第7話 ポンコツの迎えとJS

 

 ほぼ初対面の小学三年生女子とお風呂に入るという非常に、大変非常に犯罪ギリギリの行為を行った俺は、現在、そのJSとお喋りをしている。

 実際は美和さんが全裸で突撃してきただけだけど。

 あの美和さんが一人でお風呂に入れないとはねぇ……ギャップがあって可愛いです。

 傲慢で冷徹で自尊心プライドが高くて女王のような威厳が漂う美和さんは、優雅にソファに座っている。

 モチモチスベスベぷにぷにの肌はポカポカと火照っている。

 何故知っているかって? もちろん、美和さんのお身体を触ったからだ。

 可愛らしい顔立ちの可愛い瞳でギロリと冷淡に睨まれる。


「………ペドファイルめ!」

「止めて! 俺はペドフィリアの性癖持ちじゃないから! 美和さんが自分でお風呂に入ってきたからだろ! 俺のせいじゃない!」

「まあいい」


 うぅ…何あの鋭い眼光。心が砕けそう。

 その時、ピンポーン、とインターフォンが鳴った。

 一体誰だろう?


「………来たか。随分早かったな」


 美和さんは訪問者がわかっているらしい。

 ということは、訪問者は八尺瓊やさかにの優愛ゆあさんだな。

 玄関に向かい、ゆっくりとドアを開ける。

 ドアの前には、美和さんを大人にした姿の若い女性が立っていた。

 スタイルは抜群で、スーツを着ており、やり手の秘書かOLみたいだ。

 ちなみに髪はボブカットだ。ショートボブ。


「あ、あの! 狭間結理はざまゆいりさんですよね? ウチの美和がお世話になりました! 『ガンッ!』 あぅ~~~~っ!」


 優愛さんが勢いよく頭を下げ、ドアに額をぶつけて蹲る。

 あぁ…何このポンコツ感…。うわぁ…。

 額を押さえて可愛らしく唸っている身体から放たれるポンコツオーラ。

 俺は何故この人と初めて会った時にこのポンコツを見抜くことができなかったんだろう…。


「………大丈夫ですか?」


 ポンコツオーラに悟っていた俺は、取り敢えずポンコツ美女に声をかけた。

 おでこを押さえ、瞳を涙でウルウルとさせて蹲っていた優愛さんが、上目遣いで見上げてくる。


「………大丈夫…です。うぅ~いちゃい…」


 ぐはっ!? か、可愛い! ドストライクです!


「優愛。またやったのか…とことんポンコツだな」

「あぁっ! 美和ちゃん! ただいまぁ~!」


 部屋の中から呆れ顔で出て来た美和さんに、優愛さんが飛び掛かって抱きかかえる。そして、ムニムニと頬擦りしている。


「うぅ~! 美和ちゃんは今日も可愛いねぇ~! うりうり~!」

「止めろポンコツ! ユイリが見ているだろうが!」


 ビクゥっとした優愛さんが頬擦りしたまま固まり、錆びついた人形のようにギギギッと首を動かす。

 俺と目が合った。


「本日は娘の面倒を見てくださり、誠にありがとうございました」


 急に真面目モードになった優愛さんがお礼を言ってくれる。

 うんうん。最初に引っ越しの挨拶をした時はこんな感じだった。

 でも、今のを見てしまうと今更感が凄い。何この落差の激しさ。エンジェルフォールくらい落差がある。ギャップが凄い。

 そういえば、二人は姉妹ということは美和さんに隠しているんだったっけ? 親子という設定だったっけ? とっくに本人は知っているけど。

 俺も知らないふりをしておこう。


「いえいえ! とても頼もしくて手がかかりませんでしたよ」

「ふんっ! 当たり前だ!」


 美和さんお得意の傲慢で得意げなドヤ顔。優愛さんに抱っこされて俺と同じ目線なのに見下されている感じがする。


「あれっ? 美和ちゃん、素なの?」

「面倒だったからな。優愛も素が出てるだろう?」

「うぐっ! そ、それは美和ちゃんのことが心配で心配で……変なことされてない?」


 まあ、心配になるよねぇ。でも、地味に俺の心が傷ついた。


「夕食を食べたりゲームしたり踏んだり風呂に一緒に入ったが、それくらいだ」


 美和さん! 何暴露しちゃってるの!? 優愛さんがキッと俺を睨みつけてるんだけどっ!?

 あぁ…終わった。俺の人生終わった。警察に通報されて逮捕され――


「美和ちゃんとお風呂に入るなんてズルい! 私が一緒に入りたかったのに!」

「ふぁっ!?」


 逮捕は……されないようだ。通報もされないみたい。

 というか、怒るとこそこ?


「うぅ~! 私の癒しがぁ~! 猛スピードで仕事を終わらせて疲れきった私の癒しがぁ~!」

「優愛! いい加減にしろ!」

「はっ!? も、申し訳ございません」

「いえいえ」


 うん…優愛さんはポンコツだ! 100%ポンコツだ!

 これはこれでギャップがあって可愛いと思います!


「これはつまらないものですが、美和ちゃんを面倒みてくださったお礼です」


 手に持った荷物の一つ、紙袋を差し出された。

 こ、これはっ!? 超高級な羊羹ではないかっ!? これ美味しいんだよね! 玉露に合いそう!


「私も美和ちゃんも好きなお店の羊羹です。お口に合えばいいんですが…」

「大丈夫です! 俺は和菓子が大好きですから!」

「それは良かったです!」

「優愛、ワタシの分は?」

「ありません! 美和ちゃんがお世話になったお礼なの!」


 優愛さんがメッと叱りつけるが、美和さんがムスッと膨れただけだ。

 なにこの可愛いやり取り。

 あの美和さんの冷たい瞳を平然と見返して叱りつけるなんて……ただ者じゃないな!


「それ言うなら、優愛がワタシの鍵まで持っていったことが原因だと思うのだが?」

「う、うぐっ!」

「えっ? 美和さん、どういうこと?」


 鍵は家の中に忘れてきたって言ってたよね?

 はぁ、とため息をつき、大人っぽい諦観の表情で、やれやれと首を振っている。


「今朝、ワタシと優愛は同時に家を出たんだ。ところが、このポンコツは私の分の鍵まで持っていったんだ。鍵を盗られたワタシは、この通り閉め出されたというわけだ」

「うぅ……私の鍵だと思ったの……」

「何度言えばわかる! 貴様の鍵はネコちゃんのキーホルダーがついていて、ワタシはウサちゃんだ! ネコちゃんとウサちゃん。全然違うだろうが!」

「ふぇ~! 美和ちゃんごめんなさ~い!」


 ウルウルと涙目になった優愛さんが美和さんに頬ずりして謝っている。

 美和さんは鬱陶しそうに小さな手で押しのけているが、優愛さんのほうが力が強い。

 唯我独尊で自尊心プライドが高い美和さんが優愛さんに振り回されている感じがある。これはレアだ!

 というか、猫とウサギのことをネコちゃん、ウサちゃんって言っているのか。可愛いな。


「………ユイリ貴様! 社会的に抹殺するぞ!」


 また口に出てしまっていたのか!? 不味い! 殺される!

 しかし、ここには聖母がいた。優愛様という聖母が降臨していた。


「美和ちゃんメッ! ダメでしょ!」

「ちっ!」


 なん…だと!? あの美和さんが苛立ちを露わにして舌打ちをしただけだと!? あり得ない!

 美和さんが『忘れろ! じゃないともぐぞ!』という怒りと殺意の瞳で睨んでいるから、俺はそっと視線を逸らす。

 忘れることはしません。ばっちり記憶しておきます。

 美和さんを抱っこしたまま、優愛さんが丁寧に何度もお辞儀をする。


「本日はありがとうございました。美和ちゃんもほら!」

「………………今日は助かった。ご飯、美味しかったぞ」


 美和さんがデレた。やはり美和さんはツンデレだった!

 でも、デレるならその俺を殺しそうな瞳を止めてくれませんかね? その屈辱というか、嫌々言わされている感がビシバシ伝わってくるんだけど。

 俺、次に美和さんと出会ったら殺されそう…。


「では、おやすみなさい」

「ふっ。せいぜい良い夢でも見るんだな!」

「ええ、おやすみなさい。美和さんもおやすみ」


 ニコッと微笑んでくれた美女と、上から目線の尊大な美幼女。

 二人はお隣の部屋へと戻っていく。

 俺はそぉっとドアを閉めかけた時、お隣の家の前であたふたと慌てる声が聞こえた。


「あ、あれっ? ドアが開かない!? 一体何でっ!?」

「………優愛。貴様鍵は開けたのか?」

「おぉ! 開けてなかった! ごめんねぇ~」


 呆れ顔で指摘する美和さんと、ポンっと手を打って鍵を開けていないことに気づいた優愛さん。

 うん、優愛さんはポンコツ美人だ。

 一人で納得した俺はガチャリとドアを閉めるのだった。

 美和さんがいなくなって一人になった部屋の中。

 とても静かで、ほんの少しだけ寂しく感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女(ヒロイン)は小学生 ブリル・バーナード @Crohn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ