:設定公開(ベルランD型他)

※2020年6月27日、15-8節の記述修正に伴い、「層流翼形は発生させる揚力が通常の翼形に比べて小さくなる」という趣旨の設定を削除いたしました。

詳細は熊吉の近況ノートをご覧いただけますと幸いです。


 以下、設定公開となります。


 お疲れ様です。熊吉です。

 イリス=オリヴィエ戦記を読んでくださっている皆様、ありがとうございます。

 以前よりも読者様が増えてきており、熊吉はやる気になっております。

 これからも、もっともっとたくさんの方に高評価をいただき、より多くの読者様にイリス=オリヴィエ戦記を楽しんでいただけますように頑張って参ります。


 今回、主人公たちの乗機が一新されたことから、設定公開と題しまして、王国の新鋭戦闘機「ベルランD型」を始め、3種類の機体についての設定をご紹介します。


・新登場した機体説明


:F3696「ベルラン」D型


 新しく主人公たちの乗機になった、王国の主力戦闘機「ベルラン」の大幅改良型です。

 倒立V型12気筒エンジンである「グレナディエ(ざくろ)」シリーズの抜本改良型となる新型エンジン、グレナディエM31系列(イメージとしてはDB601→DB605といった具合です。これらは直噴式のエンジンですが、王国では良質の燃料噴射ポンプが生産できなかったため、グレナディエエンジンはキャブレーターで混合気を作ってシリンダーに送り込む方式に変更されたという設定になっています)を装備し、主翼を通常の翼断面から層流翼として、飛躍的な性能向上を果たしています。

 エンジンの出力向上に伴い、プロペラの羽の数がこれまでの3枚から、4枚に増えています。

 また、視界を改善するため、風防をバブルキャノピーとしています。


 層流翼というのは、翼で生じる空気抵抗を減少させるために翼断面の形状を改良したものになります。通常の翼の断面では最厚部が前方から全長の三分の一ほどのところにあるのに対し、層流翼形ではそれよりも最厚部が翼の後方によっています。

 層流翼形が生まれたのは、翼の最厚部より後ろでは気流が乱れやすく、それによって空気抵抗が増すと考えられていたためです。翼の最厚部を後方へとずらすことで気流の乱れを抑え、スムーズに空気が流れる翼の前縁部分を増やすことによって空気抵抗を減少させることを狙いました。


 層流翼については旧日本軍で研究が盛んであり、多くの機体に採用実績があります。また、有名なところでは、米軍の名戦闘機であるP51シリーズが有名です。

 日米の層流翼には違いがあり、その詳細については、熊吉からはとてもご紹介しきれないので、より詳しい情報は一般に販売されている雑誌や書籍の方をご覧になっていただければと思います。

 ベルランD型の場合は、P51の層流翼を真似したものになります。「前縁部分にパテ盛りをしたうえで研磨を行い、ツルツルに磨き上げ」ているのはもろにP51の真似です。

 これは、空気にスムーズに流れてもらいたい翼上面の前縁部分の摩擦をできる限り小さくしようという工夫であった様です。


 また、層流翼形になるのに合わせ、ベルランD型では武装も一新されました。20ミリモーターカノン1門に加え、両翼に2門ずつの4門の20ミリ機関砲を装備し、合計5門の20ミリ機関砲を装備しています。

 これによって射撃時の反動が増加しているため、ベルランD型の射撃装置のトリガーは2段構造になっており、1段目が射撃時の反動を抑えた「交互発射モード」(主翼の20ミリ機関砲が、片翼の2門が交互に発射するようになる)で、2段目が「斉射モード」(装備されている機関砲が全門一斉に発射される)になっています。

 このため、常に発射されることになるモーターカノンの装弾数は翼内に装備されたものよりも多くなっています。


 翼の変更に合わせ、既存の王立軍機の運用で問題となった航続距離の不足を改善するため、翼内燃料タンクなどの追加も行われています。ですが、エンジン出力の向上などもあって大幅な延長には至っておらず、増槽頼みの状況です。


 ベルランD型の開発経緯ですが、どうしてこの様な大幅な改良機が、ベルランB型の実戦投入から1年もしない内に配備されたかと申しますと、「元々は実戦投入予定の無い技術試験機として、ベルランの開発と並行して作られた機体だから」であります。


 王国では王立空軍が作成した「誕暦3693年航空整備方針」という軍用機の開発目標に基づき、「次期主力戦闘機」としてエメロードⅡを、「将来主力戦闘機」としてベルランを開発していましたが、この時代の航空機の進歩は早く、例えベルランが成功しても、連邦や帝国に並ぶ事ができるのは短期間であろうと見込まれていました。

 このため、ベルランを原型として、様々な新技術を試験し、その次の機体につなげるための研究機として製造されていたのが、この「ベルランD型」の大本となっています。


 先進的な理論であった層流翼(しかも手間のかかるパテ盛りと研磨をしている)を採用し、シリンダーの内径を拡大するなどして出力の向上を図ったことに加え排気タービンや二段二速過給機を導入した新型エンジンを採用し、ほとんど別物とも言える機体になっているのはこのためです。


 この「技術試験機」は最高速度時速700キロメートル以上を目標とし、飛行試験で実際にそれを達成したという設定です。


 ベルランB型の実戦投入によってひとまず連邦や帝国に並ぶ事ができたものの、より強力な戦闘機が必要とされるのは自明のことでした。

 王国では技術試験機のデータを生かしてじっくりと次世代機を開発する予定だったのですが、戦争という状況の中ではそんな悠長なことはやっていられません。

 そんな状況でこの技術試験機の実績は注目され、実用機として武装を施し、落下式増槽や爆弾などを装備できるようにしたのがベルランD型となります。


 重武装化によって技術試験機が達成していた時速700キロメートル以上の最高速度は発揮できなくなりましたが、それでも十分な高性能機であり、後述するベルランC型を差し置いて王国の主力戦闘機として採用されることになりました。


 主人公たちに引き渡された機体は、技術試験機を原型として実用機モデルに改良され、制式化された機体の最初の量産機です。

 機体番号が「3000」番台となっているのは、それまでのベルランとは根本的に違う機体であるため、区切りを新たに付けたもので、ベルランのそれまでの総生産数がちょうど3000機だったわけではありません。

 3001号機が、ベルランD型の量産機第1号となります。


 この様な最新鋭機が301Aに真っ先に供給されたのは、主人公は自覚が足りていませんが301Aが王立空軍の中での最精鋭部隊として認識されているためです。

 所属するパイロットは全員エースクラスで、実力も実績もある部隊なので、実は301Aは王立空軍内では優遇される様になっています。人事的な面でもほぼ人員が固定化されているのもこのためです。


 ちなみに、作中でナタリアが勝手に乗り回していたのはベルランD型として最初から生産された機体ではなく、「技術試験機」から改修された、ベルランD型の試作機です。

 機体の性能や内容は一緒になっていますが、元々が技術試験機そのものであったので、量産機の様な連番での機体番号がありません。

 301Aでは、部隊の中での管理が面倒になるので便宜上「3000号機」として運用しています。


 ・搭載エンジン 液冷倒立V型12気筒「グレナディエ」M31 排気タービン式二段二速過給機 キャブレーター方式 1800馬力(ただし、100オクタン燃料に限る。92オクタン燃料の場合は水メタノール噴射装置使用時のみ最大馬力 30分間発揮可能)

 ・最大水平速度 毎時692キロメートル 高度7000メートル

 ・燃料搭載量 巡航700キロメートル+戦闘30分+離着陸40分+予備30分 (落下増槽使用時 巡航1000キロメートル+戦闘30分+離着陸40分+予備30分)

 ・武装 20ミリモーターカノン×1、20ミリ機関砲(主翼)×4

 ・爆装 250キロ爆弾×1、または50キロ爆弾×2、または落下式増槽×1

 ・防弾 操縦席後方防弾鋼鈑(対12.7ミリ機関砲弾相当)、操縦席前方防弾ガラス、防弾式胴体内燃料タンク、同燃料タンク自動消火装置(熱感知式)、消火器×1


:F3696「ベルラン」C型


 既存の翼形のまま、武装が収まるようにだけ再設計を加えた機体に、強力な新型エンジンであるグレナディエM31エンジンを装備した機体になります。


 ベルランB型で問題であった、主翼に装備した20ミリ機関砲が出っ張っているという問題を解消し、新型エンジンによって機体そのものの性能を向上させたモデルになります。

 エンジンが換装されたことにより高高度性能も向上しており、風防の形状も視界向上のためベルランD型と同じくバブルキャノピーに変更されています。


 エンジンの換装と、主翼に20ミリ機関砲が収まるようになったことから性能は大幅に向上し、新主力機として大きく期待されていました。


 しかし、前述の技術試験機からの改造機であるベルランD型がC型以上の高性能を発揮したためC型は制式採用されながらも量産が見送られ、先行量産型が高高度防衛用として少数が実戦配備となっただけに終わってしまいます。

 翼内燃料タンクの装備も見送られており、航続距離はベルランA、B型から変化がありません。


 ベルランD型よりも低性能となってしまったのは、通常の翼形を採用したC型は空気抵抗がD型よりも大きいことに加えて、C型ではプロペラが3枚のままで、エンジンの出力を推進力に変える効率で劣っていたため、という設定です。


 ・搭載エンジン 液冷倒立V型12気筒「グレナディエ」M31 排気タービン式二段二速過給機 キャブレーター方式 1800馬力(ただし、100オクタン燃料に限る。92オクタン燃料の場合は水メタノール噴射装置使用時のみ最大馬力 30分間発揮可能)

 ・最大水平速度 毎時647キロメートル 高度7000メートル

 ・燃料搭載量 巡航600キロメートル+戦闘30分+離着陸40分+予備30分 (落下増槽使用時 巡航900キロメートル+戦闘30分+離着陸40分+予備30分)

 ・武装 20ミリモーターカノン×1、20ミリ機関砲(主翼)×2、12.7ミリ機関砲(主翼)×2

 ・爆装 250キロ爆弾×1、または50キロ爆弾×2、または落下式増槽×1

 ・防弾 操縦席後方防弾鋼鈑(対12.7ミリ機関砲弾相当)、操縦席前方防弾ガラス、防弾式胴体内燃料タンク、同燃料タンク自動消火装置(熱感知式)、消火器×1


:F3695「エメロードⅡ」C型


 エメロードⅡシリーズの性能向上型として生産、配備された戦闘機になります。

 総合的な空戦性能ではベルラン系列に劣るエメロードⅡですが、王立空軍では実用に耐えうる性能の機であれば何でも投入する必要があり、生産ラインを根本から作り直す必要のあるエメロードⅡからベルランへの生産転換には時間も予算もかかるため、生産が継続されている機体になります。


 もちろん、エメロードⅡにも良い点はあり、ベルランよりも運動性が良く、空冷機であるため整備も容易で、滑走路が未整備な状況ではベルランよりも運用しやすいという特徴を持ちます。

 また、ベルランD型よりも実戦配備が早かったことから、作中では航続距離が不足しているベルラン装備部隊に成り代わってフィエリテ市近郊の連邦空軍部隊に対する航空撃滅戦に参加しています。


 エメロードⅡC型は、王立空軍の防空専門部隊である防空旅団や、爆撃機の護衛を主任務とする戦闘機部隊で使用されていくことになります。

 あくまで王立空軍の主力戦闘機の座はベルランのものですが、補助兵力としてエメロードⅡも軽視できない活躍を示し、空戦だけでなく対地支援任務でも活躍していくことになります。


 ・搭載エンジン 空冷星形14気筒「カモミ」M31 機械式二段二速過給機 キャブレーター方式 1300馬力

 ・最大水平速度 毎時574キロメートル 高度6000メートル

 ・燃料搭載量 巡航900キロメートル+戦闘30分+離着陸40分+予備30分 (落下増槽使用時、巡航1200キロメートル+戦闘30分+離着陸40分+予備30分)

 ・武装 12.7ミリ機関砲(機首)×2、12.7ミリ機関砲(主翼)×2

 ・爆装 250キロ爆弾×1、または50キロ爆弾×2、または落下式増槽×1

 ・防弾 操縦席後方防弾鋼鈑(対12.7ミリ機関砲弾相当)、操縦席前方防弾ガラス、防弾式胴体内燃料タンク、同燃料タンク自動消火装置(熱感知式)、消火器×1


 今回の設定公開は以上となります。


 他にも、読者様に知っていただきたい設定や、軍事的な豆知識などあるのですが、そちらはまた時間のある時にご紹介できればと思っています。

 とりあえず、「王国の空にはこんな飛行機が飛んでいる」と思っていただければと思います。


 これからも、熊吉とイリス=オリヴィエ戦記をよろしくお願いいたします。


※作者注

 層流翼には「効果があった」「無かった」という議論があり、概ね「効果が無かった」という意見が強いようであります。

 これにもいろいろな原因があり、熊吉が層流翼の機体の中で、どうしてP51を参考にしているかという動機もこの層流翼の有効性についての議論の中に理由があります。

 層流翼そのものに効果を発揮させることはできなかったけれど、そのために行った工夫は性能発揮に効果があっただろうという話があります。

 もし興味を持っていただけたのなら、いろいろと調べていただけると、熊吉としてはとても嬉しく思います。


※エメロードⅡが装備しているエンジンにつきまして、「星形で12気筒なのは構造的におかしい」とのご指摘をいただきました。確認させていただいたところ、熊吉の勉強不足で12気筒としてしまっていたことが判明いたしました。このため、エメロードⅡが装備するカモミシリーズのエンジンですが、14気筒のエンジンとして修正させていただきました。

 ご指摘、ありがとうございました

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