ふたり
増田朋美
ふたり
ふたり
もうすぐ正月だと言って世間ではお祭りムードである。十二月はクリスマスと正月という大きな行事があり、それに合わせて、大型の商店が様々な企画をし、皆、それに乗っ取って行動することが多い。つまり、どういうことかというと、クリスマスや正月は、商店から仕組まれた楽しさによって行動する日なのだ。伝統的に厳かに行われていたという行事から、ただ単に楽しいという行事に変わりつつある。
でもそれは、健常者だけのもので、精神障碍者の場合は、苦痛でたまらないものになる。というのは、クリスマスや正月というものは、どうしても人が集まるという形を取ることが多い。そうなると、必然的に、他人の噂話というものが発生するのだ。どういう訳か、そういう時に、他人と比べるという現象が起こり、だれだれはどこの大学に入ったとか、だれだれはどこの会社でどんなことをしているとか、そういう話しで盛り上がる。そうなると、自宅にしか居場所がなく、学校にも会社にもいっていない精神障碍者は、必然ときに、こういうときに悪人として扱われ、その場にいることはできないし、ひどい時には生きている事すら、嫌になることが多い。
やっぱり、人間は、学校に行っているとか、会社に勤めているとか、そういう事をしていないと、良い人とみなされることはできず、悪人として生きることを強いられてしまうようなのだ。
そういう訳で、諸星正美は、この年末年始という時期が本当に嫌いだった。家へ来る、親戚ばかりではなく、この時期は家族の雰囲気も変わり、この忙しいときに、こいつがいなくなってくれたら、ということを少なからず思うことを、感じ取ってしまう。いくら口でそう思ってはいないとしても、精神を病んでいる彼女にはそう見えてしまう事なので、仕方ないのだった。其れは、議論しても、通じ合う事はない。其れは、車いすの人に、いくら立てと言っても立てないのと、同じようなものである。それが原因で大きなトラブルになることも少なくないので、精神病院はこの時期になると忙しくなり、患者人数が増える。でも、入院させてもらえる人ばかりではない。多くの人は、自宅で、親族の罵倒に耐え、アルコールや睡眠薬に頼って生活するしか方法がないのである。
諸星正美もまさしくそうだった。正月にやってくる親族は、あら、正美ちゃんまだ家にいるの、こんなところに居て、ご飯だけもらおうなんて、やってはいけないことよ、親は期限付きなのよ。早くいい仕事見つけて、自立しなきゃダメじゃないの、なんて親切なアドバイスをくれるのだが、この言葉ほど、精神障碍者にとって、傷つくものはないのである。そして、親族は、別の家に行ったときは、あそこのお宅の子はまだ、親と暮らしているんですって、甘えっこで嫌ね。それに比べてうちの子はいい子よね。あの子よりはまだましよね。という、言葉を交わすのだろう。それを想像することだけでも、雅美はつらいものであるから、正月というものが本当に嫌になるのだった。やはり日本では、一生懸命家族のために働いて、御金を家族に渡すという生き方が、正しい生き方であると主張する人がまだまだ多いし、それをできない人は悪人だとみなす人が非常に多い。それに、そういう人に対して反論する方法も、用意されていないのだ。
今日は、家で餅つきをやっていた。正美はそれに、参加することができなかった。威圧的な家族と一緒に何かすることが苦痛でたまらないのだった。協力しろというが、それに当てはまらないような気がする。祖父の命令に従って、文句言わずに動くのだ。その命令も、しずかに命ずるのではない、怒鳴りつけるのである。時折、他の人が激しく喧嘩することさえある。母はうまくかわすことができるが、父に至っては、叩き合いの喧嘩をしているような感じになることが多い。祖母が生きていたころは、祖母が間に入ったことが多いが、彼女も祖父の怒鳴り方は、正直頭にくると言っていた事があった。それくらい、祖父という人は、怒鳴ればみなが動いてくれると、信じ切っているようなのだ。
餅をつくる機械の動かし方、あんこと餅の混ぜ方など、怒鳴る、怒鳴る、怒鳴る。戦時中を生き抜くためにはそうするしかなかったというのがその理由であるが、正美はもう、そういう祖父とは関われないな、と感じていた。
そういう訳だから、正美は今日の餅つきには参加しなかった。こういう時、学校があるからとか、仕事があるからと言えば、すぐ逃げることが可能だったが、居場所がないとそういう口実も作ることはできない。代わりに、すきなことをやっていては、すきなことばかりして、なんて悪い奴だと罵られるし、其れを親族にぶちまけられて、親不孝な子だと評価されてしまう。この地域では、親族にそういう評価をもらったら、もうおしまいだ。いわゆる村八分である。そういう訳だから、家にいるのは苦痛で仕方ないし、祖父の怒鳴り声を聞くのも嫌だ。奥の手として、実在しなくてもよいから、なにか組織の名前を挙げて、そこに用事があるから、と言って、やっと家を出ることに成功する、という場合もある。
その日は、病院の行事で出かけるからと言って、正美は餅つきが始まったらすぐに家を出ることに、成功した。先ず、これでほっとした。精神障碍者にとって、一番頼りにするのは、病院だ。その病院で何か用があると聞けば、余り疑いをもたれずに外出することができる。
でも、彼女には、行くところがなかった。と、言うのは、クルマの運転ができないからであった。これができれば多少遠いところに逃げることも可能だが、出来ないと本当に近くしか行くことができない。
彼女が働けないというのもそのためである。彼女の家から歩いて通えそうな企業がないし、電車の駅も遠いし、バス乗り場もない。タクシーは高すぎる。都会へ行けば、電車で支援施設まで通うことができるが、田舎には、それさえも、クルマがなければいけないのだった。
しかたなく、ちょっと歩いたところにあるショッピングモールで、時間をつぶすしかなかった。ショッピングモールはおしゃれな洋服などがたくさん売っているが、それは健常者のためのもの。精神障碍者はおしゃれをしてはいけない。そういうデザインのものばかりで、どれも購入する気にはなれない。それに私は、そういうことをしてはいけない身分なんだろうし。おしゃれをしようものなら、なんて贅沢なことをしているんだ!と叱責が飛ぶことは疑いない。
まあ、それではいけないから、洋服売り場などさっさと通り抜けて、正美はフードコートに向かった。そういうところのほうが、まだ、誰かに干渉されることなく、時間をつぶせるのである。時折、受験勉強のようなことをしている人もいるが、受験生に見える年齢ではないし、もし、知っている人に見られたら、すきなことをしている暇があったら、早く仕事を探しなさい!と怒鳴られそうなので、不要であっても、求人雑誌を持っておくことが、必要であった。それをもって、正美はフードコートで一番安いラーメン屋さんに行った
ふと、ラーメン屋さんの前で小さな男の子が、うろうろしているのが見える。どこかに親はいないのかと思ったが、そのような様子はどこにもない。と、いう事は、子どもが一人でフードコートに来たのだろうか?こういう所には、必ず親御さんが付いていなけばいけないはずなのにな。身長から判断すると、まだ五歳か六歳程度だ。という事は、迷子にでもなってしまったのだろうか?
「ね、ねえ、僕。」
正美は、そう声をかけてみた。
と、彼は、足を止めて正美の方を振り向いた。
「僕、お父さんかお母さんは?」
正美が聞くと、
「いないの。」
と彼は答える。という事は孤児か?でも、そういう場合でも、ほかの肉親が引き取るとか、養護施設に居るとか、そういう形で保護者はつくはずだ。
「いないって、一人でここへ来たの?」
すると、男の子はうんと頷いた。
「おうちはどこ?」
「吉原。歩いてきた。」
随分遠いところから来たものだ。吉原から、こんなところまで歩いてきた何て、信じられない。
「どうしてここへ来たの?」
正美が聞くと、男の子は、一寸嫌そうな顔をした。いいたくないのかなと思ったが、
「その先は分かるよ。僕くらいの子が、おかあさんといっしょでないのはおかしいよって言いたいんでしょう?でも、僕のうち、お母さんっているようでいないので、、、。」
という男の子。その答えがまた不思議だったので、正美は、彼の話をちょっと聞いてみることにした。
「ねえ僕、お母さんが来るまで、おばちゃんと一緒に食事しようか。おばちゃんも、ほら、こういう風に事情があるからさ、僕が何かわけがあるってこと、おばちゃんもわかるんだ。だから、おばちゃんと話をしよう。悪いようにはしないから。」
正美は、小指に彫られた刺青を見せ、にこやかに言った。
こういう時は、そうした方がよいと思った。つまり大人と一緒にいるほうが、安全なのである。子どもが一人でふらふら歩いていたら、変な子だと思われることも少なくない。
「まず、なにか食べたいだろうから、すきなものを注文してご覧?」
正美は、男の子をラーメン屋さんの前に連れて行った。
「はい、僕、味噌ラーメン。」
と彼が言うので、正美はその通りにし、自分は醤油ラーメンを注文する。そのまま、男の子を連れて、窓に近い席に座った。
「まず、君の名前は何て言うのかな?」
と、聞くと彼は、
「はい、僕、土谷雅美。」
と、にこやかに答えた。
「そうかあ。すごい偶然ね。あたしも正美なのよ。あたしは諸星正美。よろしくね。」
「うん、よろしく!」
と、にこやかに笑う雅美君。
「で、さっそく、本題に入ろうか。どうして、吉原から一人でここまで来たの?」
「あのね。」
と、雅美君は静かに話し始めた。
「ママが、みきちゃんと付き合うんだったら、もう出てってと言って、怒ったの。だから、僕は、その通りにしたんだ。ママはね、すごく優しいんだけど、みきちゃんと僕が、仲良くすると、怒るんだ。」
「みきちゃんって誰の事?」
「幼稚園のおんなじクラスの子だよ。僕たちはとっても仲良しで、みきちゃんと一緒に、幼稚園の宿題をしたりしているんだ。みきちゃんのママもとっても優しくて、遊びに行くと、なにか食べさせてくれるんだ。でも、僕のママは、今度みきちゃんが僕のうちへ来たいと言い出すと怒るの。みきちゃんのパパやママと一緒に、遊園地や映画館に連れて行ってもらってるのを、なんでやめろっていうんだろう。」
つまり、こういうことだ。雅美君は、幼稚園の同級生のみきちゃんという女の子と仲がいいのだ。しかし、みきちゃんの家は、とても裕福であるが、雅美君の家はそうではないのだろう。みきちゃんたちの家族が、好意で雅美君を映画館や遊園地へ連れて行ってくれるのを、雅美君の家族はうらやましくというか妬ましく思って、それはやめろというんだろう。
何だか、自分の境遇に似ているな、と正美は思った。
「そうかあ。其れはつらいねえ。」
「そうだよ。だって僕は、みきちゃんの家に行くと毎回毎回、ママに何をしてきたのか聞かれて、いちいち、それを、言わなくちゃならないんだ。パパは、仕事の終わった後の飲み会で、何をしてきたかなんて、ぜんぜん言わないのにさ。」
そうか、いちいちみきちゃんの家でしたことを、報告しなければならないのか。
「で、みきちゃんのお母さんは、どんなことをしてくれているの?」
と、聞いてみる。
「うん。この前は、僕にケーキを買ってきてくれて、宿題が終わったら、みきちゃんと僕と一緒に食べたよ。其れで帰るときは、ママにあげてって、紅茶を一缶くれた。」
そうやって、お母さんにお土産までくれるのか。
「みきちゃんのママは、みきちゃんといつも一緒に居て、優しそうなママだなと思うんだけど、僕のママは、いつもブスッとしていて、僕の事なんか見てくれないよ。もうご飯を出したら其れで終わり。
ぜんぜん違う。」
と、雅美君は言った。若しかしたら、雅美君のお母さんも何か事情があるのかな、と思われた。
「雅美君のママは、料理したり、洗濯したりしてる?」
「しているよ。すごい嫌そうな顔をしてね。僕にご飯を出す時も、口をへの字型に曲げて、嫌そうな顔をしてはいって渡すよ。それに、僕のママは、たぶん僕が幼稚園に行っている間は、ずっと寝ていると思うって、パパが言ってた。だから、休みの日は、ほとんどパパと釣りに行ってるんだ。其れか、僕は退屈なので、みきちゃんと一緒に宿題をしに行く。」
「雅美君のママは、病院行ったりする?」
「うん。パパが、連れていく。そういう日は、僕は必ず、みきちゃんの家に遊びに行くんだ。でも、どこが悪くなっていたのかとかは、教えてはくれない。」
つまり、雅美君のお母さんは、何らかの精神疾患をもっているのだろうな、と、いう事だと正美は思った。このことを、小さな男の子に伝えてもいいかどうか迷ったが、本当の事を教えてあげるほうがいいと思った。
「雅美君。きっと雅美君のママとおばちゃんは、おんなじ病気にかかったんだと思うの。そうなるとね、みきちゃんのママがしてくれるような見方は出来なくなっちゃうのよ。おばちゃんは、変な見方をしないようにするために、こうして絵を描いたのよ。勿論絵を描けばすべていいかという訳じゃないけど、雅美君の、ママも本当につらいと思うから、ママがもし、ブスっとした顔をしていたら、今日はつらいんだなって、そっとしておいてあげてね。」
そう言って、正美は彼に左腕をそっと見せた。確かにリストカットの跡を、刺青で消しているのがわかる。
「そうなの?おばちゃん。」
と、雅美君は聞く。
「そうよ。世の中には、体ばっかりじゃなくてね。感じたり、考えたりすることが、うまくできなくなっちゃうという人たちがいるの。それを、心が病気になるというんだけど、まあ、これは覚えなくてよいから、前に言った方を覚えてほしいな。雅美君のママもそうなってるから、ブスッとしなくていいところを、ブスッとしてるのよ。でも、それは好きでやっているわけではなくて、つらくて苦しくてならないから、そういう風になるのよ。」
「じゃあ、ママも、病気だったら、治るかな?みきちゃんのママみたいに、優しくなってくれるかな?」
と、また雅美君は、子どもらしい質問をした。そのあたりは、現代の子供らしい発想だ。
「どうかなあ。病気と言っても、風邪みたいにすぐに治るというものじゃなくて、何年も何年もかかることが多いわ。」
其れも、しっかり伝えておかなければならないな、と思った。
「そうか。なら、僕がどうしたら、ママはよくなってくれるかな?」
雅美君は、こんな質問をする。それでは嫌だと駄々をこねることもなく、みきちゃんのママのようになってほしいと泣くこともない。ある意味子どもらしくない答えともいえるが、素直な気持ちを否定してはならないな、と思った。
「そうね。今と同じ生活を続けてくれていいと思うわよ。ママがつらいと思っているのが、顔に出ていたら、そっとしておいてあげて。」
「わかったよ。ねえ、おばさん。僕、みきちゃんの家に本当に遊びに行っていい?」
正美が答えると、雅美君は、そう言い出した。やっぱり、みきちゃんの事が本当に好きなんだろうな、という事が見て取れた。
「いいのよ。ママがいくら怒っても、雅美君は、雅美君の世界を持っていいんだし。」
それに、本当に親らしいことは、みきちゃんのママに代理でしてもらっているという事も、伝えるべきなのかと思ったが、それはまだ、彼には理解できないと思ってやめた。其れよりも、出来るだけ長く、みきちゃんと付き合いを続けてほしいと思ったし、雅美君のママが、みきちゃんのママがしてやっていることに、早く気が付いてほしいと思った。
「本当!やったあ。僕、みきちゃんの所に行っていいんだ!」
そうよろこぶ雅美君を見て、正美は、なんだか切ないなと思う様になってしまう。
「これからも、みきちゃんと仲良くね。」
と、そこへウエイトレスがやってきた。
「すみません、遅く成りました。申し訳ありません。こちらが、味噌ラーメンと、醤油ラーメンでございます。」
二人の前にラーメンを入れた、どんぶりが置かれる。
「じゃあ、食べようか。」
「うん!いただきます!」
雅美君はすごい勢いで、ラーメンを食べ始めた。やっぱり、この時間であるから、腹が減っていたのだろう。
「おいしい!ラーメン大好き!」
そう言う雅美君はやっぱり子供だなあ、と正美は思うのである。最近はラーメンごときでは感動しない子供も多いと聞くが、おいしそうに食べているから、ラーメンがごちそうである階級なのだろう。
「おばちゃん、おんなじ、まさみ同士、仲良くしようね。有難う!」
しまいにはそんなことをいう雅美君に、正美は自分はたいしたことしてないのになあ、とちょっと照れくさくなってしまうのだった。
「あー。おいしかった。おばちゃん、有難う。」
最後の一杯のスープを飲み終えると、雅美君は笑顔満面でそんなことを言った。
「じゃあ、雅美君。ママのところへ、帰れる?」
と、正美は雅美君に聞いてみる。
「うん。分かったよ。ママが大変な日は、そっとしておいてあげるように、僕も気を付けるよ。」
こたえる彼は、子どもなので確実性はないが、でも、なにか感じてくれたような表情をしていた。小さな子供には、わかるというより、感じるほうが、記憶に残りやすいものだ。だから、悪いことを感じてしまうと、それがなかなか取れないというのは、そういう事なのである。
「じゃあ、おばちゃんが連絡してあげるから、ママの電話番号か、なにか持ってないかな?」
「うーん、住所ならわかる。」
と、雅美君は答えた。まだ幼稚園児なので、電話番号をしっかり記憶できなくても仕方ないと思った。雅美君の教えてくれた住所を、正美はスマートフォンを出して、しずかに打ち込む。住所アプリは、確かに、吉原にある一軒のアパートを示した。携帯電話は登録していなかったが、固定電話の番号が書いてある。では、ここに電話をしよう。
でも、雅美君のお母さんが迎えに来てくれた時、自分のことを何て言ったらいいか、という不安がふっとよぎった。自分は、精神障碍者だし、リストカット痕を、刺青で消している。そういう事に偏見のある人も少なくないだろう。雅美君のお母さんに、感謝される確率は、限りなく低いだろうな、と思った。意外なことであるが、精神障害というのは、なかなか自覚がしにくくて、他人がそうであっても、自分はそうではないと勘違いしてしまう、障害者も多いのである。
「おばちゃん、電話なら、僕がするよ。近くに公衆電話があるから、それでかければいいじゃないか。
それに、僕のママの携帯番号は知らないけど、家の番号は知っているから。」
と、雅美君が、自分の顔を見てそういった。確かに、公衆電話は、このショッピングモールの正面入り口付近に一台ある。
「本当?大丈夫?おばちゃんが付いていこうか?」
と、聞いてみたが、雅美君は、男の子らしく逞しい顔つきでこういうのだった。
「大丈夫だよ。僕、おばちゃんから教わったことを大事にするよ。おばちゃんの事は、おんなじまさみ同士の秘密にして誰にも言わないから。本当に今日は、教えてくれてありがとう。」
これなら、公衆電話のところへ行かせても大丈夫だな、と、正美は思った。
「おばちゃん、ありがとう。ラーメンおいしかった。」
そう言って、椅子を降り、公衆電話の方へ静かに歩いていく雅美君を、正美は、にこやかな顔をして見送った。
ふたり 増田朋美 @masubuchi4996
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