第5話 その果てに

「喜ぶはず、ありませんよ」

「……えっ?」


 城谷昇は硬直する。

 そして、胸に刺さった剣を見る。氷柱のような透明感のある、レイピアのような細い剣を。


「……いつ……のまに……」

「答える義理はありません。あなたは力を暴走させた愚かな人。ただそれだけです」


 そして瞬く間もなく、剣が抜かれる。

 城谷昇は地面に倒れるまでの間、自らを殺した者を見た。


 彼の目に、氷のような水色の髪、目が鮮やかな赤色の女――私が映る。


「……その……かお……かきの……さん……」


 髪色、目、服装があまりにも現実離れをしているにも関わらず、彼は犯人の正体に気付く。そして、ゆっくりと口角を上げた。

 目を伏せ、ぽつりとつぶやく。


「ごめんなさい。そして、おやすみなさい」


 彼の傷口から、氷の蔓が伸びる。瞬く間に体を覆い尽くし、最後に一輪の花が咲いた。


 天使から与えられた力。それが覚醒し、暴走することを〝魂の昇華(リインカーネーション)〟と呼ぶ。

 彼は暴走の結果、〝罪を集める渦〟から〝罪禍〟……罪そのものに変化した。


 放っておけば、城谷昇は間違いなく魔王と呼び得る存在になっていた。彼の能力は、決して罪を犯したものを裁く物ではない。

 〝罪を犯したと認識した相手〟に対して発動する。

 つまり誤った法を作り上げれば、正しい行いをしている人間をも殺す事が可能なのである。


 凄惨な死から転移した私は〝悪魔〟と契約し、この世界へと戻ってきた。

 〝天使〟の悪行を阻止するために。


 人は欲望の肥大化を、理性で抑えることは難しい。特に〝力〟に慣れていないこの世界の人間は特にだ。城谷昇も一度誤れば、大都と同じ力を使い私を襲う可能性もあっただろう。


 それを知っていて、天使は人に力を与えている。そして齎される悲劇を、彼らは娯楽として観劇している。 


 私の使命はそれを根絶すること。

 私のような運命を、誰にも巡り会うことがないように。


「魂の昇華の果てに、救済を」


 私の死体があった場所……始まりの場所を一瞥してから、その場を去る。

 世界に広がりつつある悲劇の幕を下ろすために。

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勇者転移《リンカーネイション》の果てに 天ヶ瀬翠 @amagase_sui

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