第6話 自問


 悠斗は浩之に向き直り、話し始めた。彼氏役のこと、事故のこと。


 「・・・・なるほどなあ」


 「というわけで病院を探そうと思ってたんだ」


 「しょうがねえ。俺も手伝うよ」


 「え、いいのか?」


 「ま、ダチの彼女のことだからなあ、手伝わないわけにゃいかないよ」


 「・・・・楽しんでないか?」


 「ま、まさっかあ。会えたら感謝しろよ?」


 「ああ、でもどうやって探す?」


 「親父に聞いてみる」


 「父親?」


 「俺の親父、医者なんだよ。だから、少しは融通きくと思う。・・断れるかもだけどな」


 「無理はしないでくれ。もともと全部回るつもりだったんだから」


 「おう」


 -------------------------------その日の夜


 (どうなったかなあ)


 一晩で結果が出るなんて都合がよすぎるのはわかっているが、それでも気になってしまう。


 (会ったら、なんて言おう・・・・・・)


 『大丈夫ですか?』。いや、こう聞かれて大丈夫じゃないって答える人いないしなあ。却下。


 『久しぶりですね』。・・・なんか嫌味っぽい、却下。 


 (いっそ、何も言わずに向こうから何か言ってくるのを待つっていう手もあるか。でもなあ、それじゃなんか・・・)


 プルルルル、


 悠斗がベットで悶々としていると、携帯が鳴った。浩之からだ。


 「はい! もしもし⁉」


 『ちょっ、声でかい! 落ち着けよ、お前』


 「ご、ごめん。それで何かわかったのか?」


『・・・・ああ、わかったよ。ちょうど親父に病院に入院しててな。事情を話したら、お前以外には話さないことを条件に教えてもらった』


 「そうか、ありがとう。・・やっぱ、無理させたか?」


 『・・・あとでなんかおごれ。それでチャラにしてやんよ』


 「ありがとう。ホントに、ありがとう」


 「よせ、照れくさい。じゃ、言うぞ、メモしろよ」


 「ああ、わかった」


 「駅郊外の紀綱協同病院だ。そこの201号室にいる。それと、な」


 「? なんだ?」


 「その人、いやなんでもない。面会謝絶にはなってないから、すんなり会えると思うぞ。じゃな!」


 プツ、 ツー、ツー、ツー、ツー。


 「何を言おうとしてたんだ、あいつ」


 幸い、週末にはなんの予定もない。病院もわかった。


(これで、会いに行ける。でも、なんで俺はこんなにも必死なんだろう?)


 悠斗には恋愛経験がない。それどころか本気で人を好きになったこともない。クラスで人気な女子を見ても、


 「かわいいんじゃない?」


 と、思うぐらいで一緒に居たいだとか、そばで笑っていてほしいなんて感情はわかない。


 「俺はあの人のこと好き、なのか?」


 本人でさえ信じられないようなつぶやきは、部屋の天井に吸い込まれていった。


 

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いたずら好きで初心な先輩彼女 春風落花 @gennbu

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