荒唐無稽なプレゼンターⅡ

「おい!何やった?!」

 血相を変えた片目マッチョが俺の肩を掴んで揺すってくる。俺の鍛えていない身体がマッチョのパワーに抗えるわけもなくグワングワンと揺すられる。俺は頭をすこぶる揺らされて気持ち悪くなってしまう。


「ちょ、おま!待て!吐く吐く!全部出ちゃう!!」

 俺は、問答無用に力任せに揺すってくる片目マッチョの攻撃に耐えられなくなり、路地裏に駆け込むと、胃の中のものを全て吐き出した。


「いやぁ、悪い悪い!俺も興奮しちまってよ!」

 げっそりした顔で戻ると、片目マッチョは超爽やかなうっとおしい笑顔を浮かべてくる。畜生、コイツに向かって吐瀉ゲロればよかったぜと心底思うが、俺はジジイを拾って一晩世話してやるくらいの一般常識に長けた男だから、つい常識的な対応をしてしまった。


「で、何なんだアレは?」

「俺の能力だ」

 片目マッチョの聞きたい事に全く答えてない答えを端的に返して、俺はこの気持ち悪さを少しでも癒すために冒険者ギルドの獣人お姉さんを眼福しようと、冒険者ギルドに戻ろうとする。


「だから待てと言っているだろうがっ!」

「戦略級超大魔術:核爆撃ニュークリアボムだ」

 また片目マッチョに肩を掴まれる。これ以上口の中が酸っぱくなるのも嫌なので、俺は適当な嘘を教えてギルド内部に戻っていく。ギルド内部にはモフモフでナイスバディのお姉さんが心配そうな顔をして窓から外のキノコ雲を見ていた。その憂いのある表情もたまらない。ピクピクしている耳とか、不安げにゆらゆら揺れる尻尾とか。


「あ、依頼達成したから、また報酬をもらえるはずだよな」

 俺は水を頼むと酸っぱい口の中を洗い流すように一気に飲み干すと、両手を合わせて合掌しながら獣人のお姉さんで眼福する。水と一緒に気持ち悪さを飲み込むと、報酬をもらう為に王宮に向かう。

 当然のごとく町はごった返しており、みんな未だに収まらないキノコ雲を眺めている。道端の婆さんなどはこの世の終わりかと言わんばかりに、手をこすり合わせながら神様にお祈りしていた。

 そんな中、張本人の俺は全く関係ないと言わんばかりの涼しい顔をしながら、王宮に向かっているのだが、人混みのせいで思ったように進めない。

 面倒くさいから道行く人を全部贈答プレゼントで、嫌がらせの意味も込めて、ギルド長の部屋に送ってやろうかと思ったが、俺は底抜けの常識人だから途中で思い留まり、軽やかに人混みを縫うように移動する。


 当然だが王宮も町の人が詰めかけていて衛兵が必死の形相で対応している。このままでは門までたどり着けないと思った俺は、少し離れて人気がないあたりまで移動すると、王宮を取り囲む塀の上に草原で使った飛翔術を使って飛び乗る。

 塀の厚さはそれなりにあったので、人ひとりが歩くのは十分にある。俺はそのままポケットに手を突っ込んだまま門のほうに歩いていく事にした。


「おーい。王様に合わせてくれ」

 俺は門の所へ手伝いに来ていた見覚えのある若い騎士のアンチャンに声を掛ける。アンチャンはキョロキョロと周りを確認して頭にクエスチョンマークを浮かべていたが、再度声を掛けると俺に気付いて手を挙げる。


「そこ危ないから降りたほうがいいですよ」

 相変わらず、この若い騎士のアンチャンは出来たヤツだ。普通はとがめるところから入ると思うんだが、先に気遣いの言葉をかけてくれる。

 俺はそんなアンチャンに敬意を払うように大仰に頷くと塀から王宮の中庭に落下速度を調整しながら飛び降りる。


「あの一件を王様とやらに報告した方がいいんじゃないかと思って来たんだけどさ。人混みが凄くてね」

「確かに凄い人ですよね。無理もないです。あんな雲見たことありませんから、みんなが不安に思うのも仕方ないと思いますよ」

 俺はキノコ雲を親指で指さしながら、ここに来た理由をアンチャンに告げる。アンチャンは俺の話を切り返すと、王宮へ案内するかのように一歩前に足を踏み出し、暗黙的に俺に付いてくるように促してくる。

 俺は手を頭の後ろに組みながらアンチャンについていく事にする。


 王宮に入り謁見の間に向かって歩いていると見覚えのある青い鎧が目に入る。面倒くさい話になりそうな予感しかしないので、回り道がないかアンチャンに確認しようとすると、先に青い鎧に気付かれてしまった。


「やぁ、奇遇だね。キミもあのキノコの様な形をした雲の調査に志願しに来たのかい?」

 爽やかな笑顔を浮かべながら金髪イケメンの青い鎧の勇者が声を掛けてくる。相変わらず隣にはタイプの違う美女と美少女をはべらしている。その時点でリア充死ねと基本原則に立ち返る俺の攻撃ターゲットになっているのだが、お目出度いコイツの頭はそういう事が理解できないように出来ているらしい。


「死ね」

 隣りにいた関東平野女はいたく俺の事が嫌いらしく、学の無い直接的な嫌がらせの言葉を浴びせてくる。


 俺はその言葉を鼻で笑うと、関東平野部をもう一度見て、更に鼻で笑う。


 それだけで関東平野女は顔を真っ赤にして怒りに我を忘れ、鋭い目をさらに釣り上げながら俺を睨みつけてくる。

 怒らせるだけなら言葉なんかいらないんだよ。と上から見下しながら、今度はスイカ女の方に目をやると、こちらは朗らかな笑みを浮かべて状況を分析している。こういうタイプが一番やりにくいんだよなぁ。


「今はあそこには近づかない方がいい。魔王の呪いが充満しているから1年以内に病気になって死ぬぞ。」

 超優しい俺は頭をポリポリ掻きながら、金髪イケメンに警告してやる。まぁ言っている内容は全部嘘なんだが。

 だが、心配してやっているにもかかわらず、金髪イケメンはドヤ顔をして俺の意見を無視した発言をしてくる。


「心配してくれてありがとう。でも僕にはこの神から与えられた神具で護られているから、魔王の呪いなんかには掛からないよ」

 うん、いいよ。お前は死んで。その代わりその関東平野女とスイカ女は俺のとこに置いてけ。

 本気でそう思って口から出そうになったが、超常識人の俺はぐっと言葉を飲み込み、ちゃんとわかるように教えてあげるのだった。


「その蛆が湧いたようなおめでたい頭でもわかるように言ってやる。あの場所で発生している現象は神の力なぞクソの餌ほどにも役に立たない超常現象だ。俺が解決するまでバカなことは考えずに家で大人しくクソして風呂入って寝とけ」

 非常に思い遣りと心遣いにあふれた優しい言葉に感動して、涙と鼻水を流しながら感謝の舞を踊りだすだろう。

 そう思い、ドヤ顔で見てみると、関東平野女が睨むだけで人を殺せそうな目で俺を睨み背中の二刀に手をかけ始める。

 金髪イケメンは笑顔が張り付いたまま凍り付いたように固まっていて、スイカ女は相変わらずニコニコしている。

 ……けど何か魔法の杖の水晶部を俺に向けて、口の中でゴニョゴニョ言っているんですが!!


キンッ!!ズシャァァァッッッ!!!

キュンッ!ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!


 目にも止まらない二刀の斬撃と、槍のように先のとがった数百の氷の礫が俺に襲い掛かってくる!!


 王宮で戦闘行為とは、こいつら常識がなさすぎるだろ!!


 俺は何でそんなことになってしまったか全く心当たりがないのに、とんでもない威力の暴威が襲いかかってくる。

 普通なら短剣で切りつけられて、氷の礫に貫かれて、あっさりと真っ赤な温泉への慰安旅行に旅立っているところだろう。


「あれ?ボクの武器がない?!」

 関東平野女、お前ボクっ娘だったのかよ!!よし全てを許そう!!と俺は心の中でガッツポーズをする。

 また俺を襲った氷の礫も俺の体に沿うようにすべて消失していた。


 大人しくしていると意味不明な暴力に曝されると思った俺は、賢明な判断を下し、いつの間にか安全圏内に退避した若い騎士のアンチャンとコソコソ合流すると、茫然自失している3人を置いたまま謁見の場に急ぐのだった。


「魔王の討伐ご苦労じゃった。あの状態ならおそらく魔王は倒せたのじゃろうが、現地を確認しないと何とも言えんのじゃ。すまんがもう一度行って確認してくれんかの?」

 少し待たされた後、すんなりと謁見の間に案内され、先日と同じように椅子にはまった王様から言葉をもらう。


「わかった。ついでに世界も救っておく」

「話が早くて助かるのじゃ。そなたの様な『異界渡り』がいてくれて助かっておる。神に感謝じゃの」

「俺が行くまで、あそこは非常に危険だから誰も入れないようにしてもらえるか?」

 俺に感謝するくらいなら隣の王妃様のナイスバディに感謝するべきだと思いながら、快く依頼を了承し、警告もしておく。報酬の話はしていないが、まぁいいようにしてもらえるだろう。


 取り敢えず戻る場所が冒険者ギルドしかないので、相変わらず消えない人混みの中を縫いながら冒険者ギルドに戻る。

 魔王城の方を見るとキノコ雲は霧散して消え去ったようだが、その代わり真っ黒な分厚い雲が現れていた。アレがこっちに流れてくると、とても面倒な事になる。


 俺が冒険者ギルドの扉を潜って中に入ると受付の女性がギルドマスターの部屋に行くように促してくる。

 おかしい、ここにきてから数日しか経っていないのに既に顔パスになっている。俺は首をかしげながらギルドマスターの部屋に行く。

 きっとあの獣人のウェイトレスを嫁として紹介してくれる話だろう。異世界転移・転生するとハーレムを築けるともっぱらの噂だからな。

 俺は未成年なので、まだ清く正しくあり続けるつもりだが、向こうから来るなら仕方ない場合もあるに違いない事を期待しても罰は当たらないだろう。


「嫁の件か?」

 ギルドマスターの部屋に入りながら、確定事項の確認を口にする。なぜか片目マッチョは、顔の表情を固まらせてこちらを見ている。

 人が来てやったのに挨拶もよこさないとは失礼な奴だと、当たり前のように我が物顔でソファーに身体を沈める。


「すでに分かっているとは思うが、ここの獣人巨乳モフモフのお姉さんの器量は抜群だ。ばっちり俺の好みだから心配しなくていいぞ」

「……お前は何の話をしているのだ?」

 片目マッチョが強張った顔のまま俺に聞いてくる。声音から判断すると嫁の話ではなかったらしい。俺は興味を失うとソファーから立ち上がり部屋を出ようとする。


「嫁の話ではないなら俺に用はないと思うんで、じゃっ!」

「ちょ!おま!待てて待て待て待てぇぇぇぇぇぃ!!」

 シュタッと手を挙げて部屋から出ようとすると、片目マッチョが慌てて俺を呼び止める。しかしその程度で止まる俺ではない。勝手な期待を残酷な形で裏切られたので、俺はとても腹を立てながら問答無用と部屋を出ていく。


 俺は癒しを求めて再びギルドの食堂の奥に陣取り、給仕しているお姉さんを見て心を癒そうとして、奥のテーブルに座る。

 そしてニコニコと笑みを浮かべながら獣人巨乳モフモフのお姉さんに手を振る。


 そこに息を切らせながら走ってやってきた片目マッチョが、獣人巨乳モフモフのお姉さんへの視線を切らせるかのごとく俺の目の前に座る。

 コイツ俺に喧嘩を売っているのだろうか?癒やしを求めている俺の前に、癒やしから8億光年も離れた片目マッチョを見せられたら、聖女マリアでも鼻の穴に100本の爪楊枝を入れてから、鼻に向かって蹴りを入れるくらいの暴挙に及んでしまう事だろう。


「お前な。少しは人の話を聞くとかできないのか?」

「お前は、少しは俺の嫁の話を聞くとかできないのか?」

 つまらない事を聞いてくるので、同じように返してやった。片目マッチョが眉間に皺を寄せながら、額を押さえて溜息をつく。


「依頼が終わったら、この町で一番の獣人娘専門の出会い系サロンに連れて行ってやるから人の話を聞け」

「よし。アンタの依頼全て請け負った。俺に任せろ」

 俺はスクッと席を立ち、猛然な勢いで冒険者ギルドから走り出していく。待ってろよ依頼!待ってろよモフモフ!待っていろよ俺の桃源郷!!


「お。おい!ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ………………」


 かなり走ったところで気が付いた。依頼ってなんだっけ?

 俺はすごすごと冒険者ギルドに戻ると、何事もなかったかのように奥の席に戻ると、キリッとした顔で片目マッチョに話しかける。


「依頼内容を聞こうか」

「はぁ……お前とやってると凄い疲れるんだが……。依頼内容はこの間と似たような感じで、魔王城の状況確認と周囲の安全の確認だ。とんでもない魔物がいたらできれば倒してほしい。三つ首狼ケルベロスも容易に倒せるからある程度は大丈夫だろう。それでもヤバいやつがいたら逃げてきて構わんから、報告が欲しい」

 何のことはないただの物見旅行のようだ。前回はいけ好かない金髪イケメンと一緒だったから楽しめなかったが、今度は独りだから気楽なもんだ。


「それと、こんなものが俺のテーブルに突き刺さっていたんだが、お前知らないよな?」

 片目マッチョは、つい先程、俺を襲ってきた関東平野女が使っていた短剣を取り出すと聞いてくる。うむ、俺の体に触れた瞬間、ギルドマスターの部屋に贈答プレゼントで送り込んだんだった。


「良く知らんが、勇者の連れのツルペタピッタンの猫耳女がそんなのを使っていた気がする。多分アンタを暗殺しようとしているんだと思う」

 俺を襲って来たんだからこれくらいの不名誉を被るのは自業自得だろう。俺はキチンと正しく嘘の情報を流す。


「まぁ今日はもう遅いから、出発は明日の朝にしてくれ」

「じゃぁ早速行こうか」

 片目マッチョが依頼は終わりと言わんばかりに話を切り上げるので、俺も立ち上がり出かける心構えをする。


「あん?どこにだ?」

「獣人娘専門の出会い系サロン」

「依頼が終わったらと言っただろう」

 片目マッチョがいぶかし気な顔をする。こいつもう忘れたのか?酒樽に沈めるぞ!と思いながらも優しい俺は答えてやるが、どうやらまだダメらしい。


「お前が行った後、器量の良い娘を集めておくから、心おきなく行ってこい」

 なんだこの片目マッチョすげぇいいやつじゃないか。オラ、スゲェワクワクしてきたぞ!!


 ワクワク妄想しながら楽しい一晩を過ごして、馬車に乗り込もうとすると、相変わらずの展開が待っていた。


「またお前らかよ」

「やぁ、やはり旅には勇者が欠かせないよね!」

 歯をキラリと輝かせながら、呼びもしていなかった金髪イケメンが馬車に陣取っていた。その横で噛みつきそうな顔をしている猫耳関東平野女と涼しい朗らかな笑みをしているスイカ女。

 こいつら本当は俺の事大好きで仕方ないんじゃないか?関東平野女は末席の末席だが、スイカ女は10本の指に入れても良い器量だからな。


「とりあえず降りろ。そのドヤ顔見るとなんか腹立って月に替わってお仕置きしたくなる」

 俺が優しくこの旅は危険でキミ達に迷惑を掛けたくないから待っていてくれと伝えているのに、何故か剣呑な顔で対応される。こいつらには俺の言葉が通じないのだろうが?

 前回と同じく何を言っても言う事を聞かないので、仕方なく同行させることにする。まぁ最悪ドラゴンのウンコの餌にでもすればいいかと思いながら。


 俺と勇者一行を乗せた馬車は、前と同じく魔王城に向かってノンビリとパカパカする。

 馬車の中は相変わらず居心地が悪く、隙あらば俺に話し掛けようとしてくるエセ金髪イケメンと、疲れもせず延々と睨みつけている関東平野を身に宿した女。

 わかってるんだかわかってないんだかよくわからないが終始ニコニコしているスイカを身に宿した女。

 こんなわけのわからない面子と一緒の馬車に乗って楽しいわけがない。まぁスイカ女は害がなさそうだし、眼福以外の何物でもないから置いておいてもいいが。


 そんな馬車旅を苦痛に思いながらも、俺は魔王城周辺の放射能除去のやり方に頭を悩ませていた。

 目に見えないものでもイメージ次第で贈答プレゼント出来たのは、先の水素融合で確認できた。

 同じ方法で放射能もいけると思うのだが、試しにという事で、同じ電磁波である光をコントロールする。俺の手の上にある光の電磁波を全て金髪イケメンの目の前に贈答プレゼントする。


カッッッッ!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

 とてつもない光が金髪イケメンの前で暴発し、金髪イケメンは目を手で押さえながらのた打ち回る。

 またチラチラと俺と金髪イケメンを見ていた関東平野女も同じように目を押さえて転げまわっている。

 逆にスイカ女はというと、先程と同じ表情で涼しい顔でピクリともしない。あぁ、これはこの状態で寝てるのか。大変に器用な事だ。


 イケメンの顔の前に追従するように光の電磁波を贈答プレゼントし続けているので転げまわっても逃げる事もできずに延々と目を焼かれ続けている。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!た、たすけてくれー!!」


 絶叫が馬車の中に響き渡る。俺はそんな言葉を無視して実験を続ける。光の電磁波を贈答プレゼントし続けている間は、俺の手の上の光の電磁波は失われ続けているので、全く何も見えない真っ黒の球が出来ている。可視光線が全て存在しないため、目がそれを認識できないようだ。


 なるほど、コレを放射能の電磁波に応用すれば、根こそぎ消す事ができそうだ。消す先は放射能が飛び交っている空の上、宇宙空間でいいだろう。一応見えているし。


 俺は満足行く実験結果が得られたので、光の電磁波を贈答プレゼントするのを止めた。既に金髪イケメンの網膜は限界値を越えていたらしく、身体をビクビクさせながら口から泡を噴いて悶絶していた。

 たかだが太陽よりも多少明るいくらいの光を直視させていたくらいで情けない。と俺は汚いものを見るような目で見下ろしながら昼寝モードに入って時間を潰すのだった。


 馬車が二つ目の山の頂上に差し掛かろうかという頃に、周辺から鳥の声や獣のざわめきが消えたのを確認する。恐らくこの先から死地だと判断した俺は、馬車を止めるように言うと、馬車から降りる。


 周りを見渡すと、鳥や獣の死骸がそこらじゅうに見受けられる。焦げているのもいるから、単純に放射能だけというわけではなさそうだ。


 俺は御者に山のふもとまで引き返すように言うと、勇者が何かついてこようと馬車を降りようとするので、先程の光の電磁波を贈答プレゼントする。


「あんぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 面白いように馬車の中で転げまわる勇者。腹を抱えて笑う俺。御者はあんまりにもぞんざいな勇者の扱いが気の毒になったらしく、さっさと馬車を発車させる。


 俺はいつものように右手でスマフォの電源を入れ、ポケットに左手を入れて歩き出す。


「あー、もう電池がなくなりそうだ。コレが切れた時、俺はどんなポーズで歩けばいいのかわからん」

 長年、物心ついてからこのポーズで歩いてきたので、スマフォを片手で操作しながら歩く以外の歩法が想像つかない。


 俺は放射能の電磁波が身体に触れた瞬間に宇宙空間の太陽の近くに贈答プレゼントするようにしながら歩く。


「ん?もしかして俺、今、超絶カッコいい?」

 周りは全ての生物が死滅している死の世界。そこを颯爽とスマフォを片手に歩く俺。何かカッコよくね?


「しかも生産活動に寄与してるしな。素晴らしい俺」

 木々は全て黒焦げになっていて、木炭としてすぐに使えそうだ。オドロオドロしかった森も全て綺麗サッパリ死の森になっており、開墾が簡単にできそうだ。

 石も一瞬で膨大な熱量を受けて気化しているのもあれば、ガラス化した石もある。うむ。ガラスの工芸が発達しそうだ。


 俺はいい事をしたという爽快な気分のままズカズカと魔王城のほうに歩いていく。途中で俺を遮るものは何もない。まぁ全て死滅しているから当たり前だが。


 そして魔王城の門の前まで辿り着き、何の障害もなく魔王城に入城する。まだプスプスと焦げている城の中を適当に歩いていく。というか魔王のいる場所がわからん。案内板くらい用意してもらいたいものだとプリプリしながら適当に歩いていると、何かソレっぽい扉に辿り着く。


 俺はその扉を蹴り開ける。なぜならば、右手はスマフォ、左手はポケットの中にあるからだ。うむ、扉を開けるには蹴り開けるしか手段がない。仕方ない。


 俺のひ弱な蹴りでも、水素融合の熱に晒された扉は形を維持する限界値を超えボロボロと崩れ去る。そのまま部屋に入ろうとすると、あたり一面空けた場所になっていた。水素融合の爆心地になっていたらしく、ありとあらゆるものが吹き飛び、溶け、焦げ、消滅したみたいで、つい感想が口を突く。


「ずいぶんと綺麗サッパリなくなったもんだ。ま、脅威となるものは全て焼け焦げたみたいだから。さっさと後始末して、獣人娘専門出会い系サロンへ行くとするか」


 俺はそのまま飛び降りるといつものように風を扱って魔王城の門まで飛翔し綺麗に着地する。そして城壁に手を付けると、魔王城を天に浮かぶ赤い月へ贈答プレゼントする。

 地面すら抉りながら巨大な球として空間ごと魔王城は赤い月に贈答プレゼントされた。


「炉心である魔王城がなくなれば、あたりの放射能もすぐに消えるだろうな」


 俺は誰に聞かれるわけでもなく独り言をこぼすと、獣人娘専門出会い系サロンへ行ける歓びと、金髪イケメン勇者の相手をしなければならない苦痛を味わいつつスマフォを片手に馬車へ戻るのだった。


 俺が馬車に戻ると、勇者様達御一行が月を見ながらアホ面を晒していた。俺は何事もなかったかのように荷台に乗り込むと、質素な椅子に横になって寝る。下手に喋ると碌な事にならなそうだからだ。

 疲れていた俺はそのままンゴゴゴゴゴッッッ!と地を揺るがすような鼾を立てながら寝る。

 しばらくすると我に返った金髪イケメンが荷台に上がってくる。


「あれは、どういう事だと思う?」

「ンゴゴゴゴゴッッ!」


「あんな天変地異が急に起こるとは考えづらい。またキミが何かしたのではないか?」

「ンゴゴヌルペッチョキュリキュキュイボゲルゲチョンッッ!!」


「いや、何言っているかわからないから」

「ンゴゴンゴゴンンゴゴメラッチョゴゴンゴンゴゴッッッ!!」


 ウルサイやつだな。俺が鼾で寝ている事をアピールしているのに、無視して話しかけてきやがる。まぁ面倒くさいから無視して狸寝入りを決め込むけど。

 そんな事を続けてると、やっと諦めたのか自分達の椅子に座ると馬車が動き始める。もうかなり遅くなったので、最寄の宿で1泊しながら俺らは王都に戻るのだった。


 王都に戻ると俺は大目的を果たすために冒険者ギルドへ掛け戻り、許可も得ずにギルドマスタの部屋を蹴り開ける。


「さぁ!獣人娘専門出会い系サロンに行こう!今すぐに行こう!!」

 俺は最大限の笑みを浮かべながら、部屋で何事かと固まっている片目マッチョに話しかける。片目マッチョは俺の姿を見るなり頭を押さえて、ウンウン唸り始める。

 何か凄まじい怒気が吹き荒れそうな気配を感じる。俺の後ろではギルドマスターの部屋の扉の蝶番ちょうつがいが一部外れてプランプランしているけど、こんなことで怒るはずもない。なぜなら俺は魔王討伐の一番の功労者だからだ!


「普通に入ってこんかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 部屋を揺るがすような大音量で怒られた。あまりの大きな声に吃驚びっくりしてしまう。このクソ片目マッチョ、お婆ちゃんからノミの心臓と褒め称えられた俺の心臓が、吃驚心臓発作を起こしたらどうしてくれるんだ!!


「よし、それはいいから。早く行こう!!」

 俺はぶれない漢なので、この程度の大音量での叱咤など物の数に入らないのだ。片目マッチョの怒りを完全に無視して話を進めようとするのだが、コイツ首を縦に振りやがらねぇ。


「まずは王への報告が先だ。報酬をもらえんぞ?」

「よし報告に行くぞ!!」

 片目マッチョが片目マッチョの癖に建設的な提案をしてきたので0.2秒で許諾する。即決即断も俺の数多い美点の一つだ。片目マッチョは凄く疲れた表情で辛気臭く立ち上がると俺についてくる。俺はウキウキな気分で王城への道を急ぐ。


 王城への道はごった返していて……何かそればっかだな。まぁ月に星砕きメテオストライクしていたら不安にもなるか。王城の門へは住民が詰め掛けていて不安な事を必死にアピールしている。

 またもや入場規制だよコレ。とか思っていると片目マッチョが別の小道を歩いていく。そっちは違う方向じゃないかと思ったが、面倒くさいので仕方なく付いて行く。

 小道の突き当りには扉があり、片目マッチョがその扉をコンコンと叩くと壁の向こうから声がする。

「神秘の連峰といえば?」

「おっぱい」

「よし!」

 おい、ちょっと待てお前ら!今すぐそこに直れ!!何がよし!だ。最悪な合言葉を聞かされた俺は、つい片目マッチョに目突きを食らわして無目マッチョにしてしまうところだったぞ!

 合言葉はともかく無事に入場できた俺と片目マッチョはそのまま謁見の間に向かい、すんなり王様の前に案内される。


「依頼、やってきた。報酬、くれ」

「もう少し何とかならんのか、その態度」

 片目マッチョがいちいち文句を言う。俺の態度よりお前のマッチョの方が失礼だと思うがな!!

「魔王城の様子に関しては、後ほど報告はもらうとするのじゃが、まずはそなたへの報酬じゃな。そうじゃな先の魔王討伐の功績も踏まえて、爵位と領地を進呈しよう」

 椅子にはまった王様が戯けた事を言ってくる。


「いらない。爵位なんてもらったら面倒事がついてまわるからそんなクズ報酬お断りだ。くれるならそこそこ広い屋敷とメイドさんと国王のお墨付きをくれ。当然屋敷の維持費とメイドさんの雇用費はそっち持ちで」

 国王の褒美発言を無視して自分のもらいたいものを要求する。


「わかった。金一封の他に、広い屋敷セットを進呈しよう。で国王のお墨付きとは何じゃ?」

「物を買うにも、どこか出かけるにも、国王の認定証みたいのがあれば、かなり自由にできるからありがたい」

「ふむ。じゃぁ、国印が刻まれている短剣を授けよう。何かあった時、その短剣の柄の紋章を見せれば、融通してくれるじゃろうて」

 とんとん拍子に話が進み、俺はそこそこ広い屋敷とメイドさん一式と国王のお墨付きをもらうことが出来た。その隣で片目マッチョが俺の傍若無人振りをみてビクンビクンと痙攣していて気持ち悪い事この上ないんだが。


 そうして俺は応接間に案内されると、いつも通りのでかい態度でソファーに腰掛ける。しばらくすると、切れ長眼鏡のメイドさんが書類を持って現れる。


「こちらが王家の短剣。こちらが屋敷の委譲書になりますので、下の方にサインをお願いします。面倒な手続きは全てこちらでやっておきますので、サインだけで結構です」

 凄いできる秘書風の雰囲気を十二分に醸し出しているメイドさんの、その態度と冷たい眼差しで俺は一瞬でノックアウトされそうになる。

 短剣を受け取り言われたとおり書類にサラサラとサインをして書類を返すと、クルクルと書類を丸めて手に持つ。


「引渡しは7日後になると思いますので、7日後にまた王宮にいらしてください」

 そうクールに告げると、メイドさんは部屋を後にする。そのあまりにも事務的な態度にドキドキしているのは内緒だ。いやハァハァだったか。


 こうして魔王城周辺の環境汚染を見事に解決した俺は、心置きなく『獣人娘専門出会い系サロン』を堪能できるようになったのであった。

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何処でも誰にでもプレゼントできるというクズ能力で異世界を救います もるもる(๑˙ϖ˙๑ ) @souga02

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