十面体のサイコロを2個取り出して、俺に手渡すと「さあ、次はこれからの未来の一部をキミに見せてあげるわ。まず、そのサイコロをよく振って台の上にバラまいてみて。台から落とさないようにね。」と言った。
俺は言われたとおり、サイコロをよく振って机の上に放り投げる。するとサイコロ2個がコロコロと転がっていくのだが、不思議なことに2個のサイコロは転がるのを止めることはなく、いつまでもいつまでも、円を描くようにぐるぐると転がり続けだしたのだ。はじめのうちは何か仕掛けでもあるのだろうか、と目を凝らして見ていたが段々とサイコロが巨大化していき、逆に俺たちの方が段々、身長が縮んでいくのが分かった。気づくといつの間にか、そこは白い巨大な空間で目の前を巨大なサイコロが2個、くるくると輪を描いて回っているだけの場所に俺達はいた。女性の姿も他の景色も全く見えない。2個のサイコロと二人だけのあまりに途方もない状況に俺と海東は、しばしお互い顔を見合わせるしかなかった。
「さあ、そのサイコロの輪の中に入るのよ。」とどこからか、先ほどの占い師の女の声が響いてきた。二人ともサイコロにぶつからない様にサイコロが輪を描いて回っている軌道の内側に飛び出る。と、一瞬眩しい光に目を覆ったが・・・。
そこは、いつもの虹色学園の見慣れた風景だった。ちょうど昼頃らしく、太陽が天空で輝いていて空は抜ける程青く、さわやかな快晴だ。俺は第1校舎正面出入口付近に立っている。一緒に居たはずの海東の姿も無い。グラウンドでは体育の授業でもしているのか、トラックを走る生徒達がいたし、校舎内の窓ガラスから様々な生徒の姿が見受けられた。俺はキョロキョロと辺りを見回すと、今までのことは夢だったのかなと思いつつ、校舎内に入ってみることにした。玄関で上履きに履き替え、2階まで登っていった時、図書室という掲示のある部屋が目に入った。俺は、図書室へと向かった。読書でもしようという気ではなかったが、ここが本当にあの虹色学園なのか、まだ疑問もあり、いろいろ調べて確かめたかっただけなのだ。図書室に入ると奥の受付カウンターに一人の女生徒が座っている。同じ1年生のようだ。俺はツカツカと彼女のいるカウンターへと歩いて行き、「えっと・・今日は何月何日でしたっけ?。」ととぼけたふりをして月日を尋ねてみる。
すると相手は、怪訝そうな面持ちをしてこちらを睨むように見たが、「今日は7月7日よ。」とすぐに答えてくれた。
(7月7日!?。アレ、俺の認識では今日はまだ4月25日のはずじゃないか。)と思ったものの、占い師の言葉どおりここが未来なのかも知れないとも思った。
確信はまだ無かったが、ココは未来の学園のある一日なのかも知れない。俺はともかく確かめる様に図書室の奥に向かって歩き始める。ここの図書室はかなり広く、2階の床面積スペースのほぼ全てを占める広さなので、さしわたり室内の入り口から奥まで行くのには少し時間がかかる程だ。その間の書架もかなり多く、ありとあらゆる古今東西の書籍が所狭しと集められている感じだ。その図書室の奥の方へと行くと、光のあまり届かない薄暗がりの一角で何やらモゾモゾと蠢いているモノがいる。
目を凝らして見ると、そこにはかつて見たのと同じ異様な状況が飛び込んできた。
(あっ、あの女の子だ!)
例の吸血女子だ。そして女子と共に立ちすくんでいるのは、顔も知らない高校生の男子の様だ。しかし、オトコの顔は夢でも見ているかの様に恍惚として口から涎を垂らし、だらしなく突っ立っているだけだ。暗がりでよく分からなかったが、憔悴しきっている感じだ。顔色もよくないように見える。
一方の吸血女子は男のワイシャツのボタンを開けて、さらけでている胸肌に例のストローを突き立てていた。そのストローを咥え、真っ赤な血液をチューチューと
「クフフフフ・・・。」と吸血女子は、血を吸いつくして満足なのか、一人不気味な笑い声を漏らしている。
「き、きみは・・。。」と俺もつい声を出してしまった。
「だ、だれっ?。」ときつい口調でこちらを振り返る女子。俺はあわてて身を隠そうとしたがもう遅かった。
「オ、オレは高等部1年の継森だ。こんな所で何をしているんだ?。」と逆に勇気と興味との複雑な気持ちで女子に話しかけてみる。
「見たわね。アタシは今、お昼の食事中だったのよ。」と蔑む様な目つきで俺を見る。
「別に見たくて見たわけじゃないんだ。でも、キミは吸血鬼なのか?。」と俺は精一杯の勇気で訊くのをためらわなかった。
「アナタに話すことはないわ。でも・・知られた以上、アタシのエサになるしかないわね。」と急に冷たい口調になる女子。
「ま、待ってくれ。その前になんで男の血を吸う時に陰部を刺激するんだよ。」
すると女は、ホホホと口に手をやってせせら笑うと「男の血はその男が興奮状態にある時が一番、美味しいのよ。だから、ホラ、こうやって・・・。」
と細くて白いしなやかな手で、吸われて恍惚となった犠牲者の陰部を服の上からモミモミとしごいていくのだった。男子の顔は、さらに恍惚とした表情になり、明いたままの両目は既に白目となっていた。口からは涎がさらに多く流れ出す始末だ。
「ア、ア、アアッ・・・・・」男の口からは声にならぬ快感の叫びがほとばしり、興奮の極致からかズボンから性器が極度に勃起しているのが見て取れる。
「ウフフフ、イイわね。」と言うと、さらにチューチューと激しくストローで男の血を満足そうに吸血していく女生徒。
やがて力尽きたのか、ドサリと男の体が崩れ落ちる。女生徒は男には目もくれず俺の方へと見やる。
「さあ、順番が来たわね。逃げても無駄よ。」と言うがいなや、パッと光輝いたかと思うとたちまち透明になって姿が見えなくなった。俺は身構えたが武器も無く、徒手空手で攻撃から身を守る術は特に無かった。
だが、暗がりで最初は見えなかったが、目が闇に慣れるにつれ、吸血女子がものすごい速さであちこちを移動しているのは分かった。たしかにすごい速さなのだろうが、なぜか俺には彼女の動きの軌跡がスローモーションの様に見えてくる。
今、彼女はこちらの方へ一直線ではなく、所々寄り道するような進行で向かってきている。おそらく、瞬時にこちらへ到達できるんだろうけれどもそれではつまらないのか、あるいは不意打ちを狙っているのか、すぐに飛び掛かってくる気配ではなさそうだ。だが俺は彼女の動向を捕えながらも、身構えることだけは気を抜かなかった。
「キャッ!・・。」と小さな悲鳴と共に、吸血女子の体が不意に空中から現れると同時に地べたにもんどりうって転げ落ちた。彼女の右腕を俺の両手が掴んで、背中から一本背負いをかけた格好だ。ドスンと小気味よく女子の体が床に叩きつけられた。
「きュ~ッ・・・・・」
女子は目を回して卒倒しているままだ。これでも俺は柔道初段の黒帯だ。体育の得意科目でもある。相手が俺の背後に回った瞬間、わざと身を低くして相手を背負う状態から腕を取って一本投げをかけてやったのだ。満更、俺の技も衰えてはいないな、と会心の一場面だった。
女子はまだ目を回してしばらく起き上がる気配もない。俺はそそくさとその場を後にした。ゴッドケミカリーズの面々に会いに行こうと校舎の2階から3階へと向かう。
さっきの吸血女子の件もそうだが、森原先輩達との関係についても気になっていたのだ。だが、階段をいくら歩いても歩いても、階上には辿り着かない。いつまでも果てしなく続く階段・・・・。俺は気味が悪くなってきた。引き返そうと振り向いた途端
・・・・。
ハッと気づくとそこはあの占い屋の目の前だった。辺りは暗く夜になっていたが、道行く人の数もまだ多かったので、時間はあれからそんなには経っていないらしい。傍らにいた海東を見ると彼も今、眠りの状態から覚めたばかりの表情をしていた。
「どうでしたか?。面白い未来が見えましたか。」と先ほどの占者の女性が座ったまま、訊いてきた。
「え、ええ、ちょっと驚かされました。夢でも見ていたかのようです。」とドギマギしながら俺が答えると女性は表情こそ見えなかったが、勝ち誇ったかの様にオホホホと笑うと「それはよかったですわね。キミにはとても不思議なオーラが出ているから占ったんだんだけど、これからはいろいろと途轍もない事が起きると思うわ。また縁があったら会いましょうね。」と言ってくれた。
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