前のエピソード――設定公開：イリス＝オリヴィエ連合王国の航空行政と航空機用エンジン　前編

：王国の航空機用エンジン

　ここでは、王国がどんな航空機用のエンジンを開発していたのか、簡単にご紹介したいと思います。

　熊吉は、王国の王立空軍を、なるべく現実に存在したかのような組織として、血肉のあるものとしたかったので、本編には登場しないこの様な設定も作ってみました。

　史実のエンジンの開発も、少しでも性能向上させるために各国共に血道をあげていたものなので、この辺を追ってみるのも面白いのではないかと思います。

　ちなみに、王国のエンジンの名前は、植物の名前からとっています。

　花言葉などからよさげなものを選んで考えてみたのですが、植物そのものの見た目にはこだわっていないので、ちょっと適当だったかもしれません。

・空冷星形エンジン

：「シャードン（あざみ）」シリーズ

　空冷星形、単列の、王国の旧世代機や、練習機などに装備されていたエンジンです。

　原形機は外国から輸入、ライセンス生産していたものであり、王国の空冷星形エンジンの始祖となる存在です。

「シャードン」設定

・出力　　４００Ｂｈｐ（英馬力）

・形式　　空冷単列星形５気筒

・過給機　機械式　一段一速

・燃料　　キャブレーター方式　品質指定なし

：「カモミ（カモミール）」シリーズ

　空冷星形、複列の、王国の複葉戦闘機「エメロード」や、単葉戦闘機「エメロードⅡ」などに装備されているエンジンです。

　イメージとしては、零戦や隼に装備されていた栄が近く、性能は栄などを参考に設定しています。

　後述する「アリストロシュ」エンジンの兄弟機という設定です。

　この兄弟機設定は、史実における瑞星、金星、火星エンジンが、金星を中心として小型化したのが瑞星、大型化したのが火星という話を聞いたことがあって、そういうのもありなのかと、作中に取り入れてみました。

「カモミＭ１１」設定

・出力　　９００Ｂｈｐ（英馬力）

・形式　　空冷複列星形１４気筒

・過給機　機械式　一段一速

・燃料　　キャブレーター方式　品質８７オクタン

・発展型

：Ｍ２１　ブースト圧を高めるなどして出力を向上させた形式。また、高高度性能も二速過給機の採用で向上。出力　１０００馬力、機械式一段二速過給機、キャブレーター方式、９２オクタン燃料

：Ｍ２２　最大回転数などを向上させた改良型。出力　１１５０馬力、機械式一段二速過給機、キャブレーター方式、９２オクタン燃料

：Ｍ３１　高オクタン燃料の使用を前提に、さらにブースト圧を高め、出力を向上させた改良型。しかし、王国では高オクタン燃料の製造ができないため、水メタノール噴射装置で補助を必要とする。出力　１３００馬力、機械式二段二速過給機、キャブレーター方式、１００オクタン燃料または９２オクタン燃料＋水メタノール噴射

：「アリストロシュ（ウマノスズクサ）」シリーズ

　カモミシリーズの兄弟エンジンです。

　爆撃機用の大出力発動機として、シリンダーを大型化するなど、大直径のエンジンとして誕生しました。

　作中では、王国の主力爆撃機である「ウルス」などに搭載されています。

　「雷電」の様な戦闘機を開発していた、という設定を盛り込んでも、面白かったかもしれないです。

「アリストロシュＭ１１」設定

・出力　　１２００Ｂｈｐ（英馬力）

・形式　　空冷複列星形１４気筒

・過給機　機械式　一段一速

・燃料　　キャブレーター方式　品質９２オクタン

・発展型

：Ｍ２１　現役のウルスに装備されているエンジンです。ブースト圧を高めるなどして出力を強化しています。出力　１５００馬力、機械式一段二速、キャブレーター方式、９２オクタン燃料

：「キャブセラ（ナズナ）」シリーズ

　王国が、次の新鋭戦闘機用に開発を行っている２０００馬力級のエンジンになります。

　イメージとしては、誉が近い存在です。

「試製キャブセラ」設定

・出力　　１８００Ｂｈｐ（英馬力）

・形式　　空冷複列星形１８気筒

・過給機　機械式　二段二速

・燃料　　キャブレーター方式　品質１００オクタン

・発展型

：試製キャブセラ改良型　計画のみで将来開発する予定。排気タービンの装備を予定。出力２０００馬力、排気タービン二段二速、キャブレーター方式、１００オクタン燃料

：「ソージュ（サルビア）」シリーズ

　王国の次期主力爆撃機用に開発が行われている、高出力のエンジンです。

「試製ソージュ」設定

・出力　　３０００Ｂｈｐ（英馬力）

・形式　　空冷複列星形２２気筒

・過給機　排気タービン　二段二速

・燃料　　キャブレーター方式　品質１００オクタン

・液冷エンジン

：「ビュイス（セイヨウツゲ）」シリーズ

　液冷Ｖ型の、王国の旧世代機や、練習機などに装備されていたエンジンです。

　原形機は外国から輸入、ライセンス生産していたものであり、王国の液冷エンジンの始祖となる存在です。

「ビュイス」設定

・出力　　４００Ｂｈｐ（英馬力）

・形式　　水冷Ｖ型６気筒

・過給機　機械式　一段一速

・燃料　　キャブレーター方式　品質８７オクタン

：「ジンニア（ヒャクニチソウ）」シリーズ

　ビュイスを発展させた、王国の液冷Ｖ型エンジンになります。

　作中で登場するプラティークなどに装備されているエンジンです。

「ジンニアＭ１１」設定

・出力　　９００Ｂｈｐ（英馬力）

・形式　　液冷Ｖ型１２気筒

・過給機　機械式　一段一速

・燃料　　キャブレーター方式　品質８７オクタン

・発展型

：Ｍ２１　使用燃料を９２オクタンとし、ブースト圧をあげるなどして出力を向上させた改良型で、現行型のプラティークはこれを装備した型になっています。出力　１２００馬力、機械式一段二速過給機、キャブレーター方式、９２オクタン燃料

：「クロキュス（クロッカス）」シリーズ

　王国が将来装備する戦闘機、爆撃機用のエンジンとして開発中の、液冷Ｘ型の大出力エンジンになります。

「試製クロキュス」設定

・出力　　３０００Ｂｈｐ（英馬力）

・形式　　液冷Ｘ型２４気筒

・過給機　排気タービン　二段二速

・燃料　　キャブレーター方式　品質１００オクタン

：「マルグリットゥ（ヒナギク）」シリーズ

　王国が将来装備する戦闘機、爆撃機用のエンジンとして開発中の、液冷Ｈ型の大出力エンジンになります。

　モデルはネイピア・セイバーです（※ただし、高高度性能向上のため、排気タービン仕様になっています）。

エピローグで英軍のタイフーンやテンペストを出そうかと画策中なので、ある読者様のアイデアをいただき、設定に盛り込ませていただきました。

　ご意見、ありがとうございました。

「試製マルグリットゥ」設定

・出力　　３０００Ｂｈｐ（英馬力）

・形式　　液冷Ｈ型２４気筒

・過給機　排気タービン　二段二速

・燃料　　キャブレーター方式　品質１００オクタン

：「グレナディエ（ザクロ）」シリーズ

　王国の主力戦闘機であるベルランに装備されている液冷倒立Ｖ型エンジンです。

　史実のＤＢ６０１をモデルとするエンジンで、王国では戦前に帝国からライセンス生産の権利を購入し、独自に改良して量産しています。※ちなみに、帝国での名称は、ワーウルフ（人狼）で、帝国の主力戦闘機である「フェンリル」（Ｂｆ１０９がモデル）が装備しています。

　史実のＤＢ６０１がＤＢ６０５に改良された様に、王国でも同様の改良を施し、ベルランＤ型機に装備されています。

　ところで、紫電改丙様が作成してくださった模型ですが、機首に使っているのが、ＤＢ６０５を装備する様になった形式のＢｆ１０９Ｇだったんですよね……。

　熊吉は最初、気づかなかったのですが、ベルランＤ型の装備するエンジンがＤＢ６０５相当に改良されているという設定まで拾っていただけていたということでしょうか。

　機首の形状にもしっかりとＤＢ６０５が入っている機の特徴が残してありました。

　だとすると、それに気づけなかった熊吉は、お恥ずかしいばかりです。

　紫電改丙様、改めて、ありがとうございました。

「ワーウルフ」設定

・出力　　１２００Ｂｈｐ（英馬力）

・形式　　液冷倒立Ｖ型１２気筒

・過給機　機械式　一段一速

・燃料　　キャブレーター方式　品質８７オクタン

・発展型

：Ｍ１１（グレナディエに名称変更）　王国の国情に合わせ、直噴式からキャブレーター式に変更され、小改良されて量産されたエンジンです。作中では、試作型ベルランなどに装備されていました。出力　１２００馬力、機械式一段二速過給機、キャブレーター方式、８７オクタン燃料

：Ｍ２１　ブースト圧の向上などによって出力を上昇させた改良型。作中ではベルランＡ型とＢ型に装備されています。出力　１３００馬力、機械式一段二速過給機、キャブレーター方式、９２オクタン燃料

：Ｍ３１　ＤＢ６０５相当の改良を施されたエンジンです。シリンダーの内径を拡大するなどしてエンジンの排気量自体を向上させ、エンジンの大きさは変わらず、出力の大幅な向上を達成しています。作中では、ベルランＣ型、Ｄ型が装備しています。出力　１８００馬力、排気タービン二段二速過給機、キャブレーター方式、１００オクタン燃料または９２オクタン燃料＋水メタノール噴射

　王国の航空機用エンジンのご紹介は、以上となります。

　読者の皆様に少しでもリアルさを感じていただければ、嬉しく思います。

　次回より、いよいよ最終話となります。

　すでにエピローグとして１話分を計画していますので、もうしばらくイリス＝オリヴィエ戦記をお楽しみいただける予定ですが、最後まで頑張りますので、どうぞ、よろしくお願いいたします。