第37話
時は過ぎて、いよいよ社会科見学の日が近づく。
レオンの提案を学園は受け入れ、彼の指揮の下で見学が進行されることになった。
企業にも連絡を入れ、万事滞りなく進めることを伝える。
どこの馬の骨かも知れない男だったら、おそらく企業も耳を貸さなかったはず。
レオンの肩書と、王の頼みという理由もあって、話はとんとん拍子に進んでいった。
そんなある日。レオンが学園へとやってきた。
見学会の日程と進行。
その最終的な確認と調整を行うためだ。
電話等でも済む話だったが、レオンが直に顔を合わせてやりたいとの申し出から実現した。
橋近くの駐車場に黒のリムジンが止まる。
サングラスをした屈強な男が、後部座席のドアを開ける。
そこからでてきたのがレオンだ。
その後二台のリムジンが駐車場に泊ま彼は男たちを連れて本校舎に向かっていく。
物々しい空気漂う男たち。
生徒や教員たちは皆奇異の目で彼らを見る。
だが一瞬でも目が合えば、一目散にその場から立ち去った。
会談は三階。多目的室にて執り行われる。
学園側からは副理事長と2年のクラス担任たち。
その中にはジェシーの姿もある。
レオンが用意したのは、警備班を四名。
そして運転手の男たち。
レオンに負けず劣らずの強面揃い。
教師たちは萎縮をする。
「そう縮こまらんでください。別にそちらに危害を加えるわけではないのですから」
レオンは苦笑しながら言う。本人は場を和ませるつもりで言ったのだが、あまり効果はなかった。
午後2時。気まずい空気のまま会合が開始される。
会合自体はスムーズに運んだ。
事前にレオンが連絡していたものに加えて、学園側の要求も適宜計画のうちに含めていく。
道路の混雑を計算しつつ、遅延に備えての近道の確認まで。
事細かに相談、検討、決定を降していく。
約一時間半。みっちりと相談し終えた両者。
「それじゃ、当日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
副理事長とレオンとで硬い握手を交わす。
会合は和やかなムードのまま。幕を下ろした。
だが、レオンの日程はこれでは終わらない。
次にやるべきこと。それに備えるために、早速荷物の整理にかかる。
そこへジェシーが声をかけた。
「このままお帰りになりますか?」
「いえ。娘の顔でも見てから帰ろうかと」
「そうでしたか、ちょうどよかった」
ジェシーがパンと両手を打つ。
「これから彼女のところへ行こうと思っていたんです。お父さんを紹介してくれてありがとうと言っておきたくて。よろしかったら、ご一緒にどうですか」
レオンはきょとんとした。が、すぐに頬を緩めた。
「よろしくお願いします」
ジェシーの後に続いて、レオンが寮へと足を向ける。
何人もの生徒たちとすれ違い、妙な目を向けられる。
制服姿の生徒は少ない。
そういえば今日は休日だったと、レオンは今更ながら思い当たる。
寮の玄関に行くと、廊下を進みアリアの部屋に向かう。
「アリアさん、いる?」
ジェシーがノックをする。
「はーい」
中からアリアの返事が聞こえた。
鍵が解かれ、ドアが開かれる。
「突然ごめんなさいね」
「いえ。どうしたんですか」
「レオンさんを紹介してくれたこと。お礼を言いたくてね。ありがと。おかげで見学の警備も整えられたわ」
「そうでしたか、それはよかったです」
アリアは笑みを浮かべる。だが彼女がふと視線を逸らした時、笑みが緊張に固まった。
「久しぶりだな。アリア」
「父さん……どうしてここに」
「会合の帰りにちょっと顔を見たくなっただけだ」
「会合?」
「今日は見学の行程の最終調整をやったのよ。レオンさんも同席したの」
「そう、だったんですか」
ジェシーとレオンの顔を交互に見ながら、気まずげに笑うアリア。
「それじゃ、私はもう行きます。あとは親娘水入らずでどうぞ」
「ありがとう、先生」
「いえいえ。それじゃあね、アリアさん」
「さようなら」
レオンとアリアに見遅れらながら、ジェシーは寮の外へと向かっていく。
「中に入ってもいいか?」
「うん、どうぞ」
アリアはレオンを中に入れる。
「あら、どうしたのこんなところに」
レインが椅子から立ち上がって言った。
「帰り際に娘の顔を見たくなっただけだ」
「へぇ、そう。あんたに似合わず、親らしいところがあるじゃない」
「似合わずは余計だ」
レインを見ながら、レオンはため息をつく。それからアリアに目を向けた。
「お前のほうは、元気にしてたか」
「うん、まあ。元気にはやってたかな」
「そうか」
言葉が途切れる。
「病気にも、なってないか」
「うん。大丈夫」
「そうか」
また途切れる。
「何よ。やけに歯切れがないじゃない」
レインが茶化しにかかる。
「うるさい。茶化すな」
レオンが睨みつける。レインは肩をすくめると、ベランダに立ってタバコをふかしはじめた。
「殿下との仲はどうだ。何か発展はあったか」
「そんなに発展はしてないわ。昔のように、仲良くしてもらっているけど」
「嫌われてないのなら、それでいいさ」
レオンは椅子に座り、アリアの顔を覗き込む。
「お前の肩に計画の全てがかかっているんだ。くれぐれも殿下にばれたり、他のものたちに悟られないよう気をつけてくれ」
「……わかってるわ、父さん」
「それでいい。お前は賢い子供だ。お前のような子を持てて幸せだよ」
レオンはアリアの頭に手を伸ばす。
彼女の髪に触れて、そっと撫でようとした。
だが、彼女は顔を背けて、それを拒んだ。
レオンは手を止めて、彼女に触れることのないまま、静かに下ろす。
「レインと話したいことがある。彼女を少しの間借りるが、いいか」
「うん。大丈夫」
「戻ってくるまで鍵をかけて待っていてくれ。誰も入れるんじゃないぞ」
「わかってるわよ。もう慣れっこだもの」
アリアはそう言って笑う。
ただ、レオンのはその笑みがひどく寂しげなものにうつった。
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