水流

ナナシイ

水流

○S01 A宅

日中。

机に倒れ伏すA。傍らには睡眠薬と水の入ったコップ。

A、眼を覚ます。頭痛を示す。

隣に女の子が立っているのを見つける。

A「君、誰?」

B「目が覚めた? さ、行こ」

A「どこへ?・・・おいっ」

B、無視して外へ出ていく。A、後を追う。



○S02 屋外。小さな水路の横道。

Aは水路から可能な限り離れる。Bは水路から離れたり近づいたりする。

歩きながら、

A「どこへ向かってるんだ?」

B「そのうちわかるよ」

A「君は、誰なんだ?」

B「それもそのうちわかるよ」

B、振り向く。

B「ね、それよりさ。あなた、何か覚えてる?」

A「・・・何も、覚えていない」

B、微笑する。


○S03 部室。

部室の前

B「まずはここかな。」

B、鈴を取り出す。鈴をAの目の前で振る。

映像を切り替えB、いなくなる。

A、部屋に入る。

座敷に座るC。AはCに向かって歩く。

C『新入生?初めまして。よろしくね』

握手するために手を出す。コップが倒れ、水が流れる。

再び画面切り替え。

B、部室内を見回っている。

B「見終わった?じゃ、次行こうか」

A「今のは?」

B、応えずに部室から出る。A、後を追う。


〇S04 川の横道。

AとBが歩いている。

B、立ち止まる。

B「次は、この辺か」

B、Aの前で鈴を振る。

Aの前をCが歩いている。

C『ねえ、私川が好きなの。川を綺麗に撮りたいの。あなたは?』

Cが振り向こうとする。鈴が鳴る。

Aの前にBがいる。

A「これは、俺の記憶なのか」

B「まあそうよ。さ、次行きましょ。」


〇S05 川

B「ねえ。」

A「何だ。」

B「川ってさ、最後は海に注ぐじゃない。」

A「ああ。」

B「じゃあ、その道中に何の意味があるんだろうね。」

A「はあ。」

B「壁にぶつかって、右に曲がったり左に曲がったり、右往左往。道が狭まれば細くなるし、広がれば太くなる。川からすれば偶然そこに道があっただけ。なのにやたらと動き回る。途中の道に振り回される続ける。でも結局最後は海。初めから決まっていたかのように海に入っていく。まるで振り回され損じゃない? 初めからまっすぐ海に行けばいいのに。」

B「あ、ここだ。」

B、地面を指差す。

B「ほらここ。ここに立って。」

A、指定の場所に立つ。

B「いくよ」

B、鈴を振る。

画面切り替え。Cが川べりにしゃがんで、川を覗いている。

C『ねえ、私が死んだら川に流してくれる?』

C、Aを見る

C『どうしたの、そんな顔して。冗談よ、まだ死なないわ』

鈴が鳴る。

A「なあ、あいつと俺は・・・」

B「ま、それはわかるでしょう?・・・行こうか」


〇S06 川

B「ところでさ、あなた川で何か思いつく?」

A「何かって?」

B「こう、龍とか河童とかそういう空想上の何か、とか。」

A「ああ。……三途の川とかか。」

B「……そう、あなた分かってるじゃない。」

B、微笑。

B「三途の川と言えばさ、賽の川原ってあるじゃない。」

A「石を積む話か。」

B「そう。健気よね、何度も何度も何度も。結局、菩薩が来なきゃダメなのよねえ。」

A「はあ。」

B「それにしても、三途の川って渡ろうとする必要あるのかな……ま、それはいいか。」

B「よし、次はここ。ほら、ここに立って。」

A,指定場所に立つ。B、鈴を振る。

Aの前にCが立っている。

C『この川は、どこからきて、どこへ行くのだろう・・・』

C、俯く。

C『私、海へ行けるのかしら・・・』

C、Aを顧みる。

C『何か言って・・・』

鈴が鳴る。

A「彼女は・・・」

B、笑みを見せる。



〇S07 Aの自宅。

自宅前。

A「次は俺の家か」

B「そう。入りましょ」

AとB、中に入る。

B、Aを促しテレビの前に立たせる。

B、鈴を振る。

部屋が暗くなる。テレビの前にCが座っている。

C『駄目だわ・・・私、駄目なんだわ・・・』

鈴が鳴る。部屋が元に戻る

B「次は風呂場。」

風呂場の前で鈴を鳴らす。

Cが風呂の中にいる。A、それを見下ろす。

C『ねえ・・・・好きよ』

A、Cを風呂に沈める。


〇S08 川。

車のトランクからCの遺体を取り出すA。

A、Cの遺体を川に流す。

鈴が鳴る。

Aの後ろにBが立つ。

B「これで終わり」

A「ああ・・・」

B「ショックだった?」

A「いや・・・」

B「どこかで気づいていたんでしょう?」

A「・・・」

B「最後の場所、行こうか。」


〇S09 海。

B「ここがあなたの終着点・・・いえ、開始点かもね。この高さならちゃんと死ねるでしょ。」

A,下を見る。

A「・・・結局、お前は誰なんだ。」

B「ああ、気づいてないの。海に行き損ねた人がいたから案内しに来たのよ。仕事でね。」

B、笑う。

B「さ、行って」

A「ああ」

A、眼をつむる。

地面を蹴る音。風を切る音。海にぶつかる音。


S10 ED

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水流 ナナシイ @nanashii

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