第二章4『いよいよ参加、だ?』


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 ランキング戦には大きく分けて二つの参加方法がある。

 一つは出場表明型。これは参加者が希望する対戦相手のランクを指定し、条件に合致する相手をランダムに抽出、マッチングさせるタイプだ。

 もう一つは相手指名型。こちらは参加者が希望する対戦相手を指名し、相手の承諾によって試合が成立するタイプだ。

 基本的にはこの二種類の方法が取られるが、ランキング戦では複数対複数や一対複数などの集団戦も認められているため、専門の掲示板などを利用することでそういった対戦も可能だ。

 各参加申請は、一階に数箇所設置されている受付でのみ行える。

 成績という事項が絡んでくるため、本人による直接申請が必須だった。

 そうして申請を終えた後の各種通知は、入学の際に渡された学生証に送られる。

 この学生証は手帳サイズの魔導具で、学校敷地内と申請した各員の住所内でのみ学内情報の送受信が可能になっている。

 この情報にはランキング戦の申請情報だけでなく、開催状況、試合予定表、果ては新聞部の感想記事など、ランキング戦に限らず各祭事ごとの様々な事柄に利用される。

 ちなみにランキング戦の参加申請による通知情報は以下の通りだ。

 まず出場表明型の場合、相手が決定次第、開催時間と会場の情報が送られる。

 余程の混雑でもない限りは、同日中に決定し、一日数回は戦えるだろう。

 次に相手指名型の場合、まず指名された側に参加是非の確認が送られ、承諾の場合は即日中に直接受付へ、拒否の場合は拒否返信のみで試合の成立不成立が決定する。

 指名型は日時の指定も可能なので、大抵は本人同士の事前交渉を経てから行われるものだ。

 そんなこんなで各学生は対戦を期間中何度も行って、自分の順位やランクを変動させていく。


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 出場表明型の受付から少し離れた所でツトム=ハルカは立っていた。

 希望ランクごとに分かれた幾つかの列を見ながら思案する。

 ……さてどこに並んだものか。

 列の数は三つ。C・D混合、B、Aの三列だ。

 Sランクの列は存在しなかった。

 そもそもの該当人数を考えれば、指名制の方が早いということだろう。

 さすがのツトムも初手からSランク生に挑む気は無かった。

 ……先週、トールブリッツさんと戦ったしなぁ。

 彼我の実力差を考えれば今挑んだところで結果は見えている。

 余程の理由でもない限り、今回のランキング戦で彼らに挑むことはないだろう。

 無論、次の機会にはぜひとも挑戦したいところではあるが。

 ではどうするか。

 列に並ぶ人数を見るに、Bランクが最も希望されているようだった。

 いわゆる平均ランクで、該当人数も学年で最も多いのだから当然の結果だろう。

 C・DランクはBの四分の一程の長さの列を形成しており、明らかに少ない。

 AランクはC・Dよりは多いが、Bよりは少なく、半分を越す程度の長さを保っている。

 それぞれの列を見て、しばし思案する。

 C・Dランクはないとして、問題はAとBのどちらにするか、だ。

 Aを選んだとして果たしてどこまで通じるだろうか?

 Sランクであの結果なのだから、Aランクも相応と考えて然るべきだ。

 ならばBを選んで平均を知るべきか?

 しかしそれではAに挑戦するよりも確実に成長できないだろう。

 はてさてどうしたものかとツトムが唸っていると、

「……お前ってツトム=ハルカ、だよな? ちょっといいか?」

 不意に背後から声を掛けられた。

 振り返ると、そこにいたのはクラスメイトの男子だ。

 彼とは特別親しくした覚えはなかったため、咄嗟に名前が出てこない。

「ええと」

 こちらが反応に困っていると、

「あ、悪い。気安く声かけて」

 彼は苦笑しながら謝罪した。

「いや、それはいいんだ別に。それで? 何か用かな?」

 一旦名前の事は脇に置き、ツトムは彼へと問い掛ける。

 すると彼は、ああ、と応じ、

「お前ってもしかしてこれから参加する感じか?」

 目の前の列を指し示す。

「そうだけど?」

「ここにいるってことはまだ申請してないんだよな?」

「そうだね」

 答えると、彼は、よし、とガッツポーズを取った。

 何事だろう、と首を傾げていると、突然彼はパンッと両の手を合わせ、

「頼む! 俺と勝負してくんねえ!? 同じクラスのよしみでさ!」

 勢いよく頭を下げる。

「べ、別にそれは構わないけど……」

 彼の態度に少々驚いてしまうが、それ自体は悪い誘いではなかった。

 どうしようか迷っていたこちらにとっては、渡りに船というものだ。

 こちらの答えに、

「マジで!? サンキュー!」

 彼は喜び、

「んじゃ、指名の方行こうぜ!」

 少し離れたもう一つの受付の方へ歩き出す。

 彼について行きながら、ツトムは何となく気になり、

「どうして俺なんかと?」

 問い掛ける。すると彼は、いや~、と頭を掻きながら苦笑して、

「俺さ、どうしても入りたい部活があるんよ。だからここらでアピールしとこうかなって」

「アピール?」

「お前ってSランクと同じ扱いなんだろ? だからお前とそれなりにやり合えば評価して貰えるかなと思ってさ」

 語られた内容に、ツトムは何とも言えない気分になった。

 確かにSランク相当などと大それたことを言われはしたが、先週の訓練を思えば、そんなことなど決して無い。

「……俺はそんな、大層なものじゃないよ」

 苦笑して告げた言葉に、彼は同情するように複雑な表情を浮かべて笑う。

「まあ確かに、他の連中よか弱いのは分かるよ。病気じゃ仕方ねーし」

 だけど、と彼は続けて、

「先生に認められてんだろ? なら十分強いって!」

 こちらを元気づけるかのように明るく笑ってみせた。

 そして、

「俺は魔力使うのあんま得意じゃねーから、お前は俺の中じゃ結構凄い奴なんだぜ?」

 続いた彼の言葉に、そういうものか、と応じながらツトムは歩みを進めていった。

 表明型受付に比べれば大分人の少ないその受付で、二人して申請を済ませると、即座に開始時刻と会場が伝えられた。

 その結果、試合まで多少時間が空いてしまったので、一旦彼とはここで別れることになる。

 別れ際に、

「そいじゃ、試合よろしく頼むわ!」

 差し出された手に握手で応じ、ツトムもその場を後にした。


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「おかえり」

 リンの声に軽く手を上げて、ツトム=ハルカは応じていた。

「どうだった?」

「いや、まあ、色々あってクラスメイトの――」

 相手の名前を出そうとして、申請の時に軽く聞いただけでは覚えきれず言葉に詰まる。

「――男子と戦うことになったよ」

 ハハ、とツトムが笑って誤魔化すと、

「なにそれ?」

 リンが呆れて苦笑した。

「それが――」

 そうしてツトムは彼女とタクミに事の経緯を簡潔に伝えていく。

 それに対し、

「……何つーか、お前やっぱ大変なんだな」

 タクミがそっと一言呟いた。

「どうして?」

「いや、その、同情の目、つーの? 病気があるから弱くても仕方ねえってのは、結構ひでえ話だな、と思ってさ」

 タクミの言葉に、そうだろうか?、とツトムは首を捻る。

 普通の人からすればそれは当たり前の考え方だろう。

 正直、そんな言葉はとっくの昔に聞き慣れている。

「まあ、言われる当人は分かんないかもね。だって仕方ないとかじゃなくて当たり前だもん。諦めるとか諦めないとか以前の問題で、初めからスタートラインが違う」

 タクミの言葉を、リンが繋ぐ。

「……正直、上から目線だよね。自分がダメなのと、あんたが大変なのを一緒に見てる。お互い事情があって辛いよね~って自分がダメなことに言い訳しながら、病気持った相手に共感するフリして、自分は健康だからそいつより上だって内心笑ってる」

 彼女の言葉に、ツトムはどう返答していいか分からなかった。

 ただ、

「彼はそんな感じには聞こえなかったけどなぁ」

 そこだけはハッキリと言える。

「ならそいつは違ったんでしょ。あんたのこと、本気で凄いって思ってるみたいだし」

 でも、と彼女は続け、

「――誰もがそういう奴じゃない」

 キッパリとそう断言した。

 確かに彼女の言う通り、誰もが誰も彼のように自分を見たりはしないだろう。

 もしかしたら彼女の通りに思っている者もいるかもしれない。

 だけど、

「そんなのどうだっていいさ」

 そう、どうだっていい。

「どんなにその人達が上から目線で何か言っても、俺は止まらない」

 だって、

「俺は俺を諦めないからね」

 その決意はこの学園に入ってより一層強くなっていた。

 こちらの言葉に、二人は笑う。

「あんたはそういう奴か」

「心配するだけ無駄だな、こりゃ」

 そんな二人に向けて、当然だろ、とツトムは笑い返すのだった。

 そうして三人は観客席へと向かっていき、試合時間まで他の試合を見ながら、

「そういや先週の用事って何だったんだ?」

「ああ、それは――」

 エレナ=トールブリッツとの訓練のことなど話しつつ、その時が来るのを待った。

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