第8話 バカな犬どもへの追憶

 我が家では、犬を2頭飼っていた。僕は幼かったので、飼っているというよりも同居していたという表現が正しいかもしれない。


 2頭ともボーダーコリーで、片方は普通によく見るボーダーコリーで名前はジェマ、もう片方はブルーマールという毛色で、見た目がごま塩だったのでゴマという名前だった。2頭ともメスで、賢く優しい良い犬だった。


 で、こいつらの伝説をいくつか紹介させてほしい。


 まずジェマから


 家の置物がうんちから綺麗になって出てきた。


 おちんちんを舐めてきた(前話参照)


 人に媚を売るのが上手で、一時期行方不明になっていた時期、ご近所のお家で飼い犬の如く可愛がられていた。


 私が小学5年生の時、朝、学校へ向かっているとジェマらしき犬が歩いていた。だがおかしい。ジェマは父親の家にいるはずだ。何となく声をかけてみると、にへらと笑いはっはっはっと近づいてくるではないか。

 ジェマだった。脱走したのかお前。

 一先ず学校まで引っ張っていって、友人に学校の外で犬を見ててもらい、学校の先生に事情を話して電話を借り親に連絡。親が来るまで校門の前で犬と待機し、次々にやってくる生徒に変な目で見られ続けた。

 暫くの間、学校内で我が家の犬は伝説になった。


 ジェマは人に媚を売るのが上手で、近所とか僕の友人周りで人気者だった。

 ある日みんなで犬を連れて遊びに行った際、ジェマはみんなに囲まれてモフられていて上機嫌だった。

 すると突然、輪から外れて、遠くで座ってみていた僕の方に歩いてきた。僕の目の前で座って撫でろと催促する。

 なんだ、僕が良いのか。

 一応、同居人として認められている気がしてうれしかった。



 続いてゴマ。

 

 ゴマは性格がなかなか皮肉れていて、誰にも懐かない性格だった。


 僕が幼いころ、トミカやプラレールで遊んでいると、絶対にそのトミカとプラレールを奪っていくのだ。

 プラレールを走らせていると、まるで流しそうめんを待っているかの如くレールの側に座って、電車が来るとがぶりと噛みついて脱線させる。

 幼い僕は、日々彼女と戦っていたのだ。


 ゴマはボールが好きで、ボーダーコリーの性格らしく、とにかく執着心が強い。

 で、ある日川遊びに行くと、自分でボールを川に落とし、追いかけて泳ぐも取れず、ふと足が底に着かないことに気づくと必死の形相で戻ってくるのだ。

 あれは……アホだった……。


 思えば、ゴマは伝説があまり残っていない。活発な性格ではなかったし、人に懐かなかった。


 2頭飼っていると、動物でも性格や顔つきが全く違うとわかる。


 特に、性格の違いは死に際に現れたと思う。


 ジェマは家族全員集まるまで意地張って生きて、みんなの前で天国へ行った。


 ゴマは、真夜中にひっそりと一匹で天国へ行った。


 こいつららしいな、とふと思いながら。


 親の離婚があって離れ離れになってしまったけれども、週に一回、月に一回会いに行くのが楽しみだった。

 思い出して泣きながらキーボードをたたいている。

 奴らは幸せだっただろうか。

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俺の人生どうすりゃいいんだ 竜田川高架線 @koukasen

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