史上最大のセパラトゥス
「そろそろ、目ぇ開けたらどう?八雲。」
瞼に、光が差し込んだ。
目に映った色は紫色、青空。
そして、聞き覚えのある声が耳に入る。
私は何とかして重い上半身を起こした。
辺りには、無数のラベンダーが生えていた。
見渡す限り紫色の花々が広がり、
優しい香りが辺りを包む。
「全く、世話が焼けるんだから。」
そう言いながら誰かが近づいてきた。
見覚えのある顔だった。
「・・・姉さん。」
姉さんは私に手を差し出す。
姉の手を借りて、淡い香りのした地面から私は起き上がった。
爽やかな風が吹いていた。
何処までも広がる綺麗な青空。
澄んだ空気。
自然の優しい一面。
「このままあそこに居続けると、いずれ死んでしまうところだった。
空や星が影でくすんだ場所では、私たちは生きられない。
辛かったでしょ?」
姉の発した言葉に、
私の記憶が、断片的に蘇り始めた。
吸い込まれた記憶、冷たい地面の記憶、形の無いものとぶつかった痛い記憶。
確かに辛かったかもしれない。
確かにあった記憶のはずだけど、何故だろう。
もう遠い昔のような錯覚を覚える。
「八雲は怪物に取り込まれかけて、その意識を並行した世界に断裂的に飛ばされて、
永遠と見まがうような体験をした。
いずれ本来の姿さえ忘れ、世界に完全に取り込まれて、その世界にすら完全に忘れられて、終わる。
思い出せないことも、幸せかもしれない。」
「・・・・・。」
「行こう?八雲。
本来私たちのいるべき場所へ。」
「私は・・・」
私は言葉を紡いだ。
「私は・・・・・残りたい。」
「え?」
「私、あの世界に残りたい。」
ありのままの言葉を、声に出した。
「どうして?あんな地獄のような場所に・・・」
「友達が・・・友達がいたんだッ!!」
断片的に思い出す。
暖かい記憶。
楽しかった記憶。
辛かった記憶。
懐かしい記憶。
思い出。
「大切な友達がいたんだ。色々な世界で出来た友達が。
本音で話し合える、分かり合える友達が。
どんな世界でも変わらなかった友達が・・・。」
「・・・・・。」
「何度忘れても何度も作り上げたあの場所が・・・
私にとって大切な場所だったんだッ!!
だから姉さん、私をあの場所に帰してッ!!」
「・・・残念だけど、それは出来ない。」
「なんでッ」
「八雲は自分の体を犠牲にしてまで幾つもの世界を終わらせてはまた始めようとした。
並行して何十もの世界を生き、自分の記憶をリセットしてまで、何処までもデウスエクスマキナであり続け、沢山の人間の人生を観測し続け、生きながらさせ続けた。
そろそろ・・・終りを認めなければならない。」
「・・・・・ッ」
「八雲、永遠なんてないんだ。
必ず終わらせなければならないものだってあるんだ。
続けることによって苦しんではいけない、苦しませてはいけない。
過去で自分を縛ってはいけないんだ。」
「じゃあ・・・私はどうすればいいんだッ
別れもまともに言えちゃいないのに・・・辛いよ」
「過去は・・・思い出になる。
前へ進むための力になってくれる。
思い出を忘れない限り、八雲の友達は・・・きっと。」
視界がぼやける。
目を拭うと、手から冷ややかな感触が伝わった。
姉さんはハンカチを差し出してくれた。
永遠の別れ。
私は遥かなる世界へと、さよならを言葉にする。
先程まで生きていた世界に、無限とも言える長い時間を過ごした世界に。
友に。
ありったけの涙を流して、あとはもう振り向かなかった。
優しい風が流れていた。
まるで私の背中ををそっと押しているような感覚さえ覚えた。
メッセージを送ろう。
思い出へ、遥かなる星より愛をこめて。
灼星のアストロワン ナナノマエ・ミツル @super-jiro777
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