第21話 僕と友達のデート本番戦(5)

「ごめんなさい、待たせてしまって。」


「全然大丈夫だよ。私たちもちょっと休憩してたし、悠雨も戻ってきたのついさっきだったから。」

僕が戻ってきたときには既に、三人とも揃って僕のことを待ってくれていた。


さっきと同じように、悠雨に近づいて隣に立とうとしたのだけど、僕が近づくと、さっきと比べて一歩大きく距離があった。


さっきみたいに近づこうとして、一歩悠雨に近づく。そうすると、そっと悠雨が後ろへ後退る。


その距離を縮めようと僕が一歩近づこうとしても、またゆっくりと悠雨が後ろへ下がっていく。


「悠雨さん、どうして逃げるんですか……!!」


さっきとは変わって、全然僕が近づくことを許してくれなくなった悠雨に、僕が問い詰める。


「あ、いや逃げてるわけじゃないんだけど……、ほら、さすがに近づきすぎじゃないかなって思って、雪華もわかるだろ……?」


あ、これ確定で逃げてる……。

目を泳がせながら、できうる限り傷つけない言葉を選んで、逸らそうとする。


悠雨がよーくやるくせ。


そうしてまで僕に近づきたくないみたいに感じ取れてしまう悠雨の行動に、ちょっとムスッとしてしまった。


「あ、あの……雪華どうしたの……?」

僕の態度が変わったことに気づいたみたい。


「別に、なんにもありません。」


悠雨の態度に対して、ちょっといじわるをしたくなって、別にと、ふいっと目を逸らしてしまう。


ちょっと距離おかれただけで、なんでこんなに怒ってるんだろう……。

この気持ちに対して僕はよくわからなかった。


「あ〜あ、雪華ちゃん怒らせちゃった。」

そう言った朱希が僕の肩に手をかけて後ろにかぶさってきた。

その状態のまま、悠雨の方に視線を向けてニヤッと表情をおくる。


「別に怒ってるわけじゃないけど……。」

意識してるわけじゃないのに、なんだかムスッとしてしまい、すごいめんどくさい女の子みたいなそんな反応をしてしまう。


「急に距離をとられて寂しかったんだよね〜。」

後ろの方からほっぺたをちょんちょんとつっつきながら、僕に目線を向けて話しかけてくる。


空かさず己丞君も悠雨に対して絡みに行く。

「ほら悠雨、こんなにかわいい子がきみのためにムスッとしてるんだよ? 何もしなくていいの?」


その二人の言葉の後に、ちょっと悠雨の方へ視線を向けてみた、すると

「あ……、あっあ……、お、俺はどうすればいい……?」

表情は完全に困りきっていて、おろおろしながら小声でそうつぶやきながら己丞君の方へ助けを求めに行っていた。


少しは自分で考えて動いて欲しかったな……。なんてちょっと贅沢な愚痴みたいなものを頭の中でこぼす。


そうしているうちに、己丞君が悠雨の傍で耳打ちをコソコソと始めていた。しっかりと、聞こえないように話しているのか、こっちからは全然聞きとれなかった。


己丞君がひと通り話し終わったのか、耳元から離れて二人でヒソヒソと話し合っていた。


「なに話してるんだろうね?」

僕の肩に手を乗せた状態のまま、朱希と顔を見合わせる。意識していないけど、まだムスッとした表情が顔にくっついてる感じがする。


「あらあら、まーだご機嫌ななめなの〜?」

やっぱりまだくっ付いてたみたい。

「そんな機嫌が悪いとかいうわけじゃないけど……、なんだかモヤモヤするの……。悠雨に悪気は無いのはわかってるんだけど……。」


別に悠雨は悪いことをしてる訳じゃない、それなのにこんなにも顔に出して、本当に嫌なやつになってる気がする……。


「うんうん、わかるよー。その感じ、みんな経験するものだから、雪華ちゃんは悪くないよ。でも、ここまでわがままな雪華ちゃんが見られるとは思わなかったな〜。」


「やっぱり、わがままだったかな……!?」

願いすぎなのは自分でもわかってる。でもなんで、こんなにも欲しがっちゃうんだろう……。


「わがままだけど、それでいいんだよ。ずっと欲しかったんでしょ? 今なら自分でもわかるでしょ?、求めていいんだって。それにほら、悠雨の方ジッと見てみ?」


そう言われ、己丞君とコソコソと話している悠雨をジーッと観察してみる。


あれ、ちょっと顔が赤い……。

しかも、己丞君と話しながらも、チラチラとこっちに目線を向けてくる。


「あんなに悠雨が興味示してるんだもん。桜花ならわかるでしょ? 大丈夫、素直になってきなよ。今は誰もが振り向いてくるかわいい雪華ちゃんなんだから。」


今は、私は、夜夕月雪華やゆづきゆき

悠雨のことが気になっている、ただ一人の女の子。だったら、許されるのかな……?


肩に手をおいたままの朱希に顔を向け、本当に許されるのか、確証を持てない表情を見せる。


朱希はただ黙って、いってきなと言わんばかりに、コクコクと頷いて目線で伝えてくれる。


許されるのかな……。なかなか自信が持てない。

自分の悪いくせ。うじうじと考えてしまう。


「ほら、そんなことしてるうちに……。」

朱希はそう言って朱希が向いている、僕の目線とは逆側に指を指す。


その指に従って、僕は顔を向き直して朱希の視線方向へ目線を合わせる。


合わせた瞬間、一歩前のところに悠雨の顔がいきなり現れ、急なことでびっくりしてしまった。

「キャッ……!! あ、悠雨……さん!!」


「あ、ご、ごめん。急に現れて驚かせちゃったよね。」


驚いたとしても、急にキャッ……!! なんて反応絶対ダメ……!! 悠雨に失礼だよ!!


顔を一瞬隠してしまったところから、悠雨にしっかりと目線を向き直す。

「い、いえ、こっちこそ変な驚き方しちゃって、ごめんなさい。」


「いや、全然気にしないで、しっかり声かけなかった俺が悪いから。あ、あのさ、雪華はその……、俺と一緒に行動するのって、イヤじゃない……?」


「イヤなんかじゃないです!! むしろすっ……」

悠雨の言葉を聞いて、咄嗟にここまでのセリフが出てきてしまい、土壇場のところで何とか踏みとどまった。


「? どうしたの?」


「い、いえ、とにかくイヤなんてことは絶対にないです……!!」


「そ、そう? ならいいんだけど……。」

なんだか悠雨が嬉しそう……。


こうやってまじまじ見てみると、悠雨って結構わかりやすいのかな?


「これからはあまり距離をつくらないでくださいね。私もちょっと寂しいので。」

ここは自分なりの素直な気持ちを伝えたかったから、思ったままの言葉で悠雨に話した。


「そうだよね、ごめん。俺も距離の詰め方がちょっと分からなくなっちゃって、でも、今イヤじゃないって言ってくれたから、少し安心したよ。」


「そんなこと、私全く思ってないので、心配なんかしないでくださいね。一緒にいて、楽しいので……。」


なんだか全く変わらないような、そんな会話を続けられている。もしかしたら、こんな日常もあったみたいな……。


「じゃあ、あの……、また隣に並んで歩いてもいいですか?」


「あ、うん、大丈夫だよ。」


その言葉を聞いて、私は悠雨の隣にぴったりと付くように並んだ。そこから悠雨の顔があるところまで目線を持っていき、目が合ったところでニコッと笑った。


それに合わせて、悠雨も口角をあげた表情で返してくれた。


やっぱり好きだな……。


さっきまでは気づかれないように、初対面ぐらいの距離感を保っていたけど、やっぱり、普段通りの距離感でいた方がいい気がした。


僕はもう二歩、悠雨との物理的距離を縮めて並んだ。


悠雨はそれに気づいたようで、僕の方へと目線を下げこちらを見てくる。


「こころの距離を縮めたいなら、まずは行動からってことで、近づいて見たんですけど……、どうですか……?」


これには素直な気持ちもちゃんとある。

やっぱり、どんな形になっても悠雨の近くにいたいから……。


「勇気出してくれてありがとう。そうだね、じゃあこの距離感で、今日は行こうか。」


「はい、そうしましょう!!」


やっぱり少しはいつも通りのまま、素直になることも大事なんだな。


こっちの方が、なんだか硬くなりすぎなくてちょうどいいかも。


そんな感じで、さっきまで目の前にあった問題が消え、目線先にも頭の中にも悠雨のことでいっぱいになっていた僕に朱希が声をかけてきた。


「二人っきりの世界に浸ってるところ悪いんだけどー、私たちがいることも忘れないでねー。」


「あ、ご、ごめん……!! で、でも忘れてたわけじゃないよ……!!」


つい悠雨のことになると頭がいっぱいになっちゃう//

でもでも、今回は悩みが一個解決したっていうのがあるから、こんな変なことじゃないよね……!!

そう思うことにしておいた。


「朱希、二人がこの様子だしちょっと耳貸して……」

なにやら己丞君が朱希に対して耳打ちをし始めた。


何を話しているんだろう……? と悠雨と顔を見合わせて首を傾げていた。


「たしかに二人的にいいと思うけど……、あんたと……?」


「まあまあ、ニ人を助けるためだと思ってさ、ね」


途中から耳打ちをやめて目の前で二人で相談をし始めたけど……、よく分からない。


「なに話してるんですかね……?」


「さあ……、俺もよくわからないなー。」


顔を見合わせてた時から気づいてはいたけど、やっぱりお互い内容に関してはわかっていなかった。


二人でなにやら相談をしている朱希と己丞君をそっと見守りながら、時々顔を見合わせながら並んで立ち続ける。

「あの二人の感じ、いいですよね。」


ふと話題を朱希と己丞君の方へと移す。


「雪華から見ても、やっぱりそう思うよなー。」


「悠雨さんから見ても、やっぱりそうですよね(笑)」


どう見てもお似合いのカップルなのに、付き合ってないのはほんとに不思議。

もし理想のカップル像というのがあるのだとしたら、自分は真っ先にこの二人を推すぐらい、憧れる様子がある。


「あの二人幼なじみで、己丞自身が朱希のこと好きだって言うのは昔から知ってたからさ、応援してるんだ。まあ、朱希の方がどう思ってるか、分からないけど(笑)」


私はその答えを知ってるんだけどねー、とは当然言えないから、とりあえず流れに合わせた会話をする。


「ずっと傍で観てきたなら、大丈夫だと思いますよ。仲良いんでしょうから、おふたり(笑)」


「そうだね(笑)」


なんだかすごく雰囲気がいい、ちゃんと話せてるし、なにより楽しい!! ちゃんと距離詰められてる!!


不自然に思われちゃうから落ち着いたようにしてるけど、心の中では跳び跳ねたいくらいウキウキになってる……!!


まだ一日経ってないのにこんなに距離詰められるなんて、夢みたい!!

はっ、浮き足立ってるのバレないようにしなきゃ……!!


こんな風に今の状況を楽しんでムフフとしていると、秘密の相談が終わったらしい己丞君がこっちに近づいてきた。


相談してたみたいだから、なにか決まったのかなと思い、悠雨と二人近づいて耳を傾ける。

「悠雨と雪華ちゃん、ちょっとここからなんだけど自分と朱希別行動ってことでお願いできない?」


そう伝え終わった後一瞬、己丞君がこっちに目線を合わせてきてなにやら合図らしきものを受け取った。


私もこれは己丞君にも頑張って欲しかったから、ファイトの意味も込めて下に垂らしている左手でGoodの合図を送り返した。


悠雨も己丞君の思いを察した感じだった。

「ちょっといいか、己丞。分かってはいるけど、こっちが二人っきりっていうのは……。」


でもなかなか踏ん切りつかないみたい。悠雨ってもしかしなくても結構奥手……?


だからここはサポートする意味も含めて、悠雨の腕をがっちり掴んで強引にでも引き寄せる。


「わかりました、じゃあ悠雨さんいきましょ! 己丞さんも頑張って!! じゃあ私たちはお先に」


「うん、よろしくね。じゃあ二人も楽しんで!!」


「えっ、おっちょ……!! ゆ、雪華……??」


強引にでも引っ張っていかなきゃ……!!


朱希、頑張ってね!!






〜続く〜

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女装男子が恋しちゃダメですか? Magical @magical

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