聖なる夜に二人だけの百合と愛を

阿賀沢 隼尾

聖なる夜に二人だけの百合と愛を

「早く家に帰らなくちゃ。雪菜が待ってる」

 バイトが終わって、急いで恋人の雪菜が待っている家へと向かう。

 クリスマス一色に彩られた町中には、恋人や若い仲良し組が闊歩している。


 その中を糸の目を潜り抜けるように走り抜ける。

 雪菜が作ってくれた赤いマフラーを首に巻き付ける。

 熱い吐息がマフラーにかかる。

 私の誕生日に買ってくれた彼女自作のマフラー。


 不器用な雪菜が一生懸命作ってくれたマフラー。

 所々に糸玉が出来ていたり、模様が不規則だったりしたけれど、彼女と私が同居し始めてから初めてくれた、私にとっては大切なプレゼント。


 それを貰った時、今まで溜まっていた吹き溜まりが一気に噴き出した。

 ずっと不安だったから。

 雪菜と付き合ってから、ずっと周りの人の視線がどうしても気になってしまって。「好きです」って言った私は我儘で。彼女は無理をして私と付き合っているんじゃないかって。

 雪菜は優しいから。だから、私と一緒にいたんじゃないかって。私を憐れんで一緒にいるんじゃないかっていう不安がずっと心の中にあった。


 でも、違った。

 彼女も私のことを想っていた。


 そのことがその時――――私の誕生日の時――――分かったから。

 雪菜はずっと私を大切にしてきたんだって理解出来たから。


 だから、私と雪菜がその時一つになるために、私は雪菜が作ってくれたマフラーを長くした。

 雪菜と私が編んだマフラー。

 私と雪菜との共同のマフラー。


 前半は不器用なマフラー。

 だけど、温かい。

 心に蝋燭が付いたような優しい温かみのあるモヘア素材が私の心を包んでくれる。


 後半は私が編んだマフラー。

 雪菜と私の編んだマフラー。

 初めて私達が一つになったもの。


 このマフラーを首に掛けると、雪菜と一つになった気がする。

 彼女の甘い、薔薇の匂いがするような気がする。

 それが私の癒しだ。


 悴む両手に時々息を吹き掛ける。

 それでも、零度以下の温度下にある空気ですぐにまた冷えてしまう。


 横断歩道を渡り、住宅街に入る。

 所々にクリスマスのグラデーションをしている家を見かける。

 もう、夜の8時だ。

 部屋の中からは子供のはしゃぎ声が聞こえてくる。


『中谷』という表札を見つけると、その敷地に入っていく。

 中から光が零れ落ちている。


「雪菜。ただいまーー」

「美冬、おっかえりーーーー!!」

「う、うわぁ!」

 表玄関を開けると、家の中から何かが飛び出してきた。


 モフモフな肌触りの良い感触。

 人の肌ではない。

「み、美冬。なあに? その恰好?」

「見て分からない? トナカイよ。トナカイ」

「と、トナカイ?」

 目線を下から上へ移動させる。


 トナカイのぬいぐるみを雪菜は全身に被っているようだ。

 胸の辺りにほんのりとしたふくらみが見える。


「ん、こ、これって……」

 彼女の腰に手を添えてみる。

「ひゃっ!! 美冬!! いきなり何してんのよ! くすぐったいじゃない!」

 滑らかな曲線に柔らかい肌触り。


 これって、もしかして……。

「雪菜。もしかして、服を着てないの?」

 雪菜の顔から火が出る。


「そ、そうよ。私は今裸なんだよ。悪い?」

「ふうん。そうなんだ」

 自然と自分の顔がほころぶのが分かる。

 いたずら心を擽られる。


「え~い。こちょこちょこちょ。くらえ!! 秘技、四十八手の極意!!」

「あ、あ、あ、あひゃひゃひゃはやはひゃはひゃはやはあや!! ひ、ひい、ひいいいひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!!!」

 体の感度の良い所をひたすら刺激し続ける。


 ふふふ。

 私は知っているのだよ。

 雪菜の弱点は。

 熟知をしているのだ。


「こ、この――――。美冬、止めなさい。このっ。こうなったら仕返しよ」

 どこから取り出してきたのか、雪菜の両手にはトナカイのぬいぐるみが握られていた。

「くらえーーー! 美冬!! あんたも裸になるのよ!!」

「き、きゃーーーー!!!!」

 身包み剥がされ、トナカイのぬいぐるみを無理矢理着せられる。裸の上から。


「ちょっと。雪菜……」

「大好きだよ。美冬」

 雪菜が私の背中と後頭部に手を置き、引き寄せてくる。


 熱い吐息が顔にかかる。

 甘い匂いが鼻を突く。匂いだけでイってしまいそうだ。

 サクランボのような真紅の小さな唇と私の唇を重ねる。


 飴を食べているかのような甘さが口の中に広がっていく。

 舌と舌を絡ませる。

 お互いの唾液が混ざり合い、独特の味がする。

 ナメクジとナメクジの交尾。

 口からいやらしく透明の液体が垂れ流れる。


 クチュネチュクチュと、お互いの深紅色のナメクジを激しく行為させ合う。

 更に激しく。

 留まることを知らない二人の愛の蜜。


 それはどこまでも甘い、二人だけの世界。

 それを邪魔する者はだれもいない。


 体が熱くなってきた。

 両手を雪菜の二つのふくらみに持っていく。

 いや、それは違う。

 自然に手が向かうのだ。

 まるで、引力に引きつられていくように。

「んっ」

 呻き声が漏れる。

 でも、これは私達の愛の形だ。


 蕾を掴み、雪菜の性感帯を刺激させる。

 彼女の呻き声の頻度が上がっていく。


 次に、下の方の白い饅頭を右手で鷲掴みをして揉み解す。

「雪菜ちゃんの胸って大きいよね。お尻も。饅頭みたいにとても柔らかいし。私は好きだよ」

「も、もう。美冬ちゃんったら……」

 顔を真っ赤にさせて俯く彼女の頭を優しく撫でる。

 だって、こんなに可愛いんだもの。


「ね。ベッドに行こ?」

「ん。良いよ」

 私達は一糸纏わぬ姿となって――――生まれたままの姿になってベッドの方へと向かう。


 お互いの愛を確かめる為に。

 愛の形を確かめるために。


 私と雪菜は聖なる夜ならぬ、性なる夜を過ごした。

 二人だけの世界で。

 二人だけの時間で。

 お互いの「好き」を確かめる為に。

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聖なる夜に二人だけの百合と愛を 阿賀沢 隼尾 @okhamu

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