第3話

 ディエルモ国立中央学園。

 孤島の上にある学校だ。

 島の周囲を高さ30mの壁が囲み、監視カメラと警備員で厳重に守られている。

 

 孤島と街とをつなぐ一本の橋。

 レインとアリア・サヴリナを乗せた車が走っていく

 検問所にてアリアの学生証。レインの身分証明書を提出。

 確認が済むと、正面門が開かれる。

 駐車場にて2人をおろすと、運転手はさっさと街へと帰て行った。


「こっち」


 アリアがレインを連れて行ったのは、学園の東側にある、赤煉瓦の建物。

 第1生徒寮。標識にはそう書かれていた。

 玄関を入ると奥に廊下が伸びている。

 右手には階段。左手には101から順に部屋が並んでいた。


 アリアが106の前で足を止める。 

 鍵を開けて中に入る。


「ここが私の部屋」

 

 クリーム色の壁紙。

 二つのベッドに二つの本棚。

 シャワールームにトイレ、簡易的なキッチン。

 目立ったものはないが、暮らす上で基本的なものが揃えられている。


「意外に質素な暮らしをしているのね」


 部屋の中をあらかた見ていくと、ベッドの端に腰掛けた。

 早速タバコをつけようとしたが、アリアに止められる。


「タバコはダメ。禁煙だから」


「いいじゃない、たったの一本くらい」


「ダメ」


 アリアはそう言って聞かない。


「……世知辛い世の中になったわね。全く」


 火のついていないタバコをくわえて窓の外を見る。

 そこにはがらんとしたベランダがあった。


「あそこなら、文句は言わないでしょ」


 アリアは顔をしかめたが文句は言わなかった。

 窓を開けてベランダに出る。

 物干し竿以外に何もない。

 中庭を見ながら、レインはタバコに火をつけた。


 チラリと部屋を見る。

 アリアがレインに背中を向けて、本を開いていた。


「可愛げのない女だこと」


 彼女にあったのは数日前。

 それからずっと、その印象がついて回っている。

 物静かだが静かすぎる。 

 仏頂面で表情の変化がなさすぎる。

 まるで人形のように、必要以上のことは言わないし、動かない。


 血も涙もない機械。

 もちろんそれはないが、たとえそうだったとしても、レインは不思議には思わない。


 携帯灰皿に吸い殻を入れ、レインは部屋に戻る。

 するとアリアは本を閉じて立ち上がった。

 手にはスプレー容器を持っている。


「じっとしてて」


 スプレーのトリガーを引き、霧状の液体がレインの体に吹きかける。


「消臭剤。タバコの匂い、嫌いなの」


 用は済んだとばかり、彼女は椅子に座り本を開いた。


 ……可愛げがないのは訂正しよう。小生意気なクソガキだ。


 レインは舌打ちをすると、ベランダへと引き返した。

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