第9話 第2章第2節2項:グリーフワークについて

 次に、グリーフワークという概念について、森省二『「別れ」の深層心理』(1993)より、グリーフワークと、それに至るボウルビィによる別れの基本モデルの3つの段階を順に解説していく。(22)

 ボウルビィ「別れの基本モデル」3つの段階とは、イギリスの児童精神分析医であるボウルビィが、典型的な別れの過程を乳幼児が母親から引き離される事態から以下の3つの段階に分類したものである。 (23)


 1. 抗議:対象(母親)と離れたことが信じられず、別れた対象を必死になって取り戻そうとする無意識的願望が強く、現実に激しく抗議する段階。

 2. 絶望:別れた対象との再び結びつこうとする試みとできない失望の繰り返しから次第に現実を認識し始めて、心が一時的に解体し、激しい絶望感が襲う悲哀の段階。

 3. 離脱:対象に興味を失って忘却したかのようになり、やがてそれに代わる新しい対象を発見してそれと結合することで心を再建する段階。


 森は続けて離脱の状態について以下のように補足している。


 この「離脱」の状態は、ときどき回復の兆候(サイン)と誤解されることがある。ところが、必ずしもそうではない。母親が施設に訪ねてきても、「母親を歓迎するどころか、ほとんど母親を知らないかのように振る舞う。母親に抱き着くどころか、離れた場所に留まり、まったく無感動のまま」だからである。 (24)


 この別れの3段階を行う過程が、「喪の仕事(モーニング・ワーク)」、

また「悲哀の仕事(グリーフ・ワーク)(25) 」であると森は解説している。


「喪の仕事」とは、定義的に言えば、人間が愛着や依存する対象と別れ失った結果として起こる心の中(精神世界)の変化過程のことである。人間はその過程を経ることで徐々にその対象から精神的な離脱をはかり、再び心の安定を獲得して日常生活の平静を取り戻す方へと向かってゆく。その心の作業が「喪の仕事」である。ちなみに、その意味とフィーリングの良さから「悲哀の仕事(作業)」と訳されることがある。 (26)


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(22) 森 1993 pp.129‐132を筆者要約

(23)森 1993 p.131表1を筆者要約

(24)森 1993 p.130より(カッコは筆者による)

(25) 日本語訳は鵜野祐介 『昔話の人間学 いのちとたましいの伝え方』 

   ナカニシヤ出版 2017 2版 p.60より

(26)森 1993 pp.143‐144より

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