第5話 ビハインドレディ
「ふぅ…」
謎のロボットが消えていった奥の部屋で、ヨトギは赤いクローゼットの前に寄りかかり、その体重を預けると安堵の溜息をついた。
「人生の先輩と話すのはやっぱり緊張する。慣れないなぁこれだけは。」
「良かったと思うよ、威厳あったよ」
決して大きいとは言えないクローゼットから聞こえる澄んだ声。ヨトギが中から取り出したのは黒ずくめのボディスーツ。各関節部には排気口のようなものが取り付けてあるが、そのシルエットはスマートだ。右肩に描かれたショートヘアの女性、横顔のアングルでその表情までは分からない。ヨトギはこの女性に向かって会話を続けた。
「それにしてもソノハタさんはよっぽど行き詰まってるらしいな。」
「ヨトのこと詮索しなかったもんね、ノッカーのことも聞かなかったし、知ってるのかなノッカー…」
「あの話しぶりだと漠然としか理解してないと思うよ。非合法の危ないやつだって感じじゃないかな。間違っちゃいないね。でもあの人は依頼人としてはとても良い人だと思うよ。だからセーフゲートでお帰りいただいたよ。」
「今回の依頼どこまでやっちゃう?」
「判断に迷うね。アオちゃん今の研究が楽しすぎるみたいで聞く耳もたず。ソノハタさんの報酬価値もまだ分からん。当面は情報収集かな。」
「それにしてもこの案件…産業スパイからの倒産なんてありがちだと思うんだけど、ミト婆がパスさせたのは…」
「俺も考えてたけどね。アマカゼって人がキーではなさそうな感じ。ってことは同業者絡みだよね。しんどいなぁ。」
「オーバーノックね」
「かなり軽めのね。ソノハタさんに渡した携帯とのリンクは…」
「もう繋いでるよ。真っ直ぐ例の小屋に帰るみたい。コンビニに寄ったかな。900円はあるもんね。」
「異常があれば教えてね。そういえば予備バッテリー渡し忘れたな…。メイは引き続き依頼人のチェック継続とソノハタさんの会社に関する情報拾っといてくれる?」
「うん、いいよ!」
「メイと出る機会は先かもだけど準備はしといて。ソノハタさんがいる周囲1キロメートルのマップ更新もお願い。」
「うん、いいよ!」
「さて本部報告とノックダウンの申請準備ぐらいはやっとこうかな…この事務手続きがなきゃ一層頑張れそうなんだけど。もっと非合法で行きたいもんですわ…」
「仕事があるのは良いことだよね。メイはぶつくさ言わないよ。」
クローゼットの向かいにある古風なデスク、その側に立つコート掛けにボディスーツを置き、デスクチェアーに腰掛けたヨトギの前に、再び出現した巨大掃除機を模した謎のロボットは、熱いコーヒーが入ったカップを二つ置いて立ち去った。
ワールドノック 《人生詰みに詰んだ人達が訪れる最期の駄菓子屋》 うさだいふく @dondokodonbei
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