長い夢

紺色です

第1話

寝ているとき、私は決まってとある夢を見る。その夢はとても現実味を帯びていて、まるで本当に実在しているかのようだった。



ミーン、ミーン

 蝉の声が相変わらずしている。今日も煩わしいくらい大きな声で彼らは泣いていた。私はというと、今日は学校の終業式なので、学校へ歩いて向かっている。

時刻は朝八時ごろ。朝だというのに、爽やかな風なんて全くない。むしろ蒸し暑いくらいで、最近の夏は朝でさえこれだと心の中で毒づいた。だからと言って、この暑さがマシになるわけではないのだけれど。


 「それにしても、もう七月も終わりか。」

ふと自分の口から漏れ出た言葉は蝉の声にかき消されてしまった。けれどもそんなことはどうでもいい。そう、もう七月なのだ。あまりにも早い季節の巡りに最近は驚いてばかりである。私が小さいころは、もっと時間はゆっくりと流れていたような気がする。毎日が長くて、終わらないんじゃないかってくらいだった。

 でも、今はどうだろう。最近は、なんだかよくわからないうちに、そしてあっという間に時間は過ぎて行ってしまっていた。特にこれと言ってやりたいことがあるわけではないので、困ることはないのだが、それでもここまで時間の経過が早いと、さすがに最近は気になっていた。



 親戚どうして集まったときなんかに、よく言われた言葉を思い出す。皆幼い私に向かって口をそろえて「人生あっという間よ」なんて言うのだ。それが当時はうっとうしくて仕方なかったし、本当のことだと信じ切れてもいなかった。だけれども、今ならわかる気がする。年をとるにつれて、時間の経過が早く感じてしまうというのはどうやら本当だったようだ。



「ああ本当に面倒くさい。」

何となく出たその言葉に対した意味はなかったけれども、私の本心だっていうことには変わりはなかった。でも今日は終業式で、これから学校はしばらくない。私は部活にも入っていないから、本格的に長い休みが楽しめる。どうせ午前中には終わるだろうし、そう気に病むことでもないか。


「えー、ですから今回私が皆さんに伝えたいことは…。」

 学校の体育館の中、校長がひたすら何かをしゃべっていたけれども、まったくもって耳には入ってこない。もうこっち早く帰りたいのだから、早く終わってくれと願うばかりである。大体こういう時は私は決まって夢のことを思い出していた。

ちょうどいいくらいの暇つぶしである。


 




「今日で一学期も終わりかー」

 私と同じくらいの年頃の少女がそういった。肩を少し超えるくらいのサラサラの茶髪にきれいな目をした少女だった。

 彼女はいつだって私の夢の中にいた。私の夢にはなぜか彼女が絶対に出てくるのだ。もちろん、私は彼女に会ったことはない。私が見る夢は彼女が常に主人公だ。

 この夢は、そう、まるで彼女の人生のようだった。

彼女の名前は夏。彼女自身は、名前と性格がとてもあっているようでもあったし、あっていないようでもあった。

 確かに彼女は夏のように爽やかな性格の持ち主ではあると思うが、だからと言って、今の夏のようにむさくるしくなく蝉の声や、ぎらぎらと光る太陽とはまた別のもののような気がしたからだ。

 どちらかというと、涼しげな、というか爽やかな夏の朝という感じである。それくらいが彼女にはちょうどいいと私は思う。

 「ほんとだね、しばらく夏に会えないのが寂しいよー」

 「またまた、夏休みといってもそんなに長いわけじゃないんだから。」

 「でもー」

そしてたわいもない会話が始まっていた。そしていつの間にか彼女の周りには人が増えていく。

 私とは正反対だ。彼女を夢で見るたびにいつも思う。私は彼女のように人とかかわるのが得意ではないし、むしろ面倒なことには巻き込まれたくないという理由もあって一人でいるのが好きだったりする。だから私は、一緒にトイレ行こうよ!!とかって人に言ったこともない。基本的には一人でいたいような人間だった。周りの人たちは、そんな私を見てどこかさみしい人だなだなんて思っているのだろう。実際、あの人は関わりずらいから一緒にいたくないだなんてことを誰かが言っているのを聞いてしまったことがある。もちろん、そんなことを言われていい気がするわけではなかったが、仕方がないことなのかもしれないと自分でも思った。

 「ねえ、夏はさ。すごいよね、いつもいろんな人に頼られてさ。」

 ふと、誰かが彼女にそんなことを言った。彼女は私と同じ高校二年生ながら、ちょっと他の人間とは一線を置いていた。だいだい、この年になって思ってきたことだけれども、大人も子供もたいしてさなんてないのかもしれない。  

 「そんなことはないよ。」

彼女は笑って返す。

 「だって、今まで一体何人から相談受けてんのさ。」

そう、彼女はものすごくいろんな人から頼りにされてる。毎日毎日いろんな人から相談を受けてはそれを真摯に返している彼女の行動が私にはものすごく不思議に見えて仕方がなかった。どうしてそこまでするのだろう。別に自分のためになるわけでもないのに。大体そんなこと面倒なだけだ。もちろん、その時相談に乗ったのがきっかけで後々その人と仲良くなれたり、自分が困っているときに助けてもらうことだってできるかもしれない。 

 でも、それを差し引いても別にどうだってよかった。人となるべくかかわらないようにしている自分には到底理解できないんだろうなと思う。


 






「それでは、良い夏休みを」

ああ、やっと終わったか。どうやら無駄に長ったらしい校長の話が終わったらしい。どうせ真面目に聞いている人間なんてほとんどいないのだからわざわざ話さななくてもいいのにと、毎度毎度のように思ってしまう。それか、どうせ話すならもっと面白い話をしたらいいのにと思う。実際、面白い話ならば生徒たちも耳を傾けるはずである。









「ねえ、海井さん。さっき先生があなたのことさがしてたわよ。」

終業式も終わり、とっとと帰ってしまおうと思っていたところ思わぬ人物から話しかけられた。普段ほとんどしゃべったことのないクラスメイトだった。

 「そう。ありがとう。」

それだけ言って私は踵を返した。私は夢の中の彼女のようにはなれない。彼女のように人当たりがいいわけでもなければ、ヒトから相談されることもない。私はそんな自分が好きではなかったけれど、別に嫌いでもなかった。

 「面接だって。先生はクラスの人全員とやらなきゃいけないなんて言ってたけれど、あなたはそんなことしたって別に話すことなんてないって思っていそう。」

 後ろからした声に思わず立ち止まる。先ほどのクラスメイトだ。一体どうしたというのだろう。

  振り向いた先にいたクラスメイトは、私と目を合わせることなくそういった。 

 「そう思っているのは、私だけじゃなくてあなたもなんじゃないの。」

私は彼女を見つめてそういう。クラスメイトのその人は別に成績が特別いいわけではなかったけれど、悪いということはなかったし素行も普通で交友関係だって何の問題もなさそうな人だった。もちろん、誰にだって悩みはあるものだけれども。


 「相変わらず、こわいひと。」

クラスメイトの彼女は、そういってますます私から目線をそらした。彼女は結局何がやりたいのだろう。私と仲良くなりたいとでもいうのだろうか。いや、それはないか。それとも…。

 「私、あなたに聞きたいことがあるの。」

弱弱しく私に話しかけられた言葉はしっかりと私にも届いていた。









「あなた、なにか不思議な夢でもみてるの?」








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