クリぼっちならウーバーサンタにでもなれば?

ちびまるフォイ

ウーバーサンタは難易度に応じて支払われる

「よし、ここだな」


スマホの地図で何度か場所を確認する。

プレゼントの配達先に間違いないことを確認してからトナカイを降りた。


世界各国にプレゼントをひとりで配達するなんてのは

運送業者としてもブラック過ぎることから改善が実施され、

今年から一般人がサンタとして配達する「ウーバーサンタ」が行われた。


ちなみにウーバーは戦闘開始時に社長が叫ぶ言葉から取られたもので、

実在する企業や団体名とは一切の関係がありません。


「初めての配達だから緊張するなぁ。

 えっと、まずは玄関のドアをサンタピッキングで開けて……ん?」


ドアはまさかの顔認証。

近代文明がサンタの前に立ちふさがった。


「ええ!? おかしいな、ちゃんとこの時間に配達するって予約したのに!」


玄関は完全に施錠されていた。

これでは中に入ることができない。


万策尽きたと足元を見たとき、1枚の紙がドア下に挟まれていた。


『 サンタさんへ 煙突がないので、2階の窓の鍵を開けておきました。 』



「いやいやいや! 2階から入ってるとこ見られたら通報されるわ!」


ウーバーサンタはあくまでも一般人。


警察沙汰になっても本物サンタなら「ホーホーホウ」で無罪釈放だが

俺のような一般人ならただのコスプレ空き巣犯として捕まってしまう。


更に悪いことに夜に目立つ真っ赤な赤色。


「こうなったら……速攻侵入するしか無い」


ここからはスピード勝負。


かつてサンタSASUKEでファーストステージを攻略した経験を生かし、

2階のベランダに侵入して窓から部屋に滑り込んだ。


その手際たるや向かいの家にいた泥棒も舌を巻くほど。


「はぁ……はぁ……よし、なんとか潜入成功だ」


脳内にはインポッシブルなBGMがさっきからリピート再生されている。

部屋には小さな女の子が寝息をたてていた。


サンタ暗視ゴーグルを使い、プレゼントを取り出す。


「プレゼントは……これか」


背中の袋から取り出したのは

「トランシルヴァニアファミリー ~大きな森の要塞都市~ 」一式セット。

ちょうど俺が先日注文したものと同じだった。ほしい。


「枕元に置くにはでかいなぁ。寝返りしたときに落ちちゃうかもしれないし……」


このバカでかい箱をどこに置こうかと思案していると、

玄関で見た覚えのある文字の手紙が机に置かれていた。


『サンタさんへ ↓プレゼントはここに↓』


小さな女児用靴下が吊るしてあった。


(サイズ合わないよ!!!)


サンタは思わず声が出そうになったのをぐっとこらえた。

かといって、朝起きたときに靴下の中に何もなかったら一瞬だけがっかりするかもしれない。


ウーバーサンタは一般人といえど、客にとっては関係ない。

夢見る少年少女の前では初仕事だろうが熟練だろうがモノホンだろうが同じサンタなのだ。


(そうだ! この袋を使えば……!)


思いついたのはこれまで背中に背負ってきた「ウーバー!」と書かれたバカでかい袋。

これを靴下に加工すればプレゼントも入るし、靴下に入れるミッションも達成できる。


少女の希望を壊すまいと必死に靴下を縫い合わせバカでかい靴下ができた。


(これでよし、と)


中にプレゼントを入れて足音を殺しながら窓へと戻る。


部屋に入るときは窓際の壁だったので気づかなかったが、

窓に振り返ったときに1枚の絵が貼られていることに気づいた。


絵には大きな袋と、女の子、そして子犬が描かれていた。


「え……!? あのプレゼントじゃないの……!?」


絵の中の女の子は楽しそうに子犬と戯れている。


両親が「これで妥協しなさい」とプレゼントを変更したのだろうか。

いや、発注書にはたしかに女の子の文字でコレが書かれていた。

トランシルヴァニアファミリーにはイヌはいない。


わからない。一体何が正しいんだ。


今から子犬を探してプレゼントすべきだろうか。

それにはあまりに時間がない。


どうする。


どうする。


どうすれば……。



ピピピピッ! ピピピピッ! アサダヨー! アサダヨー!



25日の0時になったときだった。


ベッドの下に潜んでいた目覚ましおじさんがけたたましく叫んだ。

寝ていたはずの女児は寝ぼけながらもゆっくりと体を起こした。


あまりに突然なことで体が動かない。


「ん……サンタさん……?」


不審者として捕まる。プレゼントが間違っている。早く逃げるべき。

なにをすべきかで思考がオーバーフローして頭が真っ白になった。


女の子は靴下を見つける。


「サンタさん来てくれたんだ!」


「いやっ、それは……!」


女の子のがっかりした顔を見るのが怖い。

こんなにも子供の無垢な姿がプレッシャーになるなんて思いもしなかった。


女の子は靴下から大きな箱を取り出すと目を輝かせた。


「わぁ! やったーー! 届いた!」


女の子は箱の四方を確かめながら喜んでいる。


「ありがとう! サンタさん!」


「え……? それで合ってるの……?」


「うん! これであってるよ!」


体からすべての力が抜けた。

ぴんと張り詰めていた緊張の糸がゆるんでしまった。


「よかった……実はプレゼント間違ったんじゃないかと思って……。

 本当は子犬がほしいのかと焦ったよ……」


「うん! 子犬がほしいの!」



「……え?」


女の子はクローゼットを開ける。


中に準備されていたウーバーと書かれたサンタ服を羽織り、付けひげをつける。

サンタの帽子をかぶり手袋をつけると2階の窓から下で待機しているトナカイにダイレクト着地。


「はいよーー!!」


女の子はトナカイでさっそうとクリスマスの夜へ消えていった。

俺が家に帰ると、枕元に予約していたプレゼント「トランシルヴァニア」が運ばれていた。


添えられていた手紙にはあの筆跡で書かれていた。



『欲しいものは自分で稼いで手に入れるわ』




「か、かっこいい……!」


彼女のような女性をサンタというのだと思った。

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