第4話 嫌いなものとJS
「美和さん、ゲームしない?」
夕食が終わって時間があったので俺は美和さんをゲームに誘った。
まだ優愛さんはお仕事から帰ってこないらしい。
鍵がなくて家に帰れない美和さんは俺の家に居続けている。
ゲームに誘わないと、小学三年生女子と二人っきりなんて気まずくて無理!
ソファに座って悠然とお茶を飲んでいた美和さんが鋭い眼光で俺を睨む。
「………何のゲームだ? エロゲか?」
「ちげぇーよ! マッシュルームカートだよ!」
マッシュルームカート。全世界で人気のレースゲームだ。
アイテムは全てキノコ。何でも、開発者の子供がキノコが嫌いで、キノコを好きになって欲しいと思って開発したらしい。
人気にはなったんだが、子供はキノコを食べることはなかったらしい。
そういう裏話も含めて人気のゲームだ。
「ちっ! エロゲじゃないのか」
舌打ち!? なんでそんなに残念そうなの!?
エロゲしたかったの? 美和さんは小学三年生だよね!?
「ふむ。
「へぇー。美和さんはキノコが嫌いなのか」
なんか意外。大人っぽい美和さんが子供らしいなんて……。
あっ、本当に子供だった。まだ小学三年生だった。
美和さんは不機嫌そうに俺を睨みつけてくる気配がする。
今はゲームの準備をして美和さんに背を向けているからわからないけれど、美和さんの視線が背中に突き刺さっているのはよくわかる。
俺の背中がブスブスザクザク刺されている。
「なんだ? 悪いか? ユイリは学校のように嫌いなものも無理やり喰わせるのか?」
「えっ? なんでそんなことをしないといけないんだ? 嫌いなものは嫌いでいいだろ? 他のものを食べれば栄養は取れるんだから、無理に嫌いなものを食べる必要はないだろう?」
美和さんはキョトンとする。そして、じーーーーっと見つめてくる。
じっくりと観察されている珍獣になった気分だ。
俺、解剖されないよね? 不安だ。
「優愛と同じことを言うんだな」
優愛さんも俺と同じ考えらしい。
そう言えば俺も小中学校の時は給食で、嫌いなものをなくしましょう!、みたいな感じで無理やり食べさせられていたなぁ。
あれって何の意味があるんだろう?
野菜全部嫌いでお菓子ばかり食べている、みたいな子はダメかもしれないけど、嫌いなものがキノコとか、トマトとか、ナスとか、極わずかだったら別に食べなくてもいいじゃん! 他の物を食べて栄養取ればいいじゃん!
まあ、俺の自論ですが。あっ、優愛さんも同じ考えだった。
俺と優愛さんの考えだ。
俺はゲームのコントローラーを美和さんに渡して、ゲームの設定を始める。
「美和さんはキノコの他に嫌いなものはある?」
「
おっ。年相応だな。
やっと子供っぽいところがちらほらとわかってきた。
「ゴーヤとか? コーヒーとか?」
「そうだな。ゴーヤは無理だな。コーヒーは牛乳を入れてくれたら飲めるぞ。でも、煮干しは好きなんだがな」
渋っ! 美和さんの好みが渋い! 緑茶や和菓子も大好きで、煮干しも好き?
中身はやっぱりおばあちゃんじゃないよね? 俺も好きだけど!
「ちなみに、優愛はキノコが大嫌いだ」
美和さんの母……じゃなくて姉の優愛は見た目は大人なんだけど、意外と子供っぽいところもあるんだなぁ。
ちょっとギャップがあっていいかも……。
「さてと、キノコが嫌いな美和さんとマッシュルームカートをしますか。キャラとかカートは好きに選んでいいから」
「ふむ」
俺はいつものマリージというキャラクターを選ぶ。
美和さんは厳ついワニのキャラクターを選んだ。
なんでそれを選んだのだろう? ちょっと気になる。
「そう言えばユイリよ」
「なんだ、美和さん?」
コースを選びながら、何気ない口調で唐突に美和さんが問いかけてきた。
「何故一人暮らしのアパートにゲームのコントローラーがいくつもあるんだ?」
「ぐはっ!?」
そ、それは聞かないでくれ……。
お願いだからそれ以上踏み込むのは止めてくれ!
しかし、ドSのJSは気にせず続ける。
「高校生になって、友達が家に遊びに来ると思って買っていたのか?」
「や、止めろぉぉおおお!」
「もうそろそろ一カ月が経つよな? 誰か家に遊びに来たのか?」
「うわぁ~ん! 止めてくれぇぇええええ!」
「友達はできたか?」
「ぐふぅっ!?」
俺の心がぁ! 心がズタズタに引き裂かれて踏みにじられたよぉ~!
ええ! そうですよ! その通りですよ!
高校に入学してもボッチですよ! 友達は皆無ですよ!
うわぁ~ん! 現役JSが危機として容赦なく傷を抉ってくるよぉ~!
致命傷を負ってビクンビクン床に倒れ伏した俺を、美和さんがじっと見下ろしている。
「………」
「止めてっ! その悲しみと憐みの籠った優しい眼差しを止めて! せめて罵って! 罵倒して! そのほうが断然マシ!」
「やはり貴様はドМの変態だったか。キモイぞ」
「
「ふっ。注文の多い奴だな。面倒くさい」
パリーンッ!
心が、飴細工で出来た俺のハートが粉々に砕け散りました。
小学三年生女子による嘲りの冷笑。
俺、もう立ち直れないかも……。
「へぶっ!?」
「おぉ。ここにちょうどいい足置きがあったな」
「…………あの~? 美和さん? それ、俺の後頭部です」
「ふんっ! 知らんな!」 ぐりぐり、ぐりぐり!
あっ、あっ! そのロリの脚で俺の後頭部をぐりぐりしないでください!
新たな扉がゆっくりと開きかけているからぁ~!
俺は砕け散った心の修復に必要だった十秒の間、現役の小学三年生女子の脚によって後頭部をぐりぐりと踏まれ続けるのであった。
美和さんのドS!
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