Part:F
狙われないセカイ
1967年。
推し進め過ぎた科学の代償に気づき始めた時代。
ノスタルジーと闘争の時代。
面影。
夕焼けの差し掛かる風景が、ここには残されていた。
失われた場所。
どこかくすんだ空さえも、思い出として美化された、
茜色の街。
ニトクリス・・・もとい、ブバスティスはアパートの廊下を歩いていた。
先ほどからドシン、ドシンと、地や窓が震える音がしていた。
とは言っても耳障りに感じるわけでもなく、それすらも風景の一場面として記憶されている。
ブバスティスは奥の部屋に向かう。
窓から差し込む茜色の光。
今は空っぽの街。
ブバスティスは扉の前に立ち、ドアノブを回した。
カシャリと音がして、そのまま部屋の方へと力を向ける。
そこにはやはり、香りが存在していた。
畳、その上に置かれた卓袱台、座布団、冷蔵庫、ブラウン管、そこから発せられるノイズ、影、光。
部屋その物が醸し出す独特な香りは、永遠にここに存在するかもしれないという錯覚を覚える。
もしかしてそれは、あながち間違ってもいないモノかもしれないのだけれど。
また、ドシンドシンと、地が揺れる。
ふと部屋のノイズが止まって、管楽器の音が聞こえだした。
音のした方を覗くと、何故だろう。
いつの間にかブラウン管が2つに増えている。
一つはモノクロの画面を映し出していた。
黒色の渦巻きの上に白い文字。
文字は「Nyarlathotep」と書かれていた。
もう一方のブラウン管はカラーの画面を映し出していた。
青や赤、黄色など色鮮やかな渦の上に、白い文字が映し出されていた。
文字は「灼星のアストロワン」と書かれていた。
ブバスティスはそれを確認すると、部屋を開けたまま去っていった。
部屋に残された影は、どこか悲しい表情をしていた。
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