灼星の使者

 七星牧は、街に現れた巨影と、その後ろにあった夕焼けを覗いていた。

いつかどこかで見たような、懐かしい感覚が湧き上がる。

「師匠?」

夕凪ミナミは牧に声を掛ける。

牧はあえて振り向かなかった。

もしかしたらもうここで終わってしまうかもしれない。

目を離した隙に何もかも無くなっているのかもしれない。

そんな気がして、不安で、振り向くことが出来なかった。

「師匠?」

ミナミは牧の横顔を覗く。

ミナミは後に、牧がどこか寂し気な表情をしていたと述懐した。

牧が向いていた方向を見ると・・・何故だろう。

自分が何処か、寂しさを感じていることに違和感を感じた。

見覚えのないはずなのに・・・どうして。

夕焼けは徐々に沈んでゆく。

「さようなら、八雲。」

牧は心の中で呟いた。


「世界の終る時も、このような風景になるのでしょうか。」

アパートを出たばかりのブバスティスの背後で、アイリーンはそう言った。

「夕焼けはラピッドエネルギーの光か、あるいは遥かなる星の光か。」

「恒星の正体を疑うとは、変わった女だ。」

ブバスティスは言った。

「万物に終わりはつきものだ。

ラピッドエネルギーがこの世界から消えるとき、

それこそこの世界の一つの終りともいえる。

ゲームオーバー・・・だ。」



微かな沈黙があった。

二つの巨影が静止していた。

一方の巨影は不定形。

黒く、禍々しく、しかしどこか懐かしさがあった。

もう一方の巨影はヒトガタだった。

ラピッドエネルギーという物質で構成され、

かつて人々からは、アストロワンと呼ばれていた。

巨影どうしはやがて、互いの方向に向かって進みだした。

それは約束された衝突。

影と影は宙を舞い、互いに激しくぶつかり合った。

不定形は触手を伸ばしヒトガタの首を狙う。

しかしヒトガタは自らの手から生み出した刃物で不定形の触手を刈り取った。

度に地が揺れる。

ヒトガタは不定形に向かい拳を放つ。

しかし効果はない。

ヒトガタの腕は不定形に飲み込まれそうになるがすかさず左手から生み出した刃物で難を逃れた。

正に一触即発。

夕焼けは徐々に沈んでゆく。

ヒトガタは脇腹から先端が鉤状のチェーンを発射した。

鉤は不定形を貫通する。

しかし、チェーンには不定形の身体から生成された触手が絡みついていた。

ヒトガタは脇腹のチェーンを強く握り、身体を左に傾かせた。

足を左右移動させ、チェーンを遠心力で回してゆく。

一度チェーンに絡まった触手はそのまま離れず、そのまま不定形の身体はチェーンによって宙を舞った。

ジャイアントスイング。

回す。

回す。

回す

回す。

何回も。

何回も。

何回も。

何回も。

そして突如として、ヒトガタは脇腹からチェーンを引きちぎり、

空に向けて異形を放った。

宙に舞う不定形。

すかさず、ヒトガタは手の平から刃物を生成しては空に向けて放った。

全てが不定形に命中し、その体はバラバラに粉砕されてゆく。

そして落ちる体躯を目掛けて、ヒトガタは拳を突き出した。

ヒトガタの右腕に、ラピッドエネルギーが渦巻いた。

破壊光線だった。

ラピッドエネルギーを変換させて放つRAY。

不定形に直撃し、そのまま茜の空に消えた。

ヒトガタは風景に取り残された。

世界にいるのが自分だけのような、錯覚。

ヒトガタの背中に、突如として翼が生えた。

ヒトガタは、まるでピアノ線でつるされているように、

空へ空へと消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る