第20話 僕と友達のデート本番戦(4)
一応、みんなと一緒に園内に入ってみたけど、まずどうしようか迷っていた。
「じゃあ、まずなにしようか。何か乗りたいものある……?」
朱希がみんなに問いかけると、みな揃って考え込む。
乗りたいもの……、なにかあるかな……?
そう思って辺りを見回してみる、見慣れたアトラクションが周囲にある中で、近くのメリーゴーランドが目に入った。
あ、昔来たときにみんなと乗ったメリーゴーランドだ……。ちょっと懐かしいかも。
あの頃乗った時は、みんなまだ小さかったから二人乗りしたんだっけ。お家にしっかり写真も残ってるから、よく覚えてる。
あのときのみんな可愛かったな〜。
今の僕みたいな格好させたら絶対にカワイイし見てみたかったな〜。
そんなことを思い出していると、朱希からひとつ、候補が上がってきた。
「どうせなら、あの目の前にあるメリーゴーランド乗らない? 久しぶりだし!!」
「たしかにすごく久しぶりかも。いいんじゃない? 自分はありだと思うよ。」
朱希の提案にすかさず賛成の意思を送る己丞君。
ちょうど思い出してたことバレたのかな……?
そのくらいタイミングがよかったから、ちょっと考えてしまう。
すると二人の提案を聞いて悠雨はこちらの様子を見てくる。僕からの意見が欲しいのかな……?
さっきの失態を払拭するためにも、僕はここでニコッと笑って悠雨に返答した。
「私もいいと思いますよ。私自身も久しぶりで、なんだか新鮮なので。」
それを聞いて悠雨からも賛成の声が上がった。
「なら、みんながOKなら、いいんじゃないか。たしかに懐かしいしな、久しぶりにっていうのもありかも。」
みんなの意見がメリーゴーランドに向いたところで、朱希が勢いよく掛け声をする。
「よぉーし、じゃあまずはみんなでメリーゴーランドに並びましょう〜!!」
朱希の掛け声に従って、目の前で回っているメリーゴーランドの列目掛けて進み、並び始めた。並んでいる人達は、親子連れだったりが大半を占めていて、こんな歳の四人連れはどこを見渡してもいなかった。
でも、今回っている中で大人だけで回っている人達もいるから、そこは少し安心できた。
そこで、乗っている人たちを眺めていると、
あ、あのカップルの人たち楽しそう……。
ふと目に入った二人組のカップルの様子をみて、ちょっと羨ましくなった。
くっ付きながら二人で馬に乗り、なんだか御伽話に出てくるような王子様とヒロインみたい
なんだかちょっと憧れるなと眺めながら思っていると、ひとつの馬に二人乗りしていることに気がついた。
あれ……、二人でひとつの馬に乗ってる……。
周りよりもひと回りぐらい大きめの馬に、ふたりがまたがってバイクの二人乗りのように、後ろの人が抱きつきながら回っていた。
それを見つけて、説明書きが書かれているところをキョロキョロ見渡してみると、二人乗りができる馬がいくつか用意されているそう。
「二人乗り用の馬があるんだ……」((ボソッ…
つい頭に浮かんだ言葉が口に出てしまった。
ハッとして口をそっと押えたけど、もうみんなに聞こえちゃってるみたい……。
「あれ、もしかして雪華ちゃん、二人乗りの馬に乗りたいの……? 珍しいし、あまり出来ないもんね!!」
朱希のいつものノリが出てきてしまった。
「あ、でも二人乗りって、どういう感じで分れればいいのかわからないし……。」
こう言ってはくれたけど、自分から悠雨に声をかけるようなことなんてまだ出来ないし、自信もないから、逃げ腰になってしまった……。
すると己丞君が悠雨にちょんちょんと肩を叩き、何かをコソコソと話し始めた……。
「己丞……、まあ、それはわかるけど……、大丈夫かな、俺……。」
「大丈夫だって。二人とも仲良さそうだし。真面目に恩に着るよ!」
こんなやり取りがちょっと小耳に届いたけど、どんなことを話していたのかは全くわからなかった。
そんなやり取りが終わってすぐに、己丞君が朱希に声をかけた。
「朱希、これ一緒に乗ろう!!」
これを言われた瞬間、一瞬えっ……、という反応をして固まってたけど、すぐにいつものような状態に戻った。
「あ、あぁ……、そうだね!! 久々に己丞と一緒。」
ちょっと照れながら、己丞君に目線を向けている朱希が恋する乙女という感じで、より可愛くなってた。
ああいう朱希の姿はあまり見れたことがなかったから、なんだかちょっとほっこりした。
ほっこりしてニマニマした目線を二人に送っていたら、悠雨がサッと僕の方に近づいてきて、そっと耳打ちをされた。
「己丞から朱希と乗りたいって言われたから、こういう分かれ方になっちゃったけど、雪華はいい……?」
突然耳打ちをされたから、ちょっとビクッと身体が反応してしまった。
でも、ここで己丞君と悠雨がさっきしていた、耳打ち話が理解出来た。
もしかして、僕のために伝えてくれたのかな……。
さっきに続いて悠雨は耳打ちをする。
「二人で乗って、って言われてはいるけど、もし嫌なら別々でもいいから、そのときは言ってね。」
嫌なわけない、むしろ絶対一緒に乗りたいって思ってたぐらいなのに。
「いえ、全然嫌なんかじゃないです……!!」
悠雨の言葉に反応して、気持ちが先行してしまい、また咄嗟に口に出てしまった。同じようにそっと口元を押えたけど、もう遅い……。
それを聞いた悠雨は一瞬えっ……? とちょっとビックリしたような反応をしていた。
今悠雨の目の前にいるのは、一つ年下の女の子な訳で、ここで何か言わないと、また悠雨に不安を募らせちゃうから言葉を続ける。
「あ、あの……、あまり二人乗りなんて出来ることないですし、それに……悠雨さんと乗ってみたいなって……。」
あ……、口に出しちゃった……。
なんか今日の僕、ちょっと変なのかな……。
さっきからずっと、思ったことがすぐ口に出ちゃったり、悠雨に対して余計に意識しちゃってるし。
メイクは魔法って言葉は、やっぱり本物なのかな……?
僕の言葉を聞いて、悠雨もちょっと照れちゃったみたいで、
「そう……? じ、じゃあ、一緒に乗る……?」
みたいな感じで若干の疑問形で聞いてきた。
「は、はい……!! よろしくお願いします!!」
ちょっと改まった感じになっちゃったけど、一応、一緒に乗る約束はできたからよし!!
そんなやり取りをしていたら、すぐに僕らの順番が回ってきた。
係員さんが人数を数えて、どうぞと言われて中に入る。
前の方から空いているところに乗っていく形だったから、二人乗り用の馬を見つけて早々と乗ろうとしたけど、高めの位置で止まっちゃってて、なかなかうまく乗り上がれない……。
身体が硬いせいもあってか、脚が上がらず戸惑ってしまった。
あ、あれ……、どうしよう脚が届かない……。
自分の身長が低いことがここまで嫌になったことは、今まで無かったけど初めて嫌になった。
そう焦っていると、悠雨は颯爽と馬の上に乗り僕がいる下の方へ手を伸ばしてきた。
「雪華、ほら掴まって。」
「は、はい……!!」
僕の方へ下ろされた悠雨の手を掴み、脚を丁度いいところにかけ、悠雨の後ろ側へと乗り込む。
馬に跨りながら手を差し出してくる悠雨、なんか王子様みたいだった……。
なんかここに来てからずっとこんな感じだ……。
もう、嬉しくないって言ったら嘘だけど、これじゃあドキドキしすぎてどうしようもないよー!!
「あ、雪華、そろそろ動くと思うんだけど、落ちないように俺のどこか掴まって。」
え……、どうしようもないって思ってたそばから、またきちゃった……!!
待って、掴まるってどうすればいいの!?
どうすればいいかわからず、他に二人乗りをしている人達を見てみると、後ろから抱き締める形で捕まっている人達がほとんど……。
抱き締めるように……、なんて絶対出来ない……!! で、でも他に掴まる方法あるのかな……。
どうにか考えるために、頭をフル回転させて思い出して考えてみる……。
なにかないかな……、何かないかな……!!
必死に思考をめぐらせていると、ちょうど昔にみんなでここに訪れた時のことを思い出した。そこで、悠雨とメリーゴーランドに乗った時のことを思い出してみた。
そういえば昔二人で乗った時……、たしか肩に両手をかけて乗っていたような気がする……。
あの頃はあのころでやっぱり楽しかったな〜。
って、そんなこと思い出してる場合じゃなくて、早く肩につかまらないと。
そこから早速肩につかまると、悠雨の身長的にもやっぱり大きいなと感じた。
「あ、掴まってくれたね。なんか、この掴まれ方ちょっと懐かしいな……。」
「えっ……、な、懐かしい……、前にこういう風にされたことがあるんですか……?」
「うん、昔からの幼なじみなんだけど、ちょうど今みたいに一緒にメリーゴーランドに乗った時、こうやって肩に手を乗せてさ。その時のこと思い出しちゃってさ。」
「そ、そうだったんですね。」
懐かしいとか言われてびっくりしちゃった……。でも、悠雨も覚えてくれてたこと、ちょっと嬉しかった……。
プルルルル〜!!
そうしていると、回り始める合図がなり始めた。
動き始めた瞬間、少しガクンとなり前の方に倒れそうになる。
「あ、大丈夫……?」
悠雨の背中に顔が埋まって、一瞬なんとも言えない幸福感に包まれた。
でもすぐに我に返り
「だ、大丈夫です……。」と返事をした。
そこからメリーゴーランドで何周か回ったのだろうけど、さっきから色々なことが起きて、頭の処理が追いつかず、気づいたころにはもう終わってしまっていた。
ふわふわふわふわ〜…………。
ずっとさっきからふわふわした感覚が頭にこびり付いている……。
そのせいでずっと締まりのない表情が直らない……。
前はこんなことならなかったのに……、やっぱり今日はおかしい……!!
一旦しっかりしようと思い、手鏡を取り出すと、ちょっと頬のメイクが少し崩れかけていた。
すぐその場で直してもよかったのだけど、なんだか、その時は化粧室に行った方がいい気がして、「ちょっとお手洗いに行ってきます。」といい、メイク直しに行った。
この格好のときはその後にめんどくさい事になるのも嫌だから、多目的トイレを利用しているのだけど、お手洗いに向かってみるとちょうど多目的トイレは使用中で、でも幸いに男子トイレには一人もおらず、すんなりと入ることが出来た。
もし途中で誰かが来ても嫌なので、奥の個室へと入り、ポーチと鏡を取り出して、メイク直しを始めた。
パウダーを少し筆にとり、ぱぱっと重ねながらこんなものかな……?と鏡と何度かにらめっこをする。
そうやってにらめっこを繰り返していると、トイレに入ってくる一人の足音が聞こえてくる。
その人からは、何故か真っ先に水道から水を出して、手を濡らす音が聞こえてきた。
最初はただ手を洗いに来た人なのかなと思って、特に気にせずに再び鏡に向き直った。
そうして
「はぁー〜ー……。」
静かに息を潜めて待ってると、手洗い場の方からため息が聞こえてきた。
しかも聞き覚えのある声……。
あっ……悠雨だ……。
待って……!! 悠雨がいるなら絶対出られないじゃん!!
バレる訳にはいかないので、何とか悠雨が用を済ませるまで扉の近くで待機することにした。
少し落ち着いたところで、なんでため息なんかついてたんだろう……と不思議になった。
「俺、もつかな……。」
そう思ったそばから、悠雨の独り言が聞こえてきた。
……? もつかなってどういうこと……?
もうちょっと詳しく知りたいから、耳をしっかりとすませる。
「さすがに中学生に対して、これはダメだ……!! 真面目に嫌われる……。よし、リセットしよう……。」
えっ……? どういうこと……?
そこから悠雨は水で手を洗い流したのか、水音を鳴らした後に早々と去っていってしまった。
一応、誰もいない今がチャンスだったから、颯爽と鍵を開けてすぐさまトイレを後にした。
悠雨が言っていた言葉を一つ一つ思い出してみる。中学生……。たしか悠雨には1つ年下って説明したから、たしかにこの雪華は中学生になるのか……。
中学生に対してこれはダメ……? なにがダメなんだろう……? しかも嫌われるって……。なんか変なことでも考えてたのかな?
うーーん……。じっくり考えても出てこない……。
でもあのセリフ的に、ちょっと距離空けられちゃいそう……。
せっかくここまでしてもらったのに、全然意識させられなかったら無駄になっちゃう……。
よーし!! そっちがその気なら、こっちだって遠慮しないぞ〜!!
さっきまでのヘナヘナ具合からは一旦脱却する……!!
そう心にしっかりと決めて、みんなの待っているところに向かい合流する。
「ごめんなさい、待たせてしまって。」
〜続く〜
女装男子が恋しちゃダメですか? Magical @magical
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