第13話 後日談

 翌日のこと。

 私はアノジモト特製ハンバーグが入った弁当をバッグに入れ、ワクワクしながら登校する。

 だって今日は、私もクレクレゾンビになろうって決めたから。


 委員長の葉山さんは、何事もなく教室に入ってきた。いつものように変なメガネを装着した格好で。あれはきっと登校時に職員室で受け取っているのだろう。

「おはよう、委員長」

 私はゆっくりと委員長に近づく。

 手の中に、小さなあるものを隠しながら。

「おはよう、美作さん。昨日は本当にありがとう」

 委員長は丁寧にお辞儀をしてくれる。

 そしてそのまま自分の席へ向かおうとした。

(えっ? それで終わり?)

 昨日の私は頑張った。一人でクラスを救おうと奮闘した。

 本当に感謝してくれているなら、もっとスペシャルなボーナスがあってもいいような気がする。

(まあ、いいわ。ボーナスは自力で勝ち取るから)

 私は委員長の前に立ち、手の中のものつまんでカメラの前にかざした。


「はい、委員長。これは何でしょう?」

 それは、小指の爪くらいの大きさの黒色のチップ。

「マイクロメモリーカード?」

「そう、最も信頼性があると言われているヨンディクス製のマイクロメモリーカード」

「それがどうしたの?」

「さすがはヨンディクスよね〜。写真の画質もバッチリ!」

「まあ、そう言われてるよね」

 委員長はイラッとした表情をする。クラスのみんなから教わった「怒りっぽい」というのは本当らしい。

 でも私は負けない。

 私にはクラスを救ったという自負がある。

 帰りのホームルームでは、みんなが私の味方になってくれたような気がした。

 それにもうちょっと頑張って宣伝しないと、公式ヨイネはもらえないだろう。

「特に、動画からのキャプチャー画質がとっても良い」

 その言葉に、委員長の表情がピクリと変化する。

 どうやら、このメモリーカードが何なのか気づき始めたようだ。

「ちょ、ちょっと、美作さん。何言ってるの?」

「想い人の顔も姿もバッチリ。そんなことにも使えますよ、さすがはヨンディクス製のメモリーカード!」


「美作さん……もしかしてそれは……!?」


 そう、このカードは昨日、メガネ型カメラの中から出てきたのだ。トイレに行った時にポロリと。きっと変なところを触っちゃったからに違いない。

 委員長はうつむき加減で顔を真っ赤にする。

 怒りが沸騰し始めたのだろうか、それともめっちゃ恥ずかしい……とか?

 でもダメダメ委員長。ちゃんと前を向いてくれなくちゃ!

 これじゃカードの宣伝ができないじゃない。私はヨンディクス社の公式ヨイネが欲しいんだから。

「なになに? 二人で何やってんの?」

 その様子に気づいた和諸が近づいてくる。

 待ってましたと、私は和諸の手を掴んで自分のところへ引き寄せた。

「あれれ? 噂をすればなんとやら」

 ほらほら、委員長。

 和諸と私は幼馴染だからね。委員長にとっては超羨ましいこんなこともできちゃうんだよ〜。

 私は和諸の腕にぎゅっとしがみついた。

「美作さん、見たわね!」

 さらに顔を真っ赤にして私を睨みつける委員長。

 そう、このマイクロメモリーカードの中身は、和諸のキャプチャー画像で一杯だったのだ。すれ違いざまの正面写真や、授業中の後ろ姿。校庭を眺める横顔や弁当を食べる笑顔とか。これって一歩間違えたらストーカーだよ。

「許さない! こら、返せ!」

 委員長はいきなり手を伸ばしてくる。予期していた私はヒラリと避ける。

 その刹那、先生が教室に入ってきた。

 それを見た委員長は表情に悔しさを滲ませ、渋々と自分の席に着く。

「お弁当の時に返すからね〜。その時はよろしく、委員長」

 さあ、今日こそはアノジモトの公式ヨイネをゲットするんだ。そのために、昨日はちゃんとセリフを用意して、可愛い笑顔を作る練習を積んだんだもん。

 まずは授業中にたっぷり寝て、英気を養わなくちゃ。

 朝のホームルームを聞きながら、私は一人闘志を燃やすのであった。



 おわり

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学級委員長は見ているゾ(ライブ配信が暴く学園の闇) つとむュー @tsutomyu

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