人生ハードモードのクリア特典・後編

 私の名前は黒石千早。平和な日本で生まれ育って女子高生をして生きていたのに、何の因果か異世界に召喚され、勇者となってしまった。


 異世界にある、とある国が行った勇者召喚というものに選ばれ、連れてこられた。気が付けば私は勇者にされていた。拒否する事も出来なかった。しかも、敵の魔王は何処に居る? と聞けば、魔王なんて居ないと言われた。それじゃあ私を呼び出した目的は何なのか、何を倒せば良いのか聞けば、敵国の人間を殺してこいと言われた。


 何じゃそりゃ、勘弁してよと思ったために、隙を見て私は逃走した。もちろん召喚された国から兵隊が派遣されて私は追われるようになったから、必死に逃げた。でも勇者として呼ばれた時にナニカされたのか、身体能力が馬鹿みたいに上がっていた。だから逃げ切ることが出来た。


 逃げて逃げて逃げ切って、辿り着いた先は奴隷民領地だと聞いていた場所だった。私を召喚した国が殺してこいと命令した、標的の人たちが住んでいる場所らしい。


 そんな事情があり、呼び名を聞いていて、関わり合いになりたくはないかも、その場所は通り抜けようかなと思っていた。


 けれども、コレまた何の因果か兵士たちに追われて、関わり合いになりたくないと思っていた場所へ逃げ込むことになった。


 この土地で奴隷をさせられている人たちが住んでいるのかな。敵国の人間らしいしどうしようかな。


 私を異世界に召喚した国の人間に捕まって無理やり殺人をさせられるぐらいなら、ここに住んでいる奴隷たちと一緒に暮らすほうがまだマシだろうか。なんて、失礼でネガティブことを考えながら来てみたら、想像してた場所とはぜんぜん違っていた。


 住んでいる人たちは普通の格好をして、普通に生活している。街の中にあるお店で出してくれる料理は美味しいし、宿屋はキレイだったし、そこに住む人間が皆とても優しい。まさか、こんな人たちを殺せと言っていたのかあの国は! と怒りながらも久しぶりの平和なひとときを過ごすことが出来た。


 で、やっぱり領地を管理している責任者がやって来た。たぶん、勝手に土地に逃げ込んで、引き連れてきてしまった追手が、ここの領地に迷惑かけているんだろうな。私は、説明しないとイケナイなと思って責任者と面会した。


 思いの外、若い人間が責任者として出てきて驚いた。驚きながら互いに自己紹介。彼の名前は、ルンメ様と言って学生をしながら、次期当主として能力を高めるために領地の運営を勉強中らしい。


 私が逃げ込んだばかりに、彼に悪いことをしてしまったなと思いつつ謝罪をして、経緯を説明。すぐに厄介事として領地から追い出されてしまうだろうなと思ったら、なんと彼は私を助けてくれるという。


 しかも、住む場所まで用意してくれた。


「なぜ、私なんかを助けてくれるのですか?」

「僕は、困った人間を見過ごせなくてね」


 私は、異世界に呼ばれてから初めて涙を流しながら本心を打ち明けて、彼に助けを求めた。


「分かった。助けよう」


 涙を流して助けを求めたのは良いけれど、私のせいで戦争が始まるかもしれない。色々と最悪な可能性を考えて、沢山の人々が犠牲になることを想像して絶望した。


 けれど、ルンメ様は私を召喚した国と交渉を初めて、どうやったのかは分からないけれど、私という勇者を管理する権利を奪ってきた。それに加えて、もう二度と勇者召喚をしないように確約させたらしくて、あの国にあった勇者召喚するための方法を残らず破棄させたという。


 全て、彼が解決してしまった。本当に嘘偽りなく、助けてくれたルンメ様。


 普通の女子高生だった私は突然、勇者にされた時には絶望しか無かった。けれど、ルンメ様に出会えたことは一生に一度の幸運だったと思う。この幸運だけは絶対に、逃がさないように今後は生きていくことを私は、誓ったのだった。



***



 前世の記憶なんてモノが僕の中に残っていた。その記憶のおかげで僕は、今最高に幸せな人生を送っている。前世で経験した非常に辛い過去、どうしようもないと絶念してしまったあの時の事を思い出すと、今世は必死に生きようと自然に思える。


 前世の苦労は買ってでもせよ、という事だろうな。そんな僕は、新しい人生では色々な事に挑戦してきた。


 奴隷と呼ばれている不幸な人たちを助けた。

 王妃様になるはずだったが婚約破棄されてピンチに陥っていた女性を助けた。

 前世の世界から、召喚されて強制的に勇者を任命されて困っていた女性も助けた。


 僕は彼ら、彼女らのような不幸な状況に置かれている人間に手を差し伸べ、助けずには居られなかった。僕が不幸のどん底で助けを求めても誰も助けてくれなかった、あの時に感じた絶望感を味わうような人間を1人でも減らしたいが為に。


 幸い今の僕は、前世に比べていくらか容姿も優れているし、ちょっぴり運も良く、頭も多少は良くなっていた。不幸の人々を助けるための余裕もあって、助けを求める人々を救うための方法や武器も多く用意できた。


 最初に僕が手を付けたのが、奴隷制度だった。父を説得して領地の一部を借りた、その領地を運営するために注目したのが奴隷たち。あのように大量の人材を、無駄に力仕事にしか配置しないのは勿体無いと思っていた。彼ら彼女らを引き取ってきて、一番輝ける仕事に配置し直した。


 その中には、根っから奴隷根性が染み付いていて、力仕事だけしかやりたがらない人たちも居た、けれど極力希望を聞いて適切な仕事場に配置していった。


 このようにして彼らに正しい仕事を与えて、人間としての尊厳を守りつつ、幸せな生活を送ってもらうように努力した。


 結果、奴隷を迎え入れることで領地が上手く栄えていった。


 適切な仕事場に人々を配置することで、信じられないような能力を発揮させ活躍をして、優秀な人間も見出すことが出来ていた。彼らが頑張ってくれたおかげで、更に領地は栄えていった。


 特に、エリスという優秀な人間が僕の仕事を手伝ってくれて、手に入れた利益は次々と領民にも還元することができた。奴隷と領民とのバランスを取りつつ、全員の理解を得ながら、さらに奴隷たちを集める。いつかは奴隷という身分も取っ払って、この地に住む人間全員が幸せに暮らせるようにするのが目標だった。まだまだ、理想到達まで遥か遠い。だが、いつかは到達してみせる。


 そんな風に、領地運営を頑張っている最中に起こった出来事が、王子の暴走による婚約破棄騒動だった。



 僕が通っていた学園で催されるパーティーに参加していた僕。


 目の前で婚約破棄を言い渡され、混乱していて、何かしでかしそうで危うい女性を慌てて抱き止める。王子の側に立つ女性に手を出していたなら問題になっていた所、間一髪で何とか止めてセーフ。


 だが不用意に、王族関係の面倒事に首を突っ込んでしまった。これは失敗したかもしれない、と思ってしまった。でも、助けを求められたので最後まで面倒は見よう。


 王族である王子に目を付けられてしまい、ヤバイ状態になるだろう。だから、先に色々と手を回そうと思って動き出そうとしたのに、気が付けば王子側に否があったとその国の最高権力者である王様から謝罪の言葉を頂くことになった。首を突っ込んだ面倒事は不問となった。


 ついでに、ベアトリスという見目麗しい令嬢とお近づきになれた。




 それから、一番最近の出来事といえば勇者を領地に迎え入れたこと。


 どこからかやって来たのか、見たこともない衣服を着た女性が宿に居るという情報を聞いて、諜報部に調べさせていたところ、どうやら他国で召喚された勇者だということが判明した。まさか、異世界からの勇者召喚というのがあるなんて知らなかった僕は、勇者の下へ興味本位で見に行ってみることにした。


 どうやら、ちょうど我が領地に来ているみたいだったので、すぐに出会えた。


 薄汚れて所々が擦り切れているセーラー服を着た女性。詳しく話を聞いてみると、僕の記憶にある前世に近い世界。現代からやって来たという女子高生。彼女は、涙を流しながら助けを求める声を聞いて、僕はすぐに行動する。


 我が国の王様に協力してもらって、隣国との交渉席を用意してもらう。その席で、色々な切り札を使って隣国から勇者を管理する権利と、異世界から勇者召喚の方法を全て破棄させた。二度と異世界から勇者が召喚できないようにして、他にも勇者召喚という拉致行為として問題になりそうなモノを探る事にした。見つけたら、なるべく早く破棄して異世界との繋がりを断っていく。色々と危ないから。


 それから自由になったチハヤには、これからどうやって生きていきたいかを聞いてみた。すると、やりたいことは見つかっていないという。とりあえず今は、僕の側に居たいと言ってくれたので、しばらくは我が領に滞在する予定としてもらった。



 その後、いろいろな出来事がありつつ助けを求める人達を救っていった。



 仕事は楽しいし、妻も子供も出来た。このように、前世では考えられないぐらいに幸せな生活を送っている。




【短編】人生ハードモードのクリア特典

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054893302153

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キョウキョウ短編集 キョウキョウ @kyoukyou

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