第3話 新しく来た子

恵露園は4つの組に分かれている。

りんご組、いちご組、ぶどう組、めろん組。

りんごといちごは女の子、ぶどうとめろんは男の子の組だ。

「なんかグミの種類みたいやんな。」

たつきが言う。

たつきはぼくらの学年のリーダーみたいな存在だ。

走るのが速くて声が大きい。

「それにめろんだけなんかおしゃれやんね。」

かずとが言う。

かずとは誰とでも仲良くなれる。

要領がいいっていうのだろうか、中学生や高校生の人ともびびらずに話しているのがすごい。

「まひろはメロン嫌いやからいちごでよかったわぁ。」

間の抜けた声。

まひろは女の子でとてもおっとりしている。

3年生ってもっとうるさくてもいいと思うんだけど。

「まひろはおんなやからまずめろんちゃうやん。」

笑いながらさくらが言った。

活発な女の子。

髪の毛を短くしたら男子って言ってもいけるくらい。

今は日曜日のお昼すぎ。

午前中は走り回っていたから中学生のみんなは建物の中でテレビを見ている。

中学生の人は最低でも12歳。

ぼくより3歳も違う。

みんな新しく入ってきたぼくを空気みたいに扱った。

でもこの子たちはぼくが入ってきてまだ1週間経たないうちから色々説明してくれた。

「ここにいる誰もが通ってきた道なんやねんから。」

かずとが言った事を思い出す。

「おれはまだここに来て1年経ってへんからはるやに共感してんねん。

まぁでもそんな人見知りってわけじゃなかったから結構すぐ慣れれたけどな。

でもはるやはちゃうやん?

明らか人見知りやん。

やからおれは話しかけてんねん。」

といった裏がよく見える話をしたけれど、かずとはいいやつだ。

同じぶどう組でもよく世話をやいてくれる。



「なぁ、あれまた新しい子来るんちゃうん?」

たつきが木に登りながら言った。

そんなにすぐに来るのか?

ぼくが来てからまだ半年も経っていないのに。

半信半疑でたつきの目線の先を見ると、軽自動車が園の駐車場にとまろうとしていた。

かずとがヒューと口から息を吐いた。

理由はわかる。

「かわいい。」

そう、かわいい。

一時保護所にいるときは髪は絶対低いところで結ばないといけない。

前髪が伸びている子はちょんまげにしないといけない。

車から降りた子は前髪をちょんまげにはしていないものの、後ろ髪は低く結ばれている。

服も一時保護所からの支給だからかわいいわけが無い。

それなのにここまで9歳児に思わせるとは.......!

切れ長なのに大きな目。

下唇が少し厚い。

鼻筋は通っていて、それでも小さい。

「でっか。」

そう、大きい。

身長が横にいる女の人よりも大きい。

165は超えているだろうな、というような。

あとなんだろう、がっしりしている。

肩幅が広い。

何かスポーツをしていたのかな。

ぼくら5人がじーっと見ていると、彼女がこちらを向いた。

ぼくと目が合ったのかな。

笑って手を振ってくれた。

照れくさくなって横を向いたらさくらが手を振っていた。

なんだ、ぼくじゃないか。

恥ずかしい。

「ねえ、そろそろもう1回ケイドロせん?」

まひろが言った。

嫉妬かな?

まひろはたぶんぶりっこしてる。

まぁ、かわいいはかわいいんだけれど作られた感があってあまり好きじゃない。

「やなー、やろか。」

たつきが応じる。

グラウンドに走っていくときに彼女の後ろを通った。

気になってチラッと見てしまった。


また目が合った気がした。

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紺と灰色の水の中 伊佐 春是 @isa-shunze

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