第17話 第3章第1節1項:死の受容第1~3段階
ここではE.キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間』(川口正吉訳1971)を参考に、死に直面した人の心境の変化を整理する。それをもとに、賢治が最期にどのような心境の変化を迎えていったかを作品や手紙、絶詠をもとに考察していく。はじめに、キューブラー・ロスが同書で提唱した死の受容の5つのプロセスを整理しておく(45)
・第一段階:否認と隔離
自分が死ぬなんてありえない、その告知は嘘であるなど、余命宣告やがんの告知に対して否認する動作を取るのが第一段階である。告げられた事実に対するショックが大きく、自己防衛装置として否認という手段が使われるとキューブラー・ロスは述べている。
否認は、予期しない衝撃的なニュースを聞かされるときの緩衝装置として働くのである。否認によって、患者は、崩れようとするみずからを取りまとめ、やがて別の、よりゆるやかな自己防衛法を動員することができる。 (46)
・第二段階:怒り
否認がショックから身を守る防衛機制の働きをすることは先に述べたが、その次に現れる反応は怒りである。短すぎる余命や重病は自分のことではないという否定の後に起こるのは、なぜ自分がこんな目に合わなければいけないのかと考えることである。この怒りは、例えば見まいに来る客、医師、世話をしてくれる看護師など目につくものすべてに向けられる。
・第三段階:取り引き
ここで患者が取り引きするものは、病気についての色々な苦労を我慢するから、またきちんと治療を受けるから一日でも長く生きたいといったものである。
患者は過去の経験からして、良い振る舞いをすればそれだけの報償があり、特別サービスへの願望がかなえてもらえる、かすかなチャンスがあることを知っている。
特別サービスへの願望とは何か。それはほとんど常に延命の願望である。 (47)
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(45)キューブラー・ロスは、
「わたしたちは、これまでのところ、人々が悲劇的なニュースをつきつけられてから経過するいくつかの異なる段階―すなわち、精神医学用語でいう防衛機制(自分の置かれている極度に困難な情況にどう対処するかの仕方)について論じてきた。これらの手段が持続する時間はいろいろと異なって一定しない。かつそれらは交錯し、またときによって相並んで併存する。だが通例、これら諸段階をとおして常時維持していくひとつの流れはきぼうということである。」
(キューブラー・ロス 1971 p.172より)と述べており、この5つのプロセスは必ずしもすべての患者がこの順番を通るわけではないことを、全段階を説明した後に断っている。
(46) E.キューブラー・ロス 1971p.67より
(47)同上p.117より
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