美人女性教諭が童顔男子生徒を誘惑しているのを見てしまった件

 あの事件の後、俺は森原先輩と会う機会もなく2、3日ブラブラと学校生活を過ごしていた。俺の人生の中でも想定もしていない事件を目撃したのは、やはり潜在的にはショックだったのだろう。何よりもあの吸血行動をしていた中等部の女子が、犠牲となった男子生徒の周囲を透明化しながら瞬間移動していた有様には驚愕してしまったのだ。


 それも透明移動した瞬間、体がピカッと光を放っていてまるで何かのSF映画の特撮シーンの一幕の様な光景だった。保健室に担ぎ込まれた男子生徒は高等部1年生の俺とは別クラスの男子だった。本人には、誰かに襲われた自覚は全くなく、体育の授業終了後体育倉庫へサッカーボールを片付けに行った時、急に眩暈がして倒れてしまったという話だった。その原因も保健室の先生の話では、ただの「貧血」ということで結論づけられてしまっているようだった。


 しかし、あれがミュータントなる特殊な存在による捕食活動の一つだったとしたら・・・。今まで見えてなかった世界の別な側面を俺は見てしまったのではないかと思う。それを思うと急にこの世界や空間が怖くなってきた。普段のありふれた何も問題のなかった日常生活の裏側に誰も知らない「非日常」的な時間が在ったという事実・・・。

 

 その謎を自分自身でどう向き合って生きていくべきか、俺はまだ多少の不安と混乱の中で答えを出せないで悶々としていたのだった。



 俺が教室でボーッとして席に座っていた時、後ろから肩を叩いた者がいた。「ショーちゃん、どうしたの、心ここにあらずって感じでさ。悩みでもあるの?。」と声をかけてきた奴は同級生の海東 達哉だった。とっても少年っぽいというか童顔で背もクラスではそんなに高い方ではない。バドミントン部に所属していて、上は緑色のジャージに下は短パン、白のハイソックスという出で立ちだ。


「いんや、悩みってわけじゃないんだけど・・・。」と俺は曖昧な返答で答えた。

「今日は部活ないから一緒に帰ろうよ。」と海東。


 俺は今日、担任の愛久沢先生に日直として日誌を提出する用があったので、放課後のクラスの掃除の後、海東と一緒に帰る予定とした。そして日誌を出しに職員室へ行ったのだが。


「継森くん、アナタ海東くんの友達よね。海東くんに今日の20時頃まで教室に残っていてくれるよう言っておいてくれるかしら。」と愛久沢先生に意外な言伝を頼まれたのだった。

 愛久沢先生は、俺たち1年C組の担任教諭だ。まだ20代の若さで俺たちにとっては、憧れの「大人の女性」でもあった。容姿は端麗でクラスでも男子、女子どちらの生徒からも慕われており、本当に教師にしておくのはもったいないくらい。モデルか女優になっていてもおかしくはない異性だった。頭もいいし、こんな先生が担任で俺たちはすごく幸せな気分だった。


「え、海東にですか。センセー、海東に何か用事でもあるんですか?。」と俺が訊くと「うん、ちょっと将来の進路や今後のことでご両親から頼まれていることがあるのよ。それでちょっと私の仕事の後で面接したいことがあるのよ。」と先生。


 俺は特にその時は何の疑問もなくその場を後にしたが、海東にその事を伝えた後で段々気がかりになってきた。

愛久沢先生が夜の8時とかそんな遅い時刻に教室にマンツーマンで指導や面接というのもよく考えればおかしいけれど、相手があの海東なんてちょっと首をひねりたくなる。海東のことはよく知っているつもりだったが、先生に呼ばれなければいけないほどの問題や特別な事情なんて何も無いはずだし、奴の両親から何か相談を持ち掛けなければならない様なシチュエーションなんて、正直どこをひっくり返しても全く考えられなかったからだ。


 職員室を出た後、俺は教室で待っていた海東に担任の先生が今日の午後8時に面接をしたいので待つようにという先生の伝言を伝えた。彼もちょっと不審な顔つきをしたが先生ならば仕方ないと思ったのか、そのまま教室で待機することにした。時刻はすでに午後5時を少し回っていたが、俺は海東と世間話や他愛もないよもやま話なぞをしながら時間つぶしをし、一緒に教室内に留まっていた。海東は背はあまり高くないが、運動能力はかなり高くテニス部の現役部員でもある。朝練や放課後の練習や部活動は欠かさず、俺のような帰宅部とは真逆な生活パターンだが、なぜか気が合い、中等部時代からの親しい友人の一人であった。

向こうも俺のことをアニキみたいになついてくるし、ウイやつだと俺自身では思っている。ただ、一部の女子生徒からは童顔のせいかカワイイとの評判もあり、マスコット扱いされているところが彼にとって悩みの種のようだった。


 「あ~、もう7時50分だね。早いなあ。ね、ショーちゃん何か飲み物でも買ってきてよ。喉かわいちゃったよ~♪。ボク、カフェオレで。」と言っておもむろに海東が硬貨を取り出す。

「そうだな~、じゃあ俺が飲み物買ってくるわ。購買部の自販機コーナー行ってくっから荷物見てて。」

「りょ~かい~。」ということで俺が飲み物を調達しに教室を出ていった。


 自販機で飲み物を調達した俺は、先生との面談が始まる前には教室に戻って彼に飲料を渡し、自分は図書室か別の教室で彼の面談が終わるのを待っている予定だった。少し、手間取ったが何とか7時58分ごろには教室の前まで戻りついたのでドアを開けようとしたところ、ふと妙な物音が教室内から聞こえたのでハタと開ける動作を止めて耳を澄ませる・・・・・。


「ハ、はア~んんっ・・・・あ、ア~ッ。」と女の喘ぐような声が突然、耳に飛び込んできた。そして女の声は担任の愛久沢先生のものだとすぐに分かった。

「せ、先生ねえ~、海東くんのことが、ま、前からスキだったのよお~♡。」と狂おしそうな嬌声で囁く愛久沢先生。


「で、でも今日はどうしても、アナタを見ていたら、たまらなくなっちゃったのよ。な、なぜかしら・・・・?。」

俺は自分の心臓が飛び出さんばかりに早鐘の様にドキドキするのを感じつつも、ソッとドアのわずかな隙間から中の様子を窺うことにした。


(なんてことだ!!。先生と海東とのラブシーンがこのシチュエーションで拝めるとは・・・。)と俺も思いもかけぬ状況の展開にただ興味心と興奮と期待とで我を忘れる心持ちになってしまった。


そして教室の中を覗いた俺だったが、飛び込んできた光景に固まってしまった・・。


なんと愛久沢先生が服こそ着ていたもののふくよかなバストに海東の顔を包み込んで、しきりと熱いキスをし続けていたのだった。先生の顔は恍惚とした表情で、すっかり痴態しきって、狂乱化した目つきになって海東にしたい放題のことをしている。


 一方の海東の方も顔を真っ赤にしながらも目がトロンとなって、先生の口づけに最初は抗う様な仕草を見せていたものの、やがて抵抗しなくなり、今ではすっかり先生の餌食となってしゃぶり尽くされているかの様だった。やがて先生はキスを堪能しきった後、左手を海東の短パンへと下ろしていった。

「いいわあ~、もう滅茶滅茶にしちゃいたいわあ~。」


 と、突然俺の口に背後からハンカチの様な布が押し当てられ、ツーンとする臭いとともに俺の意識がふっと遠ざかっていった。(一体、どうなったんだあ!?。)


      ×    ×    ×    ×    ×


 ふっと目が覚めた。辺りを見回すとそこは学校の保健室のベッドの中だった。保険医の先生が向こうで執務をしている。

「あっ、目覚めたのね。大丈夫?。」


 保険医の先生の話によると1年C組の教室前の廊下で倒れているのを宿直の警備員が見つけたとのことだった。もちろん、愛久沢先生や海東のことも聞いてみたが、

「愛久沢先生はもうとっくに帰られているし、海東君もクラスにはいなかったわよ。」と何事もなかったかの様な口ぶりだった。


 俺は少しまだ酔った様な感覚だったが、体や意識には別段何も異常はなかったので、そのまま下校することにした。甦る記憶からは多分、俺の背後から何者かがクロロホルムの滲みたハンカチか何かで意識を奪ったのだと思った。

 しかし、何故?誰が?。それに忘れもしないあの光景・・・・・。担任とその教え子の一人との妖しいまでに妖艶な痴態の情景はいつまでも俺の心から離れることはなかった。


(一体、先生と海東はどうしちゃったんだ!?。やっぱり禁断の道ならぬ恋だったのか。)と想像するだに結論の全く出ないコノ一幕だっただけにアレは何だったのか、明日海東にまた聞こうと思い至ったのだった。


 翌日、俺は海東に会ったが、彼は別に何事もなかったかの様な感じでこう言った。

「え!?。昨日の放課後、教室で先生と僕が抱き合っていただって?。そんな事、あるわけないじゃん、ヒドイ冗談は止めてよ!。」と逆ギレされる始末だった。その様子や口ぶりでは本当にあんな情景があったとは思われない感じだ。

しかし、どうも変だ。先生と海東との情事は確かに見たし、先生もあんな事があったというのにやはり何事もなかったかの様ないつも通りの振る舞いだ。

ま、二人が既にデキていても特にどうこうする気もこちらにはないし、愛し合っていたとしても教師と生徒との関係の一線を越えるのが、世間体や他人の目には好気な姿に映るのが困るという事情もさもありなんというのであれば、平静を装うのもごく自然であって無理からぬものなのかも知れない。


 でも海東に関しては長い友人関係であっただけにせめて俺にくらい打ち明けてくれてもいいじゃないか、同じ時間帯に居合わせてあんな情景を俺が目にする可能性がある位、彼にも分かっていただろうにと思うとなんというか後ろめたいというかガッカリ感の様な複雑な感情が俺の胸中に渦巻いて、ちょっと辛かった。

(あんな海東のどこがいいんだか。先生もヤキがまわったよな。)としかしながら、辛かった感情はやがて嫉妬にも似た気持ちに変わってきた。


 それにしてもここ2、3日の内によくこんなにもいろいろな事が俺の周りで起こっちゃってくれてるよな!!!。ミュータントの女先輩に吸血女、それにダチの色恋沙汰って、俺の高校生活一体、どうなってるんだあ!?。

返せえええ~俺の高校生活、戻れえええ~マトモな青春っ!!!(泣)。と俺は頭の中が半狂乱と化しているのを認めざるを得なかった。

いや、実際パニクっていた。


 しかし先生の態度といい、海東の様子といい何か引っ掛かるというか不自然な感じが俺にはあった。俺の目撃を途中で邪魔し睡眠薬を俺に盛った奴の存在もそうだ。

(これには何か裏があるんじゃないか・・・・・)と俺は新たな疑問を持つのだった。


 


 

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