第14話
レインがきった啖呵。これが思いのほか効果を発揮したのか。
あれ以降、アリアに対する陰湿な仕打ちはなくなった。
そして孤独が、アリアの元に戻ってきた。
アリアはほっと胸を撫で下ろす。
レインは少し肩透かしを喰らった気持ちなった。
だが、以前のように全てが元に戻ったわけではない。
前にもまして、生徒たちからの無関心はひどくなった。
まるでいないかのような、あからさまな無視。
ちらと見たかと思えば、憎たらしげ視線を投げるだけ。
人は根っから陰湿さがあるものだ。
が、どうやら金を持つ人間はよりそれが高まるらしい。
何もしてこなければなんの問題もない。
レインはいつものように、アリアは普段通りに、学園での生活を送った。
そんなある日のこと。
来週に控えた社会科見学会を前に、クラスではその準備を行なっていた。
挨拶まわりから、計画に至るまで。
学園では学生が主体となって執り行う。
アリアのクラスでは、ウィリアムがアポを取る係りに任命されていた。
皇太子からの電話であれば、断ることはできないだろう。
そういう打算的な狙いによる選出だった。
もちろん、女子からの熱烈な支持があったのは言うまでもない。
見学場所も決まり、日程も決まり。あとは時間調整をするだけ。
そんな時、レインが目を話した好きにアリアの姿がなくなっていた。
国友にアリアを見ているように頼んで、トイレに行った。
その間に、彼女がいなくなっていたのだ。
「あの子、どこに行ったの」
「トイレに行った」
「いつ」
「数分前だ。女子生徒が後をつけていったな」
「その子たちの護衛は」
「一緒に行ったな」
嫌な予感がした。
「どうしてついていってあげなかったの」
「俺の仕事は殿下を護衛することだ。お前のお嬢さんについていくのは、仕事の範疇にはない」
この前の当て付けか。
レインは睨みつけたが、国友は鼻で笑うだけだった。
レインはすぐに廊下に出る。
トイレに行ってみたが、案の定そこにアリアの姿はない。
トイレを出て廊下を進む。
と、廊下の窓から数人の女子たちの姿が見えた。
彼女たちに囲まれるアリアの姿も。
その女子生徒はレインも見覚えがある。
ウィリアムに常に付きまとっていた親衛隊だ。
金髪のロン毛。
茶髪のボブ。
黒髪のそばかかす。
ウィリアムと親しくするアリアに対して、並々ならぬ嫉妬を抱いていた連中だ。
彼女たちが向かったのは、本校舎北側。
コンクリートで作られた納屋。
燃焼用の薪や野外炊飯用のはんごうがしまわれている。
滅多なことでは使わない施設なため、周囲には人気はない。
だから、彼女たちはそこを選んだに違いない。
とにかく、急がなければ。
下に誰もいないことを確認すると、レインは窓を開く。
窓枠を掴み、勢いよく飛び出した。
浮遊間も束の間。足元に地面が迫る。
着地と同時に前転。
すぐさま立ち上がり、納屋へと向かう。
森林に囲まれた小道を走る。建物が目の前に迫る。
そこに立ち塞がるのは3人の男たち。
チンピラのように肩をいならせ、レインの前に立った。
「どきなよ。私、今急いでるんだから」
「そう焦るなよ。ちょっと、俺たちと遊ぼうや」
するり、と3人は木刀を抜いた。
「遊ぶにしては、危ないものを持っているじゃない」
「
男が肩をすくめる。
全くその通りだ。
しかし、この学園においてはその限りではない。
「こっから先には進めるなって、お嬢のお達しだ。あんたにゃ、いやでも俺たちに付き合ってもらうぜ」
「忠実な犬ってことね」
「野良犬よりはずっとマシさ。わがまま聞いてやるだけで、金と飯が保証されるんだからな」
両手に木刀を握るもの。
体から力を抜くもの。
肩に木刀をかけるもの。
それぞれの構えを見せ、男たちはレインを囲む。
「べっぴんを傷物にするのは気がひけるが、恨まないでくれよ」
「恨みはしないわよ。それが仕事なんでしょ」
「その通り、これが仕事だ。あんたも、仕事なんだろ」
「ええ。仕事よ」
互いに薄笑いを浮かべる、レインと男。
どちらが仕掛けるでもなく、睨み合う。
ただならぬ気配。
それを察知したのか、木立の中から鳥が飛び立つ。
それを合図に男たちはレインへと挑みかかった。
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