「気のせい」

@jimo-fu

「気のせい」

「D市で異能怪人による被害発生中!近隣の皆様はすぐに避難してください!繰り返します!D市で異能怪人による・・・」

「うっわー、やべぇな、これ。仕方ない。行くか、相棒。」


「すべてを破壊しつくす!!はぁ!!」

今さっきまで活気に満ち溢れていた町が、一瞬にして廃墟と化す。俺はこの時が好きで好きでたまらない。美しいものは壊したくなる衝動ってやつだろうか。

「お~い、怪人さんよぉ、ちょっと待ってくれ」

俺のことだろう。声のほうを振り返った。

「何の用だ?」

「まぁまぁ、そんなカリカリすんなって。」

またヒーロー気取りの雑魚か。どうせ対した異能を持ってないのだろう。

「質問に答えろ。お前は何者だ。」

「一回落ち着けよ、座ってゆっくり話でもしようぜ」

「な?」

その瞬間、全身に悪寒が走った。なんだこの膨大な殺気は。ここは一旦様子を見るのが得策だな。

「・・・分かった」

「まず、どうしてこんなことをしようと思ったんだ?」

「どうしてそんなことを聞く?」

「そうだなぁ、やっぱり、怪人は倒すだけじゃなくて、改心させなきゃだと思うんだよ。怪人を改心ってね。」

殺したくなる奴だ。

「俺が何をしようと、俺の勝手だろ。」

「まぁ確かになぁ・・・。でも、他人に迷惑はかかってるんだ。やめたらどうだ?」

「何故やめる必要がある?」

「それはだな・・・うーん、建物とかを直すお金とか時間がいるし、人が死ぬ可能性もある。」

「他人が死んでも、俺には何の影響もない。」

「まぁでも、人が死ぬのは悲しいことだ。」

何なんだこいつは。答え方があいまいすぎる。それでも本当にヒーローなのか?信念というものが感じられない。

よく見れば隙だらけじゃないか。今なら簡単に殺せるかもしれない。

「ん?俺の顔になんかついてるか?」

だが、何だろう。今攻撃をしてはいけない気がする。つくづくわけのわからない奴だ。もう少し待って、チャンスを待つか。

「逆に聞こう。お前は何故偽善者気取りのヒーローごっこをする?」

「偽善者気取りって・・・、いやまぁ、なんというか、ヒーローの方が怪人よりかっこよくないか?」

「そんな基準でヒーローをやっているのか?」

「うーん、まぁそんなところかな」

何を言っているんだこいつは。なんというか、嘘のような気もするし、本当のような気もする。まったく全貌がつかめない。空気の様な奴だ。

「って、別に俺はそんな話をしにきたわけじゃないんだ。」

「ほう、何か目的があってきたのか」

「その・・・・・・お前は、どんな異能を使うんだ?」

飽きれた。

「お前は馬鹿か?そうペラペラと自分の異能をしゃべるやつがいるか。」

「どうかな?お前はきっとすぐにしゃべる気になるさ・・・!」

不思議だ。恐ろしさが全くない。普通、こういう時はゾクっとするものだが、まるでそんな気がしない。

「それは楽しみだな。」

「うーん、異能を話してくれないとなると、困ったなぁ。」

そりゃそうだろう。相手の異能がわからない以上、手の出しようがない。もしかしたら、体がすごく硬くて、殴ってもこちらがダメージをくらうだけかもしれないし、かといって遠距離で戦えば、反射をしてくるかもしれない。異能同士の戦いというのは、すごく厄介だ。


「話題がない。」


・・・・・・は?

「話題・・・?」

「お、なんかいい話題でもあるのか?」

「お前はただおしゃべりをするために来たのか・・・?」

「うーん、違わないこともないなぁ。」

何なんだこいつは一体。無視したほうがいいのかもしれない。

「なら俺の邪魔をするな。さっさと帰るんだな。」

しかし、最初に感じた殺気はなんだったのだろうか。まぁ、きっと気のせいだな。

「あーっ!待ってくれ!!面白い話するからー!!」

「ほう?何だ?」

「この前道を歩いてたらさ、銃がおいてあって、やべえやべえ!って思ったんだけどさ、それが何と・・・」

「モデルガンだったんだよ・・・!」

絶対に気のせいだ。

「そうか、それは驚いたな。では、さらばだ。」

「あっ!!おい待て!!この話にはまだ続きがあるんだ!!!」

・・・・・・どうせつまらない話だろう。もう行くか。

「で、えーと、うーんと・・・」

もう今考えているじゃないか。

「それがモデルガンだと知ってさ、俺本物の銃だと思ってて、ショックを受けたんだ。銃だけに、ガーンってな!」

もう破壊する気さえ失せてきた。つまらない話をして相手を帰らせる異能なのか?

「あっおい!止まれ!!止まらないと撃つぞ!モデルガンだけど!」

「もうお前がみじめでみじめで仕方ない。帰らせてくれ。」

「あっ、うーん、帰るのはいいんだけど・・・その・・・・・・俺の鉄板トークを聞いたんだし、なんかお前の鉄板トーク聞かせろよ?」

付き合っていられない。多分こいつは将来お笑い芸人になって、冷気を操る異能を持つのだろう。

「隣の塀に囲いができたらしいんだ。そこで俺は、へぇ~かっこいい~って言ってやった。」

「ハッハッハ!!お前めちゃくちゃ面白いな!!いいなぁ、それ。俺も今度から使おうっと!」

馬鹿にしているのか?いいや、こいつは本気なようだ。

「もういいだろう、今回は見逃してやる。だから二度と俺の前に現れるな。」

「なるほどね。今のでだいたいわかったよ。」


「お前の異能が。」


「何!?」

くそ、あちらのペースに乗せられすぎた。これはマズイぞ・・・。

「お前は爆撃を操る異能。手から自在に爆弾をだし、投げて何かに付着すると爆発する。そうだな?」

「・・・・・・」

驚くほどあってない。

俺の異能はエネルギー弾。当たったものを“破壊”して、なかったものにする。確かに爆弾を出すでもやることは同じかもしれないが、本質は全く違う。ハッタリだな。

「まるっきり違う。お前は結局何がしたかったんだ?」

「うーん、そうだな。しいて言うなら・・・時間稼ぎ?」

「時間・・・稼ぎ?」

「俺って本当は二人一組で活動しててさ、で、もう一人の異能持ちってのがさ、めちゃくちゃ強い攻撃ができるの。ただ、そのエネルギーをチャージするのにとても時間がかかるんだ。だから俺の巧みな話術と、いろんな“気”を操る異能で、時間稼ぎをしてたってわけ。そのチャージもたった今終わったようでね!」

「クソッ!」

「今だああああああああああああ!!!!!!!!!!」

後ろからものすごく強い気!だが!!

「甘いんだよぉ!!」

もしもの時のためにためておいたエネルギー弾を、全力で後ろに放った。攻撃はなにも来ない。

「ふっ、万策尽きたな。」

「今お前、後ろから来たと思ったろ。」


「“気のせい”さ」


「せいやああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

どうしようもない、強すぎる一撃。俺の体は、跡形もなく消え去った。

「よくやったな、相棒。」

「まったく、毎回ヒヤヒヤするぜ、この作戦は。大した戦闘能力もないのに、ずっと殺気ビンビンの奴と話しあってるんだぜ?気が気じゃなくなるさ。」

「まぁまぁ、今回もうまくいったんだからいいじゃないか。ラーメンでも行こうぜ?相棒」

「お前のおごりな。」

「あっひっでぇ!」

「しょうがないだろ!今回の敵マジですごい強そうだったし、死ぬかと思ったんだぞ!!」

「しょうがないなぁ、今回はおごらないといけない気がするし。・・・って、今異能使った?」

「使ってないもーん♪」

「あっずるいぞばか!俺も異能使うぞ!!」

「本気で死ぬからやめろ!!」


その日のラーメンは、いつもより美味しい。そんな気がした。

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