すくわれるもの、すくうもの

小欅 サムエ

すくわれるもの、すくうもの

 きらきら、きらきら。街に広がる綺麗な光。父親と母親に手を繋がれながら、少女は目を輝かせ歩いている。


「きょうはなんの日か、しってる?」


 道行く大人たちに声を掛ける少女。大人たちは、微笑みながら答えてくれる。


「知っているさ、今日はクリスマスだよ。」


 スキップ、スキップ。街の灯りが流れていって、まるでお星さまに囲まれたみたい。少女は両親の手を離れ、どんどん先に進んでいく。


「あんまり遠くにいっちゃダメよ!」


 母親の声が聞こえる。でも、じっとなんてしてられない。わくわくするような世界が、目の前に広がっているんだもの。駆ける、駆ける。少女は駆ける。きらきらした街の中に、吸い込まれていく。


「あら、おとうさんとおかあさんは?」


 少女は、両親とはぐれてしまっていることに気が付いた。辺りを見渡す少女。大人たちは黒い壁を作り、彼女を包み込んでしまう。


「いや、いやだよ!おとうさん、おかあさん!!」


 不安に駆られた少女は、精いっぱいの声を出す。周りの大人たちは、みな一斉に顔を向ける。少女に降り注がれる、視線、視線。怖くなってうずくまる少女。


「どうしたのかな、お嬢ちゃん。」


 男性の声がする。少女が顔を上げると、真っ赤な洋服に立派なおひげを蓄えた男性が、目の前にしゃがみこんでいた。


「おとうさん、おかあさん……。」


 助けを求める言葉が出てこない。不安がのどに詰まって息ができない。苦しい、苦しい。


「おや、お父さんとお母さんたちから、はぐれてしまったんだね?それは可哀そうに。」


 男性は、そう言って少女の体を抱き上げた。少女の視界が高くなる。大人たちの作った黒い壁も越えて、街の灯りがまた、きらきらと輝き出す。


「どうかな?お嬢ちゃんのお父さんとお母さんは、見つかったかな?」


 遠くで少女を呼ぶ声が聞こえる。少女はその方向へ視線を移す。駆けてくる父親と母親の姿が見えた。


「あっ!お父さん!お母さん!」


 喜ぶ少女の声を聞き、満足した男性はそっと少女を地面に降ろした。


「よかったね、お父さんとお母さんの言うことはちゃんと聞くんだよ?わかったね?」


 男性はそう言って、少女の頭を優しくなでた。元気になった少女は、男性にお礼を言った。


「ありがとう、サンタさん!」


「サンタさん?……ああ、クリスマスだからね。それじゃ、サンタさんは忙しいから、ここでお別れだよ。」


 にっこりと手を振る男性。少女は慌てて、まって、と声を掛けた。


「わたしも、おっきくなったらサンタさんみたいになる!」


「サンタさんみたいに?」


 男性は振り返り、少女に尋ねた。少女は、とびきりの笑顔で答えた。


「うん、みんなを笑顔にするおしごと!わたしも、いまサンタさんに会って笑顔になったから!……なれるかな?」


「……なれるさ、その気持ちのままでいれば。」


 男性は、そっと囁くように返答をした。少女はまた、ありがとうと言い、両親の方へ駆けて行った。取り残された男性。真っ赤な洋服が、少しずつ黒く変色していく。


「みんなを笑顔にする、か。」



 翌日、ニュース番組をみて少女の父親と母親が飛び上がっていた。昨日訪れた街で、強盗殺人が起きていたのだ。しかし、その犯人は、自ら警察に出頭したのだという。理由は分からなかった。しかし、その犯人はこう言ったのだという。


「俺はまだ、やり直せるかな。」

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すくわれるもの、すくうもの 小欅 サムエ @kokeyaki-samue

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