10-8「20ミリ機関砲」

 前線は、上空から見るとはっきりと見て取れた。

 というのも、王立軍の塹壕線(ざんごうせん)に沿う様にして、連邦軍の砲弾の炸裂によってできる爆発と、土煙が見えるからだ。

 それが、何キロメートルにも渡って、カーテンの様に続いている。


 戦いは、その、砲弾の炸裂によってできる爆発と土煙の向こうで、激しく続いている様だった。

 さすがに細かい所までは見えなかったが、連邦軍の弾幕(だんまく)が留まっている所はまだ制圧されていないということで、友軍がまだそこで頑張っていると考えていい。


 戦っている味方を支援したい気持ちは大きかったが、無暗(むやみ)に突入しても意味は無い。それに、敵の砲弾が雨の様に降り注いでいる中へ突っ込んでいくのは、自殺行為だ。流れ弾が当たりでもしたら、何かをする前にバラバラに吹き飛ばされてしまう。

 僕らは、あくまで、前線後方の、味方の陣地を攻撃しにやって来る敵機を待ち受けることにした。


 連邦軍機による攻撃は、朝からひっきりなしに行われていたから、僕らは、攻撃目標をすぐに見つけることができた。


 敵機と遭遇した時、僕らは高度6000メートル付近にいた。

 天候は晴れ、雲量は3くらい(空を見渡した時、雲の量が3割、空が7割見える状態)で、見張にはほとんど苦労しなかった。


 侵入してきたのは、あの、連邦軍の四発爆撃機、シタデルだった。

 12機の編隊を組んだシタデルは、前線のこちら側、王立軍の陣地の後方を絨毯(じゅうたん)爆撃するために、高度4000メートルほどを密集して進入してきた。


 戦闘機の護衛が、ついていない。

 無線越(ご)しに、レイチェル中尉がチッ、と舌打ちする音が聞こえた。


《連邦の奴ら、あたしらがいないと思って護衛なしで飛んできやがった! まぁ、いい。たっぷり後悔させてやる! 全機、攻撃するぞ、あたしに続け! 》


 レイチェル中尉はそう号令すると、機首を下げ、シタデルの編隊に向かって突入を開始した。

 僕らはそれに従い、次々と、レイチェル中尉を追って突入を開始する。


《先頭の1機を狙う! 隊長機を落とせば、少しは爆撃の精度が落ちるかもしれん! 301A全機、先頭の1機に集中射撃をするぞ》


 僕らは、微妙に進路を調整しながら、シタデルの編隊へと迫った。

 敵機は、爆撃の狙いを定めるために集中しているのか、進路を変えない。僕らの存在に気付いていないのか、それとも、無視しているのか。


 やがて、敵機の銃座が、僕らの方向へ銃口を向け、射撃を開始した。

 だが、僕らは降下しつつ接近していったため、高速だった。敵機の防御射撃は偏差(へんさ)を十分に取れていないもので、僕らに命中する気配すら無い。


 僕らはレイチェル中尉の後についていくだけでよかった。中尉についていくだけで、敵機の後ろ上方、敵機を狙いやすい位置に入り込むことができた。


 先頭のレイチェル中尉のベルランが、装備された機関砲を発射する。

 一撃離脱をするために速度をつけているので、敵機に対して射撃できる時間は短かったが、中尉はそれでもしっかりと命中弾を与えた。


 20ミリ機関砲の威力は、元が対戦車用の高初速砲であるだけに、やはり大きい様だ。レイチェル中尉のたった1回の射撃だけで、エンジンの1つが完全に停止した様子だった。

 レイチェル中尉の機体が敵機をかすめて飛び去って行くのとほぼ同時に、ジャックの機体も射撃を開始する。


 ジャックも、攻撃を命中させた。そして、シタデルはエンジン部分から出火し、黒煙を引き始める。


 シタデルは、火災の発生に備えて消火装置を備えている。すぐに火災は消されてしまうだろう。

 だが、そうなるより前に、僕が砲弾を撃ち込めれば。


 僕はもう、敵機を射撃する間合いに入っている。照準もできている。


 トリガーを引くと、僕の機体に装備された2門の20ミリ機関砲と、2門の12.7ミリ機関砲が一斉に発射される。

 どちらも、命中していく。20ミリ機関砲の砲弾は徹甲榴弾と言って、敵機の装甲を打ち破った後に炸裂するタイプの砲弾だったから、その炸裂する様子でなおさら、命中しているところがよく見えた。


 僕の攻撃は、シタデルが消火装置を作動させて火災を消し止めるよりも早く、シタデルの巨大な主翼に突き刺さっていった。

 20ミリ機関砲の砲弾はそこで炸裂し、シタデルの翼を抉(えぐ)り取る様に破壊していく。


 やがて、シタデルの翼は強度を失い、真っ二つに折れた。


「うわっ!? 」


 僕は慌てて、飛び散った破片を避けなければならなかった。


 僕は機体を降下させ続けながら、すぐには自分の眼にした光景が信じられず、慌てて後方を、僕らが攻撃を加えたシタデルの方を振り返った。


 僕の見間違いでは無かった。僕らが攻撃を加えたシタデルは、片方の主翼をその根元近くで失い、炎と黒煙を引きながら、ぐるぐると回転しながら落ちていく。

 千切れてしまった主翼も一緒だ。


《わぁっ、危ないじゃない! 》

《このっ! ミーレス、どこ撃ったんだよ!? 》


 僕の後から続いていた2機、ライカとアビゲイルは、墜落していくシタデルの破片に巻き込まれない様に慌てて回避行動に入って行った。


 どこを撃ったんだよと言われても、僕はこれまでの様に、シタデルのエンジンを狙って撃っただけだ。

 想像以上に、ベルランに装備された20ミリ機関砲の威力があったということだ。


 エメロードⅡBの12.7ミリ機関砲と、7.7ミリ機関銃で撃ちまくってもわずかしか手傷を追わなかった、あのシタデルが、こんなに簡単に落ちるなんて!


 だが、冷静になって考えてみると、実質的に3機がかりで落としたようなものだから、シタデルの堅牢さが並外れたもので、撃墜が困難であることには変わりない。

 変わりないのだが、それでも、エメロードⅡでは、1機のシタデルを撃墜するのに13機がかりだった。

 それを思い起こせば、ベルランの強力な武装は、大きく、輝いて見えてくる。


 高度2000メートルほどまで降下し、機体を水平に戻した僕らは、攻撃態勢を解いてレイチェル中尉の機体を先頭に編隊を組みなおし、ハットン中佐のプラティークと合流するための進路を取った。


 僕らは、12機編隊の中の1機を落としただけだったから、戦況に影響があったわけでは無い。僕らの攻撃で爆撃の狙いが外(そ)れ、味方への損害が少しでも減ったことを祈るだけだ。


それでも、5機、全機で無事に帰還できる上に、強力な敵機を撃墜する戦果をあげられたことは、現在の不利な戦況を考えれば十分、勝利と呼べる内容だった。


 無線越しに、レイチェル中尉が吹いたらしい口笛の音が聞こえる。


《派手に撃ち落としてやったな! 技術部の連中、きちんと仕事したみたいじゃないか! 》

《よぉ、ミーレス! あんなの初めて見たぜ! あの頑丈なシタデルの主翼が2つに折れるところが見られるなんて、思わなかったぜ! 》


 ジャックの言葉も、興奮気味の様だった。


《私たちは1発も撃てなかったけどね》

《別の機体を狙えばよかった。もう1機くらい落とせたかも》


 対して、1発も射撃することなく引き上げることになった第2分隊の2機は、冷めた様な感じだ。


《コイツが、あと3ヶ月。いや、1ヶ月でいいから、早く配備されていたらな……。まぁ、いい。全機、帰還するぞ! 》

》》


 それは、僕らにとって、久しぶりに見えた希望だった。

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