第6話 お風呂とJS
「あ゛ぁー!」
思わずおっさんみたいな声が漏れ出る。
丁度いい湯加減の温かいお風呂。心と体が癒される。気持ちいい。
チャポンと水滴がお湯に落ちる音がして、波紋が揺れる。
傷つき疲れきった心が修復されていく。
「あ゛ぁー!」
今日はとても疲れた。お隣さんの小学三年生女子のおかげで猛烈に疲れた。
学校から帰宅したと思えば、呆然と立ち尽くすランドセルを背負った少女と出会い、警戒され泣かれそうになったかと思うと、家に上げた途端態度が豹変。威厳の放つドS小学生へと変化した。
美和さんの毒舌と冷たい嘲笑によって心を何度も引き裂かれ、粉砕された。
あれは心に響いた。俺じゃなかったら引きこもるレベル。
「絶対に中身は大人だろ…」
好みも渋くて全然小学三年生には見えない。
まあ、おやつを食べるときや夕食の時は年相応で可愛らしかったけど。
それにしても、あの少女はチートすぎる! 初めてのゲームでメキメキと力をつけるなんて!
ゲーム頑張ろう。次こそは絶対に勝つ!
思わずお風呂の中で拳を握りしめてしまった。ゆっくりと脱力させてお湯に身をゆだねる。
「……でも、久しぶりに楽しかった」
一人暮らしになっていつも一人。当たり前のことだが、静かすぎて寂しかったのかもしれない。美和さんとの賑やかなやり取りが少し心地よかった。
べ、別に美和さんに罵られて馬鹿にされて踏まれたのが心地良かったわけではないぞ! 断じてない! 絶対に違うんだ!
「まあ、美和さんは可愛かったし………」
「
「うおっ!?」
いきなり風呂のドアを開けて入ってきた美和さん。急だったことにびっくりし、美和さんを見て二度目の驚きで言葉を失う。
「どうした、ユイリ? 一人で快楽に耽っていたのか?」
「違っ!? 俺は何もしていない!」
「んっ? 風呂はお湯に浸かって気持ちよくなるものだろう? 貴様は風呂は嫌いか?」
「あっ、そっちの意味か。確かにお湯の温かさで気持ちよくなっていたけど…」
紛らわしい言い方で誤解してしまったではないか。
美和さんが下ネタを言っているのかと思ってびっくりした。中身が大人っぽい美和さんなら言いそうで怖い。
「ってそういうことじゃなくて! なんで美和さんは裸で入ってきてるのっ!?」
「貴様はバカか? 風呂には裸で入るものだろう?」
裸の小学三年生女子の幼女が威厳を漂わせ、可愛らしいツルペタロリの身体を惜しげもなく披露し、冷たい嘲笑を浮かべて仁王立ちしている。
そして、ふっと鼻を鳴らすと、俺に背を向けシャワーで身体を流し始める。小さなお尻が可愛い。
「って何で入ってきてるんだよ! 一人で入ってくれ!」
「
あれっ? なんか可愛い。美和さんが可愛い。
一人でお風呂に入れない? 髪を洗えない?
何その年相応の可愛らしい理由は! 小学三年生で一人でお風呂に入れないって可愛すぎだろ!
さては美和さんじゃないな!?
「貴様、丸聞こえだぞ……やはりロリコンだったか。ペドファイルだったか。確かに
「いやいや! 俺はロリコンでもペドファイルでもないから! というか美和さん! 引くどころか仁王立ちして俺を蔑んでいるじゃないですか! 丸見えだから隠して!」
「ふっ。
「はいはい。流石美和さんですね。傲慢でプライドが高くて威厳があって唯我独尊なところは流石です」
俺は目を瞑って美和さんの身体を見ないようにする。
小学三年生女子と一緒にお風呂。俺ヤバくない? 犯罪だよね? 捕まるよね? さっさと上がろう。
「じゃあ俺は上がるから…」
近くにあったタオルで股間を隠しながら立ち上がった俺の手を、美和さんの小さな手で掴まれる。
「待てユイリ。貴様がいなくなったら
「で、でも、不味くないか?」
「貴様が
「誰がロリに興奮するかっ!? 俺のタイプは大人っぽい女性なの!」
「ならいいではないか。
美和さんがニヤリと笑って、年上の高校一年生である俺を脅迫し、強要し、恫喝し、恐喝してくる。
俺も年上としてこの小学三年生女子に威厳を示さねばならない。
「喜んでさせていただきます!」
はい。脅しに屈しました!
だって、今叫び声をあげられたら終わるじゃん! 未成年者監禁とか、強制わいせつ未遂とか、いろいろな法律と条例に引っかかってしまう可能性が! 俺は何もしてないけど!
俺はタオルを腰に巻き、機嫌よく、うむ、と頷いた美和さんの長くて綺麗な黒髪を洗い始める。
美和さんの髪はサラサラでとても気持ちいい。
「いつもは優愛さんにお願いしているの?」
「そうだぞ。だから風呂は夜中になったり、朝になったりする」
鏡には恐々と目を瞑った美和さんが映っている。か、可愛い。
こんなに可愛いのは美和さんじゃない! もっと人を蔑まないと!
「………なんか猛烈に叫び声をあげてユイリを社会的に抹殺したくなったぞ」
「誠に申し訳ございませんでした! マジで勘弁してください!」
「ふんっ!」
美和さんは鼻を鳴らしただけ。何とか殺されずに済みました。
俺は美和さんの頭を丁寧に優しく洗う。
シャンプーの泡を流し、リンスやトリートメントなどして、はい終了!
「ふぅ。助かったぞ。身体は自分で洗えるから、ユイリは風呂に浸かっててくれ」
「あの…俺はもう…」
「あ゛ん? 叫ぶぞ?」
「浸からせていただきます!」
あんなに冷たくて力強い瞳で睨まれ、ドスのきいた低い声で脅されたら俺は湯船に浸かるしかないよね!
チャプンとお湯に浸かってじっとしておきます。
身体を洗い終わった美和さんが、堂々と全裸で立ち上がる。そして、湯船を覗き込んだ。
「ふむ。それが男性器か。初めて見たぞ。というか、デカいな。そしてグロいな」
「ちょっと! 見るな!」
俺は慌てて股間を手で隠す。隠すのをすっかり忘れていた。
美和さんは全裸のまま仁王立ちし、ふっと冷たく鼻を鳴らす。
「そんなに自信がないのか? 粗チンか?」
「女の子がそういう言葉を言っちゃいけません!」
「ふっ、まあいい。
全裸の幼女が恐る恐る湯船に足を浸け、ゆっくりと入り始める。
小学三年生女子は俺の脚の間にスッポリと収まった。俺の胸を背もたれにしてくる。
「ふぅ~。やはり風呂はいいな」
「美和さん。流石にこれは不味いと思います」
「どこがだ?
「それ以前の問題だよ! 家族ならいいけど俺たちは他人! 赤の他人! お隣さん! それもほとんど今日が初対面!」
「…………あぁ。そういえば貴様は他人だったな。すっかり忘れていたぞ」
少しの間腕を組み考え込んだ美和さんが、ポンっと手を打った。
忘れることか? ほんの数時間前に出会ったばかりだよ!
でも、もしかして、俺って美和さんの身内と思われてる? 家族って思われてる? 俺はお兄ちゃんかな? それなら超嬉しい!
「ユイリ、貴様は
「まさかの犬っ!? 兄じゃなくて犬ぅっ!? 家族じゃなくてペット!? 美和さんの中の俺ってそういう立ち位置っ!?」
「耳元でうるさいぞ、駄犬! 黙れ!」
「くぅ~ん……」
駄犬って言われた。黙れって言われた。修復していた心に再び罅が入った。
美和さんがドSの眼差しで冷笑する。
「貴様が
「っ!?」
今、美和さんが『お兄ちゃん、だぁ~い好き』という言葉だけ、年相応の可愛らしい声で言った。とても可愛らしかった。
何あの声。あざといけど、『ザ・妹』という感じがした。
この胸のトキメキは何だっ!? 萌か!? 妹萌なのかぁ~!?
「………美和さん。もう一回『お兄ちゃん大好き』って言ってくれない?」
「はぁ? 嫌に決まっている」
美和さんは盛大に顔をしかめ、物凄く嫌そうにしている。
でも、妹萌に目覚めかけている俺は止まれない! 心のトキメキが止まらない!
「お願いします! 一回! 一回だけでいいんです!」
「
「お願いします! 一生のお願いです! お願いお願いお願い!」
俺はここで一生のお願いを使う。恥を捨て、頭を下げてお願いする。
あの可愛らしい美和さんの声が聞けるなら、全裸で土下座だってしてやる!
「ほう。そうかそうか。なら全裸で土下座しろ」
「はっ!? また心の声が漏れていた!? でも、実際に全裸で土下座するのはちょっと…」
「ならやらん!」
「えぇー!」
美和さんが瞳に黒い怒りの炎を宿しながら振り返る。
可愛らしい小さな口から、反社会勢力の組長ですら真っ青になる冷たい声が発せられる。
「あ゛っ? もぐぞ?」
「誠に申し訳ございませんでした! 二度とお願いしません! だから、もがないでください!」
俺は即座に意見を引っ込めて謝る。
美和さんが俺を背もたれにしていなかったら、全裸で土下座をしていたかもしれない。
ふっと冷たく鼻を鳴らした美和さんは、チャプチャプとお湯を肩などにかけ始める。その仕草が実に大人っぽい。妙な色気を漂わせている。
はぁ…何とか許してもらえてようだ。よかったよかった。本当にもがれるかと思った。
温かいお湯に浸かっているはずなのに、股間がヒョワッと冷たくなったぞ。
美和さんの脅しにより、胸の中のトキメキが無くなりました。俺の中に妹萌は存在しません!
その後俺は、妙な大人の艶を振りまく小学三年生女子とお風呂に入るという、危険で犯罪ギリギリの謎の時間を過ごすのだった。
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