裏に潜む闇部・闇クラブ・闇同好会の裏活動について

 海東の一件があった数日後俺は再び森原先輩の所へ行き、話をする機会を得ることができた。彼女は俺をまた以前と同じ校舎屋上の非常階段踊り場に案内した。

「先輩、うちのクラスの愛久沢先生と海東の件、アレ、先輩がたのイベントですよね?。」と単刀直入に切り出してみる。


「アハハ、もうバレちゃった?。アレは、アタシたち裏の化学部『ゴッド・ケミカリーズ』の研究活動の一環なのよ。よく看破したわね。」と思ったとおり開き直った。

「どうして、あんな事をしたんですか?。」と俺。

「決まっているわ。アタシたちの研究活動に必要なデータを取るためなの。アノ二人は、最もそのシチュエーションに適合した対象実験者に適合した方たちだったからなのよ。」


「な、何かの実験だったんですか?。」

「そうよ。ま、アナタにはもう話してあげてもいいけど、アレはうちの部員の一人が開発合成した性的誘因性フェロモンを対象者に投与してどんな効果が出るかを観察するための実験だったの。その実験にふさわしい方たちがあのお二人さんだったってわけ。前から愛久沢先生には、あの手の男子に興味があるのは分かっていたし・・・。でもアナタが目撃していたのはちょっと想定外の要素だったんだけど。

でも、キミには別の件で用事もあったので、記憶を奪ったり脳の情報を改竄したりはしないでおいたのよ。」と先輩。

 

 あ、アレって、実験だったのか・・・。それにしても俺の記憶まで奪ったり改竄したりなんてできるのか、コノ人たちは!?。あ、あぶねえな。てか、コワイよ、この先輩。そんな部活動も有りなんだ、へぇ~。少し興味が湧いてはきたが・・・。


「前にキミに見せた体育倉庫であった事件の事を覚えているよね。アレは裏の生物部『スーペリアス』の部活動の一部なのよ。ただし、吸血行為は他の校内生を傷つけてるから、部活動と言っても本来、違反行為に当たるんだけどね。」


 俺はそこまで森原先輩から聞いた時、ようやく一つ腑に落ちた事があった。ウチの学校には、いや他校にも非公開的に存在はしているのだが一般的な表の部活動とは別の特殊な、一般に公開解放されていない特別な部やクラブが有るという噂のことだ。

それは裏の部活とか裏活とか言われ、公には存在していないが学校側も認めた、いくつかの部やクラブが一部の生徒達によって運営され活動が行われているという事実。

聞いた話では、自然科学や社会科学、哲学や文学、芸術、美術音楽等(ただしスポーツや体育系を除く。)に至るある分野に特別に秀でた人間達のさらなる知的活動、知的欲求を満たす事を目的とした課外活動を為す集団が、この虹色学園内に存在すると言われているのだ。

その活動内容として、ある裏活では課外活動以外にも「特別講義」と称して従来の授業とは全く異なる内容の授業や講義が行われたり、他校の裏の部やクラブと試合や対戦なども通常とは全く異なる手段や方法で組まれたり、通常とはかなりかけ離れた独特な研究活動を行う事が保証されているといった具合に非常にユニークと言えば聞こえはいいが、いわばかなり特殊で異質な活動が非合法スレスレのところで秘密裏に行われているというから驚きだ。


 しかし、そういった裏活に参加できる人間はある特殊分野で相当な能力や実績、資質がなければ部に選ばれることは全く無い。ある意味、限られた学生生活の期間の中でそういう部活動に参加できる事自体が非常に栄誉ある出来事であり、選ばれる人間の方こそまさに「エリート」と言っても過言ではないのだ。


 俺は、森原先輩の顔を見ながら考えていたことを訊いてみた。

「でも、俺にあの吸血事件や海東の件を見せてくれたってことは、何か俺にも裏活に参加できる資格があるってことですか?。」

「鋭いわね。そう・・・キミ次第なんだけどね・・・。」ともったいぶるかの様に先輩は顔を俯かせた。

「キミに睡眠薬を嗅がせたり、悪いことをしたのは謝るわ。ただ、それだけいろいろと危険な状況にキミを巻き込んでしまう状況になるのは確実なのよ。それでもいいなら・・・なんだけど・・。」と言葉を途切れ途切れに繋ぐ先輩。


 だが、俺にはもう決心がついていた。今まで、何のリスクもなくただ社会の定められたルールと既成のレールに乗っかってダラダラと生き、二度と来ない折角の若い青春の時期を難なく「普通」に過ごして、月並みの人生を送りつつ歳を取る・・なんて生き方はイヤだった。 

ま、ともかくも俺は先輩の導きに誘われることとした。自分でもこんな参加は初めてだったのもあるが、化学系の分野に興味もあったし実際に俺の得意分野でもあった。しかし、何よりも興味があったのはその『ゴッド・ケミカリーズ』という組織がどんな部活動をしているのかの一点に尽きる。学校生活の表の舞台とは真逆の裏の世界の生活において一体どんなものやことがそこに待っているのか、まさに冒険心が俺を突き動かしたのだ。

こうして俺は、先輩の言葉に従って第二校舎3階にある『化学実験室』に翌日の放課後に行くこととなった。


 翌日の放課後、俺は校舎3階の『化学実験室』へやって来た。中に入ると既に何人かの生徒達が集まっていたようだった。男子生徒が3人に女子が5人いた。いずれも2年生以上の上級学年生徒ばかりだ。その中の男子2年生とおぼしき眼鏡をかけた長身で痩せ型の上級生が俺を見て、

「コイツか、デビルズアイの所有者ってのは。」と言った。


 デビルズアイ?何のこっちゃと思いながら俺は挨拶した。

「1年C組継森 将です。ヨロシク!。」


「面白そうね、この1年生。私の実験対象者になってくれないかしら。」とどなたか女子の方。するとボーイッシュな女子が、

「いーや、ボクの必殺技の相手助手ってことで。鍛えがえありそうじゃん。」とか言われる始末。

皆さん初対面なのにひでーコト仰られる・・・(俺、サンドバッグじゃないよ)。

すると先ほどのメガネ男子が「私の実験データーの対象者には・・ちょっと向かないかな。この手の男子に女を誘惑できる要素はまるでなさそうだ。どの女子も喰いつかないだろうよ。」とまるで俺を値踏みするかの様な目つきでそう言った。

俺は(ははん、こいつが海東との件で何とかフェロモンとかの実験をやった張本人だな。)と実感した。しかし、俺に女が「喰いつく」要素が無いとは・・・コノヤロなめんなよ!!!。とは言え、少々自尊心が傷ついたが・・・。


 やがて、森原先輩がパンパンと手を叩いて「みんな聞いて。この度新1年生でデビルズアイの能力を持っている継森 蒋君だよ。ゴッド・ケミカリーズに入部することになったわ。ヨロシクね。」と言った。こうしてひととおり挨拶を済ませてから、俺は他の部員の自己紹介を一人ずつ受けた。

まず男子は三人とも2年生で、久地縄 隆という眼鏡をかけた痩せぎすの体型をした秀才肌の人物が中心人物の様だった。。彼は人間の異性同士を強制的に性的誘引してしまうスーパー・フェロモンを目下のところ研究開発中と言い、前回の海東の件もその実験プログラムの一環なのだと話った。

次に背が最も高く長髪の2年生が道谷 幕也。彼は周りの色と同色になるカメレオン・テクノロジーの分野で活躍しており、人間の透明化や擬態技術に造詣のある人物だと言った。今、その研究は軍事目的や諜報活動への利用で注目を浴びているという。

最後に同じく2年生で笑っている様な目をしたクラファード・ミカエリス・トップダウンがいた。彼はアメリカからの帰国子女で特に化学が得意の高校2年生だった。校外の全国化学グランプリ大会でもトップクラスの成績を誇る外国人生徒で、特に物理化学に関してはものすごい知識を持ち、数々の実験を重ねているという。ただ、具体的にどんな研究をしているのかについては、この場では明かしてくれなかった。

 

 一方、女子の方は森原を除く二人が2年生であと二人が3年生という構成で、2年生のボーイッシュなボクっ娘彼女を桐谷 あかねといい、もう一人の2年女子は山ノ上 緑と名乗った。3年生の面々は「後で分かるわ。」と言って自己紹介には応じなかった。どうやら自分達の研究の秘匿性と個人情報に差し障るとかの理由によるので紹介はもう少し時間が経ってからということらしい。それにしても、一体彼等彼女達はこの部で普段何をやっているのだろうか。初対面とはいえ、新入部員に対して紹介も満足にできないほどまでに慎重な対処をせざるを得ない「研究」とは、余程秘匿性のある活動をしているにちがいない、と俺は思った。

もっと不可解なこともあった。俺の紹介で『デビルズアイ』の所有者というワードが出てきた点だ。所有者というからには俺の目に関する能力のことを意味していたことは推察できるものの、一体どういうことなのだろう???。それが俺をこの部に入部させるに足る資格として認められたものなのだろうけれども、今の俺にはそれが何なのか自覚すらできていない有様だった。森原先輩にも訊いてみると、「それは、ある種の波長や周波数の電磁波、通常人には見えない屈折率の光とかが視認可能な視覚能力のことをいうのよ。簡単に言えば、超常的な現象とか幽霊とか人には見えないものを見ることができる能力のことね。」と驚きの答えが返ってきたが、同時に呆れもしてしまった。


「1年生ね。カワイイ顔してるわね~、アタシの弟にならなあ~い?。」と突然、甘ったるい誘惑的な声で話しかけられた。振り返ると茶髪で翡翠色の眼をした髪の長い女生徒が1人佇んでいた。茫然としている俺にその女は、いきなりむしゃぶりつく様に抱きしめてきた。

「だ、誰なんですか?。ど、どうして俺なんかに・・・ウグッ。」ますますきつく抱きしめられ、俺は喘ぐように尋ねた。

「アタシ、年下の男の子が大好きなのお。どお~?付き合いしない~?。」と2つの巨乳の胸の谷間に顔を押し付けられ、温かく柔らかい甘い感触に酔いしれながら、思わず窒息死しそうになる。

しばらく藻掻もがいた後でようやく解放されたが、3年生女子の姫鱒 紅子と名乗ったその先輩は、「オトート、募集中よ♪。アタシは人の性転換の研究をしているの。ヨロピクね♪。」


ひ、人の性転換って・・・・冗談だろ、その研究!?



                      
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る