人生ハードモードのクリア特典・中編

 私は貴族として生まれた貴い人間だった。しかし、私の父がとある貴族に騙されて家は没落させられて、私は奴隷に貶されてしまった。


 女であるという事実から、男の欲望を解消するという性的な仕事をさせられる奴隷にされると知って絶望した。そんな時に、私は助けられた。私を死ぬよりも苦しく、酷くて、無慈悲な世界から救ってくれた男性の名はルンメ様。


 彼は、人の不幸を嘆き悲しみ、人々を助けたいと願った。その手段として世界中の奴隷を買い集めた。そして、集めた奴隷たちを彼は人として向き合い能力を調べて、その人間の適性を知って、適切な仕事を与えた。


 常識的に考えれば、奴隷には農作業や建築のための資材集め等の領民にも任せない力仕事しか割り振られない。だがしかし、ルンメ様は奴隷にも能力があるのならば、身分も関係なく知的な仕事を割り振った。


 例えば、教会の聖職者に、法律に関わらせる法曹家に、そして領地の責任も重大な運営に関わらせたり、果ては医者という高度な知識を必要とする職業に就かせた。


 私は、集められた奴隷の中の一人としてルンメ様の持つ領地に集められた。そしてすぐ、ルンメ様お付の秘書官として仕事を任されるようになった。秘書官という仕事は、領地を運営する責任者に補佐として付き従い、領地の運営に関する様々な仕事に携わる重要な立場だった。


 ルンメ様は、学生をしながら既に一部領地の運営を任されていたため、私が過去、奴隷になる前には貴族としての教育を受けていたため知識があり、彼の補佐に手助けできると私が選ばれた。


「ルンメ様、今日はこの資料の確認からお願いします」

「あぁ、うん。ありがとう。エリス」


 私が差し出した紙を受け取りながら、ルンメ様は立派な貴族らしい、柔らかな笑顔を向けてくれた。彼の眩しい笑顔を見守りながら、助け出された恩を還すために私は一生を彼のために捧げようと決心して、彼に尽くしていった。



***



 大人たちが話し合って決めた予定に沿って、私は小さな頃に王子と婚約を結んで、そして将来は王妃となる予定の人間だった。


 しかし、ある日の学園で催される一年に一度のパーティーでの出来事。貴族の子はもちろん、親である貴族当主達が多数集まる場所で、声高々に王子から私は婚約破棄を言い渡された。


 王子から投げられた言葉に私は最初、混乱した。そして次に、王子から強烈な言葉を吐かれて、なじられて頭が真っ白になっていた。反論することも出来ず、王子から数々の言葉を叩きつけられたが耐えた。その時になって、王子に寄り添って立つ名も知れない女性を見つけた。


 私は、無意識に目に入ってきた彼女の首に手を伸ばそうとしていた。殺意があったのかもしれない。気がつけば、ルンメ様に後ろから抱きしめられていた。


 その頃は、それほど親しくもなかったルンメ様。けれど、学園では武に優れ、知に優れて、品格に溢れる高貴な人物として有名だった。私は彼のことを一方的に知っていた。けれど何故、私はそんな人に抱きしめられているのかという疑問。


 後になって聞いた話だが、なぜ抱きしめてきたのか本人に理由を聞いてみるた。


 私の顔色は真っ青で、目が据わっていて、空中に浮かぶ腕が王子に寄り添う女性の首がある位置に伸ばされていた。なにか良からぬことをする前に、慌てて腕を掴んで止めようとしたらしい。


 私の身体が、ガタガタと震えているのを接触した手から感じた。それでなんとか、抱きとめて落ち着かせようとしてくれていた、とのこと。


 あの時は、落ち着かせるためとはいえ、婚前前である女性を許可もなく抱きしめてしまい、大変申し訳なかったと謝られた。だが私は、迷惑だなんて追わもず、むしろルンメ様に優しく抱き止められたことを嬉しく思っていた。そして感謝していた。



 それからパーティー会場で怒った出来事の続きについて、私をルンメ様の腕の中に抱きしめながら様子を眺めていた。


 ルンメ様は王子に対して厳しい目を向け、何故このような貴族たちの集まる場所で婚約破棄を言い渡したのか、問いかける。王子の判断で手続きもせず周知もしないでいきなり行動するのはどうか。多くの人が集まって、視線を向けられているるなかで女性に対して、あのような非難の言葉を浴びせるのはいかがなものか等など、王子を強く批判していた。


 ルンメ様の行動で王子が逆上、王族に逆らった事を後悔させてやると言い放った。ルンメ家からは領土を取り上げると息巻いてパーティー会場を後にした王子と女性、その取り巻きたち。ルンメ様は、不敵な笑みを浮かべながら彼らを見送っていた。


 その後、私の父も結婚破棄の顛末を聞いてネヴィル家とルンメ家が連合を組んで、王族と対立するという状況になっていった。


 もう少しで、王国対ネヴィル家・ルンメ家連合とが内戦に突入するという緊張状態になって、状況は一変する。


 結婚破棄に至る原因が、王子の側で寄り添い立っていた女性にあったと判明。


 その原因が彼女の虚偽にあったらしくて、私はありもしない濡れ衣を着せられて、王子に悪感情と不信感を抱かせていたそうだ。


 もちろん、王族を騙すという罪によって名も知れない女性は不敬罪によって徒刑に処されたと聞いている。


 あれから王子から復縁を求める手紙を何度も頂いているが、父親を経由して復縁は断っている。勘違いしていたとはいえ、婚約破棄されたという事実は消えない。王族という立場から言い渡された、破棄の言葉は簡単に撤回することは出来ない。


 ましてや、あんなに貴族の集まる場所で言い放たれた言葉だった。無かったことには出来ないだろう。そう言い訳をして、あの王子との縁を断ち切ることに成功した。


 結局、私は婚約者を失ってしまった。で、今は何をしているかと言うと。


「ルンメ様、お茶のおかわりをどうぞ」

「ん? ありがとう、ベアトリス」


 読書中のルンメ様と、ゆったりとした午後のひとときを一緒に過ごしている。


 あの婚約破棄の騒動があって以来、縁ができた私とルンメ様。親同士が協力して、一時期本気で王族打倒のために連携をして動いたために娘、息子の私達も自然と仲が深まっていった。


 現在は、私の方から男女の関係に発展させられないかと、アプローチをかけている途中であった。ルンメ様は、気づいているのか、いないのか。


 こうして私は、新しい目標を持って、今を楽しく生きていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る