後日談

 あの後、私はお兄に抱かれたまま寝てしまったらしい。

 朝寝坊して起きてきた時、兄が笑っていた。


「で、お兄は珍しくキッチンに立って何してるの?」


「ケーキ焼くんだよ。クリスマスだから」


 私は読み半端の小説本を開いて、適当に「へー頑張って」と返す。けれど、兄は眉をひそめながら弱々しい声で返してきた。


「えー? 手伝ってよ」


……まさか兄の口からその言葉が聞けるとはね。


「もー、しょうがないな」


「あははははは、ありがとう」


 キッチンに二人で並ぶ。チョコレートを溶かしたり、クリームを泡立てたりしている途中で、兄が口を開いた。


「今朝、カワラバトが来て手紙置いてったよ」


「へえ、サンタさんの仕事終わったのに珍しいね」


 私達の仕事が終わると同時に、郵便受けもしばらくお休みになるかと思ったがそうではなかったらしい。


「今年でサンタさんからのプレゼント卒業した子からだった」


「ありがとうって手紙?」


「うん。嬉しくなっちゃったから、ちょっとサービスしてあげようと思って」


 兄がニコリと笑うので、私もつられて楽しい気分になった。が、冷静に考えるとサービスということはまだお仕事をすることになる。恐る恐る聞いてみた。


「サービスって、何を?」


「その子が私達に送ってくれた手紙を、まとめて返そうと思ってね。夢を配るのがサンタなら、夢を覚ますのもサンタじゃなきゃ」


「いい思い出になるかもね……というか、お兄、本当に手紙全部とってあるの? 昔『全部取ってあるよ〜』って言ってたの冗談だと思ってた」


「処分するわけないじゃん。ただ、結構ごちゃごちゃだけど……」


 兄がうつむいて、申し訳なさそうな上目遣いをこちらに向けてくる。


 ……はぁ、ウザい。でもそんな兄が私は好き。


「……はいはい、手伝いますよ」


「あははははは、ありがとう」










◇◇◇













「菜々、サンタ本当に来たわね」


「そうだね。よかったねキタキツネ、いい子にしてて」


「……でも思ったのと違ったわね」


「枕元になかったから? 今どき煙突から入るなんてできないから、しょうがないんじゃないかな」


「そうじゃなくて、プレゼントよ。私は肉まんがほしかったのに……」


「何もらえたの?」


「なんか……しーゆーおー? カード」


「QUOカードね。でもそれ、コンビニで出すと肉まん買えるよ?」


「ほんと? お金じゃないのに?」


「うん。サンタさんも、キタキツネに熱々の肉まん食べてほしいからそれにしたんじゃないかな」(キタキツネに金銭感覚ないから数もごまかせるしね)


「へー、見直したわ」


「コラコラ、そんな偉そうだと来年は来てくれないよ」


「……そうね」


「来年も来て貰えるように、ちゃんとサンタさんに『ありがとう』と『お疲れ様』の心を持ってなきゃダメだからね!」


「はーい……ところで、これどうやったら肉まんになるの?」


「本当に話聞いてた? まいっか……じゃあ、使い方教えてあげるからコンビニ行こうか」


「はーい」






 おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

To“night”はトナカイがい“ないと”! 七戸寧子 / 栗饅頭 @kurimanzyuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ