第5話 ゲームとJS

 

「よしっ! ここでシイタケを投げるっ!」

「ふっ。シメジでガード! からのマッシュルームで加速!」

「あっ! 卑怯だぞ!」

「ふはは! なんとでも言うがいい!」


 俺たちは今、マッシュルームカートで一進一退の白熱した戦いを繰り広げている。

 美和さんをゲームに誘ったのはいいものの、マッシュルームカートをするのは初めてだったようで、最初はぎこちない運転をしていた。

 始めのうちは俺も手取り足取り丁寧に教えていた。

 でも、回数をこなすうちにメキメキと技術を身につけ、あっという間に俺と互角に戦えるようになった。

 小学三年生女子がチートすぎる!


「くっ! いつもボッチで遊んでいるこの俺と互角に張り合うとはやるじゃないか!」

「自分で言って辛くないか?」

「………………辛いです」


 いいもんいいもん! 最近はネットに繋がるから世界中の誰かと遊べるもん!

 学校で友達がいないボッチでもいいんだ! ぐすん。

 憐みの視線をチラッと投げかけてきた美和さん。その隙に内側からドリフトで抜き去る!


「ちっ!」

「どうだ! ここからショートカッうわぁあああああ!」

「見事にショートカットに失敗したな! あっ……」

「美和さんも失敗! いえーい!」


 先に失敗した俺からスタートだ。今のうちに距離を稼がねば!

 アイテムを取り、シイタケを獲得。美和さんに向かって後ろへと投げる。

 当たったか? シイタケは当たったか? キノコが嫌いな美和さんに当たった?


「ふっ。そのような攻撃、ワタシには効かん!」


 い、今のどうやって避けたの!? 詳しく知りたいんだけど!?

 シイタケは防御アイテムを使わないとほぼ必ず直撃するのに!


「ただNPCを盾にしただけだ」


 酷い! 美和さん酷い! 卑怯だ! 残酷だ! このドS小学生!


「あ゛っ?」

「マジすんませんでした!」


 俺は即座に謝った。ドスの効いた低い声。背筋がゾクゾクする。

 また心の声が漏れていたようだ。気をつけねば。

 ちなみに、快感でゾクゾクしたわけではない。恐怖と冷たさでゾクゾクしただけだ。俺は決してドМではない。違うはず。

 NPCを盾にするという絶技で、俺のシイタケ攻撃を軽やかに避けた美和さんが猛然と迫ってくる。

 徐々に距離が詰められる。

 このままだと10連敗が確定してしまう!

 それだけは避けなければ! 年上のプライドというものがあるのだ!


「9連敗をしている段階で年上のプライドもへったくれもないな」


 毒舌な小学三年生女子の冷笑。嘲りの笑いが俺のプライドを粉々に粉砕する。

 ねえ? 本当に美和さんは小学三年生?


「ユイリ喰らえ! ベニテングダケ!」

「うぉっ!? なんてことをしてくれるっ!? 折角のマツタケが落ちてしまったじゃないか! それに一時的に速度低下だなんて! 操作も効きにくいじゃないか!」


 くっ! マツタケを使っておけばよかった。ベニテングダケの効果は効かなかったのに!

 マツタケの効果は一定時間無敵と加速だ。それに対し、ベニテングダケの効果はアイテムロストと一定時間の減速、蛇行運転だ。

 あっ! そっちじゃない! 真っ直ぐ走れ! 蛇行運転するな!


「ふっ。ワタシは運がいいのだ! ここで華麗に抜き去っていく!」


 俺を煽るかのように、カーブでドリフトしながらインコースから抜かされた。

 さっきの仕返しらしい。俺にぶつかる余裕すらある。

 アイテム! アイテム来い! いいのを引け! よし来たっ!


「な、なにっ!?」

「ふはは! マジックマッシュルーム発動! 車の操作が前後左右逆になる凶悪なアイテムだ! 流石の美和さんも効くだろう?」

「くっ!」

「お先に失礼!」


 よろよろとバックしていた美和さんの車を軽やかに追い越していく。

 マジックマッシュルームの効果は意外と長い。

 この隙に距離を突き放す!

 まあ、このアイテムの弱点は使用者にも適応されるということだ。

 だから俺も今、前後左右が逆になりながら操作している。

 アクセルのボタンがブレーキ、ブレーキがアクセル。前が後ろで後ろが前。左が右で右が左。

 でも、暇な時に一人で世界の誰かとマッシュルームカートで遊んでいる俺は、マジックマッシュルームによる逆の操作にも慣れている。お茶の子さいさいだ。

 そろそろマジックマッシュルームの効果が切れるな。

 タイミングを見計らって操作を通常に戻す! よしっ! 成功!


「最後のカーブを曲がり切れば俺の勝ちだ! この勝負、俺の勝ちうえぇぇええええええええ!?」


 思わず悲鳴を上げてしまう俺。

 最終カーブのインコースをドリフトしていたら、途中に置いてあったナメコにぶつかり、車が滑って場外に吹き飛んでいった。

 くっ! なんという時間のロスだ!

 誰だこんな場所にナメコを置いた奴! 絶対性格悪いだろ!


「ふっ。喰らったか」


 静かに嘲笑をしている小学三年生。その横顔は少し得意げだ。

 ナメコを置いたのは美和さんかっ!?

 なら納得。この性格の悪さは美和さんしかいない。NPCには無理だ。この陰険で性根の悪い攻撃は美和さんしかできないな。うんうん。


「うおぉぉおおおお! このまま逃げ切ってやるぅぅうううう!」

「ふっ。マッシュルームで加速! からのマツタケで無敵! ユイリを吹っ飛ばしてゴール! ワタシの勝ちだ!」

「ぬぉぉおおおおおお! ま、また負けたぁぁあああああああ!」


 俺はソファから床に崩れ落ちる。あと少し……あと少しだったのに! くそう!

 これで10連敗。チートな小学三年生女子が強すぎる!

 悔しい! これは悔しい! ゴール直前で無敵モードの美和さんに吹っ飛ばされた! 酷い! 酷いよ! 酷すぎる!

 床で四つん這いになった俺の背中に、ポスッと小さな足が置かれ、踵でグリグリされる。


ワタシに勝つのは100年早いぞ、ユイリ」


 得意げでプライドが高い傲慢な声。

 ふんっと鼻を鳴らして威厳を放つドSなJS。

 勝ったのが嬉しかったのか、俺の背中を小さな足でグリグリしてくる。

 俺は涙目で美和さんを睨む。


「………あのナメコは性格悪いぞ」

「何とでも言うがいい! 勝負の世界は勝つか負けるかだ。ワタシが勝者で貴様は負け犬。引っかかった貴様が悪いのだ!」

「くそう! 何も言えねぇ!」


 美和さんの言うことは正しい。

 あのナメコの配置は戦略的に正しいし、引っかかった俺が悪い。

 でも、悔しすぎる!


「美和さん! もう一回勝負だ!」

「いいだろう。どうせ勝つのはワタシだ!」

「負けても吠え面かくなよ!」

「ふんっ! よく遠吠えするな、負け犬!」


 くそう! 口でも勝てない!

 次の勝負で全てをぶつけ、打ち負かしてやる! 目指せ勝利!

 俺は10連勝して得意げな美和さんに次の勝負を挑むのだった。

















 はい。その後何度も美和さんに挑みましたが、物の見事に全敗しました!

 床に崩れ落ちる俺と、ソファの上から得意げに見下ろす美和さん。

 うわぁ~ん! 負けたよぉ~!

 今日始めたばかりの小学三年生女子に負けたぁ~!

 もっと練習して、いつか美和さんに勝ってやる!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る